「あてててて。あーもう、市ヶ谷のやつぅ。相手に怪我させないのも、レスラーの仕事のうちでしょーに」
前月──2月の最終戦、六角葉月&ビューティ市ヶ谷組VSチョチョカラス&マイティ祐希子組で行なわれたメイン戦は、結果こそ祐希子が市ヶ谷を沈めたものの、その代償に祐希子は短期間ながら病院通いを余儀なくされたのだった。 *17
「病院って苦手なのよね。特にこの、待合室で待たされるのとかがさ」
「あの。もしかして、マイティ祐希子さんじゃないですか?」
「え?」
横合いからかけられた声。祐希子が目を向けた先には、小柄な少女が診察の順番を待っていた。ファンの子か──とも思ったが、どこかで知っている顔な気もする。
「あれ? ひょっとして、あなたもレスラー? TVか雑誌かで見たことがあるような……」
「はい! 私、新日本女子の菊池理宇っていいます! こんなところで祐希子さんと会えるなんて……お会いできて感激です!」 *18
「か、感激って。照れるなあ、もう。あたし、まだそんな立派なレスラーじゃないし」
「なに言ってるんですか! チョチョカラスさんとのタイトルマッチ、TVで見ましたよ。それ以来、目標にさせてもらってるんです!」 *19
感激だの目標だのと言われるのはむずがゆかったが、祐希子も悪い気はしない。それから二人は、お互いが怪我の診察を終えるまで、自分の団体のことなどを話し合った。
「あ、ところでさ。パンサー理沙子さんって元気?」
「え? はい、元気ですよ。ついこの間の試合でも、吉原さんからNJWPヘビーを奪ってアジアヘビーを返上したくらいですもん」 *20
「そっか。元気なのね。ふーん……」
「……? 嬉しそうですね、祐希子さん?」
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