2月も半ばを過ぎ、WRERA女子プロレスにおいて、ほぼ一年ぶりとなる入門テストが実施された。 *8
団体の将来を占う、極めて重要な行事ながら、社長と霧子は緊急の用で欠席。
進行や合否判断は、葉月を始めとする選手たちの手に委ねられたのだが……
「で……祐希子。お前を事務所に呼んだわけは、わかるな?」
「うーん。この前のバレンタインのお礼、くれるとか?」 *9
「3月まで待てっ。そうじゃなくて、入門テストの話だ。六角から聞いたが……やってくれたらしいな、まったく」
入門希望者は八名だったが、そのうち一人が、なんと「選手との試合」を希望。
それを祐希子が快諾してしまい、あまつさえその子を失神KOまでしたものだから、残りは揃って顔面蒼白で戦意も喪失。
七名とも何とかテストは続けたものの、とても合格させられない成績に終わったのだ。
「えへへ、ごめんね。でも、あの子がどうしても試合したいって言うんだもん。あたしはその願いを叶えてあげたかったのよ」 *10
「……募集要項にこっそり『希望者は試合も可』なんて書き加えて、霧子くんから大目玉食らったのは、どこの誰だ? あれを見てなかったら、その子もわざわざ来なかったと思うぞ」
「あれ? 社長。あの子、来ない方が良かったの? 合格にしたんでしょ?」
「合格は合格だが……腕試しの挙句に失神KOさせられたんだ。入ってくれるわけないだろう?」
ほとんどの者が、社長と同意見だった。
遠方から腕試しに来た結果が惨敗では、恨むにしろ、自信喪失するにしろ、この団体を選ぶとは思えなかった。だからこそ──
「あんた──来たのかい?」
意外な再訪に目を丸くする葉月に、数日前にここで失神KOさせられた少女は、怪訝そうな顔で問い返した。
「合格通知を受け取ったのですが。何かまずかったでしょうか?」
「いや……そうじゃないけどさ」
「あー! やっぱり来てくれた! 桜井千里ちゃん、だよね!?」
「はい。お世話になります、祐希子さん」
二の句が継げない葉月からタッチ交替した祐希子に、千里は丁寧に頭を下げた。
「あの時は、ありがとうございました。借りは、そのうち返させてもらうつもりです」
「ふふ、いいわよぉ。できると思ったら、リングの上で返しにきなさいな。待ってるからね」
「──ええ。私は、必ず強くなってみせますから……」 *11
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