4月のスレイヤー・レスリングは、本拠地・兵庫にて大一番を迎えた。 *4
ローズ・ヒューイット&ジャニス・クレアに、ブレード上原&サンダー龍子のタッグが挑む、GWAタッグ王座選手権。
団体初の世界タイトルを手中にできるかというのはもちろん、挑戦者たるブレード上原とサンダー龍子にとっては、別の意義も持つ試合であった。
同月に制定を発表した、団体最高位となるスレイヤー無差別級王座。
上原と龍子には、二人が勝てば、このベルトの王者決定戦を二人で行なうという話が事前に伝えられていたのである。 *5
そして、27分48秒。ブレード上原のフランケンシュタイナーによって、GWAタッグベルトは見事に挑戦者組の腰に巻かれたのだが──
「団体王座の決定戦は白紙!? どういうことだよ、社長!」
「約束を破るようですまんが、まだ時期尚早ということだよ。今の君ではな」
先のGWAタッグ戦、龍子はヒューイットに歯が立たず、ほぼ上原の独力で勝ったようなものだった。 *6
上原と龍子の間には、まだ大きな実力の溝がある。社長と井上が前言を撤回したのは、そう判断した結果だという。
納得いかない龍子は上原にも相談するが、上原の反応は龍子を冷たく突き放すものだった。
「今のあんたじゃ仕方ないでしょ。誰が勝つか決まってるタイトルマッチなんて、やる意味無いんだから」
言葉の意味を正確に把握するだけの時間を置いて、龍子は息を引いた。その全身を包む怒気が静かに膨れ上がる。
「随分と……言ってくれるじゃないか、上原さん?」
地の底から響くような声。それを真正面から受け止めた上原は、不敵に微笑んだ。
「あんた、私に勝てるって、本気で思ってるの?」 *7
「………!」
いきがってみても、実力の差は大きい。突きつけられた冷徹な現実に押し黙る龍子に、しかし上原はむしろ優しく語った。 *8
「思うに、社長や井上さんは、あんたに期待してるのさ。だから、私とヒューイットでの決定戦じゃなく、ベルトを空位にしておく。それだけ見込まれてるってことなんじゃない?」
上原の指摘は的外れではなかった。
ただ、社長や秘書の井上にとって一番重要だったのは、あくまで性急に決定戦を行なうことで大きく損なわれる、龍子と団体ベルト両方の「商品価値」だという点を除いては。 *9
「傷のついた宝石は輝きを失い、それは取り戻せん。次代のエースもベルトの権威も、大切に守らんとな……」
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