《GWAタイトルマッチ、まもなくゴングです!
史上稀に見る美しいバラ。そのバラの鋭い棘を知りつつ牙を剥くのは、若手最強・サンダー龍子!
果たしてこの龍は、雲を得て天に飛び、ブレード上原の待つ高みに手を掛けることができるのでしょうか!?》
「その程度の高み……そろそろ手ぐらいは掛けてもらわなければね。予定が狂うというものよ」 *9
「──何の予定が狂うって? 井上さん」
リングを見下ろす関係者席。
不意に掛けられた声に、社長秘書・井上は動揺を隠しながら振り返った。
「上原さん……珍しいわね、あなたがここに来るなんて」
「たまには、リングサイドや控室のモニタ以外で見るのもいいかなって。で、何の予定が狂うんです?」
「……団体王座戦のマッチメイクです。ここまで引っ張ったんですもの。年明けには、あなたと龍子さんの二人で雌雄を決してもらいたい。社長も、そうお考えよ」
「社長が、ですか。まあ、そうなんでしょうね」
その口調に当てこすりめいた影を感じて、井上はリングに戻していた視線を再び上原に向けた。
「何か、不満でも?」
「いえ、そういうわけじゃないんですけどね。──っと、始まりますよ」
ゴングが鳴った。
大歓声の中で序盤から激しくぶつかり合う、ローズと龍子。
歯が立たなかった半年前に比べ龍子の成長は著しかったが、それでも相性は龍子が悪い。
パワー勝負は龍子が上だが、ローズも対処は知り尽くしており、一方でローズが得意とするスピード・跳躍系の技は、龍子が不得手としている分野だ。 *10
ほぼ互角に進んでいた試合の明暗を分けたのも、やはりその点だった。
終盤、ローリングクラッチホールドを2.8で返した龍子だったが、隙を突かれたフェイスクラッシャーで額から流血。目に血が入り視界が悪くなった影響か、逆転を狙ったラリアットも返され、最後は容赦ない再度のフェイスクラッシャー。
「──有名な言葉でしょう? 『美しいバラにはトゲがある』って」
興行は10,000席を札止めにする大成功だったが、龍子にとっては悔やんでも悔やみきれない、26分29秒間の戦いだった……。 *11
「残念でしたね、井上さん」
「そうね、上原さん。龍子さんも悔しいでしょうね。残念だわ……」
「違いますよ。龍子と私の一戦のほうが客が呼べただろうに、てね」
「……上原さんっ?」
「それじゃ、ヒューイットと私での団体王座決定戦、よろしく。約束通りにね」
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