4月のスレイヤー・レスリング興行は、GWAタッグ王者である上原と龍子が、遠征防衛戦のために不在。 *5
そのタイミングを狙ったかのように、ワールド女子の十六夜、南、滝が一方的に参戦を表明してきた。狙いはもちろん、奪われたままの団体王座──WWPAヘビー級ベルトである。 *6
ただ……迎え撃つスレイヤー・レスリングの面々の反応は、特に若手を中心に、いささか冷めたものだった。
「ひゃーはっはっはっ! あいつら、またノコノコやってきやがったぜぇ!? 何度やっても出血が増すだけって、いい加減悟れってんだよなっ!」
「クックック……まったくだよ。ブスのザコが何人集まったって、私の引き立て役にしかならないのにな?」
……と、大口を叩いたライラと千春が、どちらも仲良くミシェール滝に20分足らずでひねられたのは、さておくとして。 *7
《お待たせしました。本日のメインイベントは、ワールド女子の希望に応えた WWPA王座戦!
ワールド女子の新鋭、南利美の挑戦を受けて立つのは、ドリュー・クライ瞬殺劇も記憶に新しいWWPA王者、フレイア鏡! *8
両団体の「関節の女王」が顔を合わせた、マニア垂涎のこの試合。 果たしてどんな結末が待っているのか!?》
「極めたら折るわ。 その覚悟を持って、リングに上がることね」
「ウフフッ。いきがるところは、まだまだお子様ね。かわいがってあげますわ」
ゴングから数分。
互いに探り合うようなエルボーやショルダータックルの散発的応酬で始まった試合を動かしたのは、“関節のヴィーナス”の二つ名で呼ばれつつある、南の方だった。
「この技に、耐えられるかしら!?」
はかったように──いや、おそらくは本人の計算通りに──リング中央でダウンさせた鏡を捕らえて繰り出された、南必殺のネオ・サザンクロスロック。
「知ってる? サブミッションは……人を壊す技なのよ?」
軋みを上げる関節。フレイア鏡の白い美貌が醜く歪み──はしなかった。
眉をひそめ、しかし苦痛の表現をただそれのみにとどめ、微笑みすら浮かべて呟く。
「そんなこと、知ってますわ……!」
ロープに助けを求めず、鏡は自力で南の技を外した。
驚愕を隠せない南を平然と見返す鏡。
しかし、その足はわずかに引きずられ、ダメージが小さくないことを示している。
関節技勝負では、南は間違いなく手ごわい相手だった。
それならば、関節技以外で勝負するのが、鏡の戦い方だ。
「覚えておきなさい? 人を壊すにはね……こういう方法もありますの!」
タックルに来た南を外して間合いを取ったところで、すかさず繰り出された踵落とし──クレッセントヒールは鏡の十八番。
たまらず膝をつく南を強引に起こしてのフロントスープレックス、さらにはダイヤモンドカッターが、南を激しい音とともにマットに叩きつける。
それでも、ニ撃目のクレッセントヒールからの片エビ固めは、南が何とかロープブレイクで凌いだ。だが……
「ウフフッ。無駄なあがきは……苦痛を長引かせるだけですわよ!?」
大きく振りかぶって放たれた、三撃目のクレッセントヒール。
それに耐えるだけの力は、もはや南のどこにも残っていなかった。
「私の相手をするのは、早すぎたようですわね?」
終わってみれば、わずか10分。正確には9分47秒で、鏡はWWPAヘビー二度目の防衛を果たしたのだった。 *9
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