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10年目1stQ (4〜6月) Part2 〜 さよならお姉さん 〜

《目次っぽいもの》
さよならお姉さん:行けるか否かお姉さん最後の戦い画竜点睛親友タッグの想い[SL,WR] − 注釈?



5月の神戸。 *a1
団体選手一同宛に届いた一通の『招待状』によって、スレイヤー・レスリングのトレーニングジムはちょっとした騒ぎになった。

「えーっ、WRERAの興行で石川先輩の引退式っ!?
なんでウチの団体じゃないのっ? どうして、ドウシテ! ケルちゃん、どういうこと!?」

「いやまあ……そりゃあちょっと、ウチでってわけにはいかねぇんじゃねえかと……」

一年先輩(しつこいようだが年は三つも下だ)の永沢舞に矛先を向けられ、ケルベロス小鳥遊はいつものように苦笑を返した。

龍子と石川の退団がすでに過去形として彼女たちに告げられたのは、三ヶ月前。

詳しい事情は公表されなかったし、それを知っていそうな一部の先輩たちも多くを語らなかったが、双方丸く収まる円満退団だと信じている人間は、少なくとも選手の中には一人もいなかった。
小鳥遊2p 永沢

「…………行くっ」

「えっ?」

「行くに決まってる! キマッテル!
私たち、石川先輩と龍子先輩にお別れもしてないんだよ!?
WRERAの最終戦、絶対に福岡まで観に行って、お疲れさまの花束とか渡すんだから!」

「そりゃ、私もそうしたいのはヤマヤマなんすけどね……」

渋い顔をした小鳥遊が、ずっと左手に持っていた一枚の紙を持ち上げた。
永沢に見える向きに持ち替えて差し出したのは、興行の日程表だ。

「困ったことに、その当日はうちの和歌山大会で、翌日は朝から大阪のドーム。
まさかみんなで興行すっぽかすわけにも……」

「…………殴りこみっ」

「えっ?」

「WRERAに殴りこみ参戦するの、スルノ!
そーゆーことにすれば、全員は無理でも三人くらいは WRERAの方に行けるでしょ? ね?」

「ところが、だ。 残念だがその手も封じられちまったぜ、永沢」

永沢と小鳥遊を振り返らせたのは、先輩・村上千春の声だった。
その後ろに続いてジムへと入ってきたのは、さらに大先輩のフレイア鏡。
一見して意外な組み合わせだが、れっきとした NJWPタッグ王者のコンビである。

「私らも二人で抜け駆け──じゃなかった、社長に確認しに行こうとしてたんだけどな。
先手打たれたらしく、掲示板に貼り紙が出てやがった。
今月の他団体興行参加は、中森の日本海女子参戦に決定、他は認めない……だってよ」

「えーーーーっ!? そんな、ひどい! ヒドイ!」
千春

「ま、大方、あの性悪腹黒女秘書の入れ知恵だろーさ。
まったく、ムカツク話だぜ」

「……と言ってる割には笑顔なんすね、千春先輩」

「おっ、なかなか鋭い指摘じゃないか、小鳥遊?」

あからさまなニヤニヤ笑いをさらに深めて、千春は肩をすくめた。

「これで、私ら全員が引退式に顔出したりしたら、さぞ悔しがることだろうってな。
そう考えると楽しくって楽しくって。 だから意地でも行ってやる。 そのための策は……」

「さ、策はっ?」

「策は──あるんだろ? 鏡先輩?」

まさかのフリに、身を乗り出していた永沢と小鳥遊がつんのめった。

何とかバランスを取って顔を上げた二人と、ニヤニヤ笑いのまま「頼りにしてるぜ」と目で訴える千春の三人分の視線が、一点で交わる。
その一点、フレイア鏡は、彼女にしては珍しい、色気も何も無い溜め息をついた。

「ハァ……すっかり策士か何かにされてしまいましたわね。
まったく困ったものですわ……私にどうしろとおっしゃるのかしら……」 *a2

そのあまりの悄然ぶりに、三対の視線、特に千春のそれが、不安げに揺れる。
それを待っていたかのように、
フレイア

「──まあ、策というよりアテ、アテというより奥の手はあるのですけれど。
ただ、さすがに奥の手だけあって、成功率はあまり高くなさそうですのよ。
だから、あまり期待なさらないでくださいね? ウフフッ……」

鏡は、これぞ彼女と言える、この上なく妖艶な笑みで、長い銀髪をかきあげたのだった。




石川

《──石川涼美、ルミー・ダダーンから3カウントぉ!
引退を前にしても、やはり強かった前・NA世界タッグ王者!
今、リング上でベルトを手に、パートナーのサンダー龍子と固く抱擁を交わしあっています!》

5月の WRERA興行は、石川と龍子以外にもワールド女子から寿、南、十六夜が参戦。
元・WWPA王者の石川はワールド女子と縁深いこともあって、石川 VS 十六夜など往年の名勝負を彷彿とさせる試合も組まれた。

ただ、やはり石川にとって第一は龍子とのタッグだ。
IWWF-T

祐希子&来島組や、現・NA世界タッグ王者の市ヶ谷&千里組との勝負には敗れたものの、第五戦では IWWFタッグ王座を賭けての一戦で、王者・モーガン&ダダーン組に勝利。 *b1

石川は最後のタッグ戦で、見に来てくれたファンとパートナーの龍子に、輝くベルトを巻いた姿をプレゼントしたのだった。

「……ちなみに最終戦、石川さん最後の試合は、私こと富沢との TTT王座戦でした。
で、でも、今回のは成瀬が面白がって決めたんで、私が言い出したんじゃないからねっ!
自分でゆーのもなんだけど、私は『最後にあんなベルト賭けるのは石川さんに失礼だ』って止めたんだから! なのに、石川さんが意外にノッてくれちゃって、だから仕方なく……!」

「……しのぶちゃん、レイちゃんは誰に向かって話してるんだにゃん?」

「さあ……。まあ、あいつがおかしいのはいつものことですが……。
おーい、富沢! 早くしないと石川さんの引退セレモニー始まるぞ!」 *b2




石川

「笑顔でお別れしたかったんですけど……。
無理、みたいです。 ぐすっ……」

5月某日、夜の福岡、九州ドーム。
リングに上がった石川涼美が声を詰まらせると、超満員の観客は暖かい拍手でそれを補った。

WRERAの選手たち、中でも彼女と死闘を繰りひろげた選手たちが代表して彼女に花束を渡し、ワールド女子の南や十六夜もそれに加わる。

申し分のない立派な引退セレモニー。
しかし、そのプロデュースの一端を担った WRERAのクラリッジ成瀬は、満足の笑みではなく不満の渋面を作っていた。

「……やっぱ、無理やったんかなぁ。
そりゃあ全員は無い思うとったけど、何人かは来るんやないかと期待したのになぁ……」

このステージに欠けた点睛が、石川が長年所属していたスレイヤー・レスリングの選手たちであることは明らかだった。

それでも、興行も引退式も大成功という事実をもって、ここは良しとすべきか……と成瀬が自分を納得させかかったところで、それは起きた。 いや、襲ってきた。

「オーッホッホッホ! 引退セレモニーとやら、終わらせるにはまだ早いですわよ!」

「わ、わぁっ!? なんや!?」

謎の高笑いと会場の一角にともされたスポットライト。
自分の演出には無かったサプライズイベント発生に成瀬は慌てて視線を送り、半ば想像していた通りの顔を見つけて蒼白になった。

「……市ヶ谷先輩!? な、なにをするんや! 全部ぶち壊す気かいっ!?」

WRERAに入って日の浅い成瀬だが、市ヶ谷の傍若無人な武勇伝は、見る聞くだけでなく、すでに何回か身をもって味わっている。
目立ちたがりの市ヶ谷が、他人の引退式の「乗っ取り」に出ても不思議は無い──成瀬がそう考えても、それこそ不思議は無かった。

同様の考えは、観客たちの多くも抱き、それゆえに会場はざわつき、一部ではブーイングの準備すら始められたのだったが、
市ヶ谷

「私という絶対の主役にも、盛り上げ役としての脇役は必要なもの。
いわんや二流の主役のカーテンコールには……多数の脇役が必須ですのよ!」

市ヶ谷の人差し指が示した先、リングにつながる花道の一本に多数のライトが点り、今まさにそこを走る二台の白いリムジンを浮かび上がらせた。

リンカーンのロングストレッチリムジン──リング脇で止まったその扉が開くと、会場中の目が驚きに見開かれた。 誰よりも、龍子、そして石川の目が。

「亜里沙ちゃん、美咲ちゃん、美幸ちゃん、千春ちゃん……他の、みんなも……!?」

「み、みんな、どうやってここへ!? まさか、あっちの興行すっぽかして……」

「オーッホッホッホ! 愚かしいですわね、龍子!
あちらを立てればこちらが立たず、などというのは凡才かつ貧乏人の発想。
このビューティ市ヶ谷の柔軟な発想力と実行力、そしてそれらを支える財力があれば、不可能という文字は辞書どころかネットの検索結果の中にも──」

「みんな、来てくれたんだね! ありがと〜!!」

石川は、居並ぶスレイヤー・レスリングの選手たちの元へ、いきなりのプランチャを敢行した。
慌てて受け止めるかつての仲間たちの手から花束が散り、色とりどりの花が宙に舞う。

その中で仲間たちの笑顔と涙に囲まれた石川の表情は、幸せ、という言葉が何より似つかわしいものに見えた。

「…………。 まったく、人の話は最後まで聞くものでしょうに。
一体誰のおかげで、この大団円を迎えられたと思っているのかしら?」

「──ウフフッ。 石川さんの代わりに、私からお礼を言わせていただきますわ」
フレイア

あら、と意外そうに美眉を寄せた市ヶ谷の視線に、しなやかな歩みでその隣に並んだフレイア鏡が、優雅な会釈を返した。

「私たち皆がこの場にいられるのは、全てあなたのお陰ですものね」

フレイア鏡の「アテ」「奥の手」こそ、ビューティ市ヶ谷の存在だった。

性格的問題はともかく、市ヶ谷財閥をバックに持つ彼女の発想力と実行力と財力は、確かに凡人の及ぶところではない。

もっとも、特に親しくもなければ弱みを握られているわけでもない鏡の一方的なお願いに市ヶ谷が耳を貸してくれる確率は、非常に低かった。
それゆえに鏡は、何らかの取引きの可能性はもちろん、場合によっては彼女得意の“術”の使用も視野に入れていたのだったが……

「率直に申し上げて、あれほど簡単に OKしてもらえるとは思いませんでしたわ。
全員が乗れるチャーター機での往復はもちろん、あのようなリムジンまで。
失礼ながら、どういう風の吹き回しですの?」

「フゥ。 どうもあなた方は、私という偉大なる存在を誤解しておりますわね。
貴き者が下々の者に手を差し伸べるのは、崇高なる義務というもの。
私はただ、神に最も近い存在として、その義務と責任を果たしただけですのよ。
オーッホッホッホ!」

この日何度目かの市ヶ谷の高笑いにも、いまさら鏡は動じない。
しかし、その市ヶ谷が高笑いをおさめ、小さな溜め息とともに石川たちの輪に向けた瞳の色に気付くと、鏡は激しく動揺した。

「……そう。 神に最も近いこの私でも、時の流れだけは戻せませんものね……」

鏡が気付いた市ヶ谷の瞳の色。
その色には、寂寥という名が付いていたのである。

「──鏡さん?」

「……えっ?」

「なにをボーッとしてますの? あなたらしくもありませんわね。
もうすぐ、引退式は終わりますわよ。 石川さんの所へ行かなくて良いんですの?」

「ああ……そうですわね。 それでしたら、お気になさらずとも大丈夫ですわ。
私は、そういうのはガラではありませんもの。 ウフフッ?」

自分のペースを取り戻した鏡がリングの方を見下ろすと、少し不安げにきょろきょろと左右を見渡す石川が目に入った。

何事かと首を傾げた鏡が、石川が自分のことを探していたのだと知ったのは、こちらに気付いた石川が、無邪気な笑顔を取り戻して、子供のように手を振った時であった。 石川

「あ、いたいた〜! やっほ〜っ! 鏡さ〜ん!」

本当に、自分のガラではない。
そう思いながら、鏡は小さく手を振り返して、微笑んだのであった。 *c1




「……ねえ、めぐみ」

「なに、千種?」

「タッグって、タッグチームって……どちらか片方がいなくなっちゃえば、それで解散しちゃうんだよね。 私たちだって、それは同じなんだよね……?」

「……なに、縁起でもないこと言ってるのよ。
石川さんと龍子さん見て感傷的になってる? それとも、遠回しのタッグ解消希望なの?」

「ま、まさか! えっと、ごめんね、別に変な意味じゃないんだからねっ?
ただ、その……今日は、改めて教えられちゃった気がするんだ……」

「教えられた……?」

「うん。 私たちレスラーは、いつまでもリングに上がれるわけじゃないって。
いつ引退することになって、誰かを置いていくことになっても、おかしくないって……」

「…………」

「──ねえ、めぐみ。 私たち、これからも一緒だよね。 でも……。
このまま、今のまま進んでいって……それで、それだけで、いいのかなぁ……?」

「……そうね。 それは、きっと…………」




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■ 注釈(?) ■
*a15月のスレイヤーは、トーニャ・カルロス提携切れ、デニス・ハーン提携、フレイアFC、美沙CM、など。
タイトルマッチは、フレイア&千春の NJWPタッグ七度目の防衛(vs桜崎&美沙)、真田のアジアタッグ八度目の防衛(vs小鳩)、小鳩の TWWAジュニア十一度目の防衛(vs千春)、永沢の JSW七度目の防衛(vsカオス2p)、真田&桜崎の WWPAタッグ三度目の防衛(vsライラ&小鳥遊2p)、がありました。
*a2RIKKA石川の引退に際し、ちょっと暗躍(?)していたフレイアさん。
*b1龍子は二ヶ月の短期参戦。なので、自分での操作はできません。
*b25月のWRERAは、カトリーヌ・チャン提携切れ、ゆっこFC、富沢FC、小縞始球式、めぐみCM、富沢写真集(「すごい」売上げ)、成瀬2p参戦、千種プライベートイベント。龍子とは短期契約(二ヶ月)してます。
タイトルマッチは、IWWFタッグとTTT(富沢が初?防衛)の他に、堀&越後のアジアタッグ十一度目の防衛(vs富沢&来島)、堀のAACジュニア二十九度目の防衛(vs小縞)、千種のEWA三度目の防衛(vs来島)、めぐみのNJWP十度目の防衛(vs龍子)がありました。
*c16月は、スレイヤーで永沢FC、桜崎プライベートイベントその2。恒例のバカンスは行き忘れましたが、興行はお休みに。
WRERAでは市ヶ谷FC(石川引退式での行ないで株が上がった?)、小縞写真集(「かなり」の売上げ)。バカンスでは早くも成瀬2pが登場です。
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