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序章


新日本女子プロレスに入門した千種とめぐみは、社長の近藤と選手の管理役の佐久間理沙子から、先輩レスラーたちの紹介をうける。

IWWF世界ヘビー級シングル、タッグの二冠王者、マイティ祐希子。
IWWF世界ヘビー級タッグ、アジアヘビーの二冠王者、ボンバー来島。
IWWF世界ジュニアヘビー級王者、菊池理宇。
アジアタッグ王者、越後しのぶと永原ちづる、
といった現タイトルホルダーだけでなく、他にもビューティ市ヶ谷、南利美、山田遥、チェルシー羽田、小沢佳代、小川ひかる、キューティ金井、富沢レイ、といったレスラーたちがひしめき合い、しのぎを削っている環境。

その中で、二人はまずデビューを目指しての身体作りを始めた。


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「あー、疲れたわぁ…! こんな事ばかりしてて、あたしのこの、バランスのとれた美しいプロポーションが崩れたりしたらどーしよ?」

「…めぐみったら意外とナルなのね。でも、先輩達って、やっぱりすごいよね! あのトレーニングの後でご飯、バクバク食べてたし。あたしなんか、胃がうけつけなかったよぉ」

「うん、あたしもだよ…あ〜あ、こんなにキツイならテストに受かったからってレスラーなんかになるんじゃなかったかなぁ…」

「…なっちゃいない、なっちゃいないわよ、武藤!」

「わ!? え、越後さん、いきなりなんですか?」

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「練習がキツイなんてのは当たり前のこと。それに、仮にも新女の入門テストをパスしたのなら、耐えられないキツさじゃないはず…全く、なっちゃいないわね!」

「そ、それって、あたしに根性がないとでも言いたいんですか? 越後さん!」

「おや、よく分かってるじゃないの? 迷惑なのは私達なんだから、しっかりする事ね。…それがイヤならプロレスを辞めること! 分かったわね?」

「な、なんだと! 待てよ、おい!」

「や、やめなさいよ、めぐみぃ」

「…みてろよ、越後ぉ〜! あたしは絶対に辞めないからな!」


越後との件で発奮したから、というわけでもないだろうが、一月ほど経って先にデビューしたのはめぐみだった。

少し複雑な気持ちになる千種。しかし、わずか 1シリーズ後に彼女もデビューを果たし、めぐみと二人で先輩たちに追いつき追い越すことを目指す。

そんな彼女たちにとって、メインイベントのセコンドにつくのは絶好の学習機会であったのだが…


「きゃあ!?」「わぁ!?」

《おおーっと、ここでビューティ市ヶ谷、マイティ祐希子を場外に放り投げたぁ! セコンドの若手選手が何人か巻き込まれたぞぉ! さらに、ビューティ市ヶ谷、自らも場外に降りてきたぁ!》

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「あ、あなた達、どいてっ! …市ヶ谷ぁ、あんた、よくもやってくれたわねっ! この、爆裂タカビー女ぁ!」

「なんですってぇ! この、ど田舎娘がよくもぉ! ちょっと、おどきなさい! あなた、ジャマでしてよ!」

「あ、ちょっと…」

「ええーい、おどきっ!!」

「うわぁっ!?」

「め、めぐみぃ!?」

《場外ビューティボムだあぁ! ビューティ市ヶ谷のそばにいた若手選手が場外ビューティボムの犠牲になったぁ!》


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「……う、うーん…?」

「あ、めぐみ! 大丈夫、ねえ?」

「う、うん、なんとか…ちょっと吐き気がするけど…」

「あのね、先生がさっき診てくれたんだけど、いちおう病院でも検査してもらえって…めぐみ?」

「千種…あたし…くやしいよぉ。いきなりだったけど、あんな簡単にやられちゃって…くやしいよ…」

「めぐみ…」

「…千種、強くなろうね…!」

「う…うん!」


決意を新たにした二人の頑張りぶりに、新女フロントはメキシコへの遠征を検討する。しかし、その定員は一人。

試金石としてそれぞれに挑ませたアメリカの若手レスラー、アニービーチとの戦いの結果、選ばれたのは武藤めぐみだった。

「おめでとう、めぐみ! メキシコでもがんばってね! …でも、めぐみがいなくなっちゃうと、ちょっと寂しくなっちゃうなぁ」

「ちょっとの辛抱だよ、千種。すぐにビッグになって帰ってくるから!」

「あたしも日本でがんばる! めぐみが帰国してきたとき、どっちが強くなってるか競争だよ!」


メキシコの地でめぐみを待っていたのは、新女との縁も深い、デスピナ、リタ、チョチョカラスらAACのルチャドーラたちだった。

特にチョチョカラスは、持ち前の負けん気と天性のバネでルチャのマットにもすぐに馴染んだめぐみに、ただならぬ興味を抱いた。

1-7

「フフフ…面白いガールね…気に入ったわ。ヘイ、ジャパニーズガール!」

「な、なによ!?」

「今日はナイスファイトだったわ。さすがニュージャパンレディーね。AACメキシコヘビー級チャンピオンとして、あなたに非常に興味がわいてきたの」

「?」

「…ムトウ、あなたをメキシコヘビー級王座次期挑戦者に指名する!」

「え…え〜っ!?」


一方、その頃日本では…

「富沢さん。練習の後、ヒマだったらバッティングセンター行きませんか?」

「結城ってば、野球好きよねー」

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「…やれやれ、あなた達、遊ぶことには一生懸命なのね。まだ半人前のクセに」

「…ムッ! 越後さん。まじめに練習した後に何しようが、あたし達の勝手じゃないんですか?」

「結城…あたしが言ってるのは気を抜いた練習はどんなにやっても無意味ってこと! そんな事じゃいつまでたっても前座のままよ、わかってるの?」

「あたしはちゃんと気合い入れてやってます!」

「なるほどね…結城、それじゃあたしと勝負してみる? あなたが負けたら、気合いを入れて練習をやり直してもらいましょうか」

「い、いいですよ。越後さんが負けたら…そうだな、バッティングセンターをおごってもらおうかな」

「…わかった、バッティングセンターだろうが何だろうがおごる! さあ、リングに上がりな!」

実力は越後の方がまだ何枚も上。しかし、半人前相手にお灸をすえようという越後の思惑が驕りとなり、油断を生む。
3カウントを聞いたのは、越後の方だった。

「ま、まさか!?」

「へへへ…さあて、越後さん? あたしの勝ちですよねぇ」

「…わかってる、私に二言はない! それじゃ、早いトコ着替えていくか!」

「え? あの、どこ行くんです?」

「バッティングセンターだろ? おごってやる。その代わり、私もやるぞ!」

「別にお金くれるだけでもよかったのに…もしかして向こうでも勝負する気じゃ…」


──千種が格上の越後に勝てたからといって、めぐみが勝てるという保証は無い。ましてや、格上と言っても越後とチョチョカラスではまた格が違う。

それでも、めぐみはあくまで勝つ気でリングに上がったのだが…

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「ムトウ! 私の、メキシコの女王の力をみせてあげる。全力でかかってきなさい!」

「…なんだ、あたし緊張してるの? タイトルマッチだから? ええい、負けてたまるか! カラース! あんた、マットに沈めてやるよ! カンペキにね!」

…そして、めぐみは、善戦したものの最後はカンペキに、マットに沈められた。


めぐみのタイトル戦結果は、半ば当然のことゆえに新女内でもあまり話題にならなかった。

それでも千種は大いに刺激を受け、今まで以上にトレーニングに励んでいたのだが…

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「ちょ、ちょっと、結城! 大変よ、大変なことが起こっちゃったのよ〜!」

「富沢さん? 何ですか大変なことって。とにかく落ち着いて下さい…ハイ、お水です」

「いいから聞きなさいって! いい? これって誰にも秘密なんだけどさぁ、あの市ヶ谷さんが…新女を辞めちゃったのよ!!」

「ホ、ホントですか!?」

「それだけじゃないのよ! どうやら市ヶ谷さん、新団体を作るみたいなの。もう、何人かあっちに移る事を決めたそうよ!」

「ちょ、ちょっと待って下さい! 市ヶ谷さんだけじゃなく、他の人までって…新女は一体どうなるんですか!?」

「どうなるって…あたしの方が知りたいわよ。…あ、ちづるだ! ねーねー、ちづるぅ! これって誰にも秘密なんだけどさぁ…!」

「これから、どうなるんだろう。めぐみ…」


市ヶ谷による新団体設立と新女選手の大量引き抜きは新女に大打撃を与えた。

その穴を埋めるべく遠征選手にも帰還要請が届き、めぐみはメキシコを後にすべく慌しく空港へと向かっていた。

「…さてと、受付はどこだったかな?」

「あなたのチケットならここにあるわよ、ムトウ」

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「チ、チョチョカラスさん!? どうしてここに?」

「フフフ、仮にもアナタは私とタイトルを争ったレスラー。見送りに行くぐらい当然の礼儀だと思ったのだけど、迷惑だったかしら?」

「と、とんでもないです! わざわざありがとうございます!」

「アナタには天性の才能があると私は思ってるの。次に会う時が楽しみだわ。アディオス、ムトウ!」


メキシコを発っためぐみは、千種の待つ日本へと向かう。
しかし、二人の再会が意外なほど先になることを、二人のどちらもまだ気づいてはいなかった…


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