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10年目2ndQ (7〜9月) Part1 〜 みっしょん・いんぽっしぶる 〜

《目次っぽいもの》
みっしょん・いんぽっしぶる@スレイヤー[SL]みっしょん・いんぽっしぶる@WRERA[WR]注釈?



7月初旬。 *a1
スレイヤー・レスリングでは、先々月の「石川涼美引退式騒動」に関するフロントからのお咎めも一切無く、選手たちは安堵と肩透かしと一抹の不安が入り混じった空気の中、今月シリーズの準備にいそしんでいた。

そんな状況下で、後輩の中村真帆とともに社長室に呼ばれたイージス中森。
彼女が緊張と警戒を抱いたのも、ごく自然のことだったのだが……。

中森2p

「世界タッグのタイトルマッチ、ですか!?」

想像もしていなかった話で半ば呆然とした中森に、社長秘書の井上は一見して何の裏もなさそうな笑顔で頷いた。

「ええ。 相手は日本海女子の氷室選手と近藤選手よ。
彼女たちの持つ AAC世界タッグベルトを賭けた試合に、あなたたち二人を──」

「ま、待ってください! いくらなんでもそれは……!」

「あら。 不服なの、中森さん?
我々としては、こういうチャンスを無駄にはしないと思って、あなたを抜擢したのだけど」

井上の冷静な声の中に、幾分からかいにも似た感情が混ざっている気がして、中森は憮然とした。

「その評価は、光栄です。 ですが、いささか抜擢が過ぎるかと。
私も真帆も、まだまだ修行中の身。 基礎こそ十分に身についてきたと自負しているものの、技や駆け引きの面があまりに不十分です」 *a2

「やっても勝てない、と言いたいのかしら?」

「やるとなれば全力を尽くしますし、勝てないとは言いません。
ただ、今はまだ勝率が高くないことも確かですね。 何より、タイトルマッチの実績も無い。
世界を賭けた大舞台で、ファンの皆さんを満足させられる自信がありません」

淡々と自己評価を語る中森に、さしもの井上も苦笑を浮かべた。

「あなたらしい答えね、中森さん。 ただ、何事にも初めてというのはあるものでしょ。
負けたからといってペナルティを与えるつもりもないし、失うものは無いと思って、やってみてはどうかしら」

「はあ……」

まだ逡巡している様子の中森の裾が、つい、と引っ張られた。

中森が顔を向けると、床に座り込んで大判のスルメをかじっていた──今の今まで、誰一人それにツッコミを入れていない──真帆の、不思議そうな瞳と目が合った。
真帆2p

「中森は、真帆と一緒がイヤなのか?」

「いや、そんな理由では……」

「なら、やろう! 真帆はやってみたいぞ!
タイトルマッチに勝てば、チャンピオンベルトがもらえるんだろ?
真帆はそれが欲しい!」

「真帆……」

スルメ片手の真帆が見せた、無防備なまでの無邪気な笑顔に、中森も心を決めた。
ただし、最後に大切な注意をしておくことだけは、忘れない。

「チャンピオンベルトというのは、食べ物ではないよ?」

「え? 違うのか!? おいしいって聞いたぞ?」

やっぱり、という思いとともに、中森は小さく溜め息をついた。

AAC世界タッグ王座戦、氷室&近藤組 VS 中森&真帆組。
AAC-T

多くのファンが、中森と同じ感想・予想を抱いたこのカードには、実のところスレイヤーの社長や井上も、あまり勝利を期待していなかった。 *a3

AAC世界タッグは、かつて WRERAの選手たちが長年保持したベルト。
そのベルトに修行中の若手が挑めば、忌々しい WRERAの権威も少しは下がるかもね──という井上のいささか暗く歪んだ思惑から始まったに過ぎない試合は、しかし彼女の読みすら超える、意外な結果を迎えることとなる。 *a4

AAC-T 真帆2p

「やったぞ! 真帆の実力、思い知ったか!」

「いい仕事ができましたね」

真帆の体力と、中森の粘り。
そして、二人のコンビネーション。

ダブルインパクトの一閃で 47分16秒の激戦を制したのは、ほとんどの下馬評を覆した中森と真帆のタッグだった。

二人のタッグは、これも絶対的不利が予想された翌月のメキシコ遠征防衛戦でも勝利。
意外性溢れるタッグチームとして、一躍世間の注目を浴びることとなったのである。 *a5




7月初旬。 *b1
奇しくも、スレイヤー・レスリングにおいて中森と真帆がタイトルマッチの打診を受けていたのと同じ日に、WRERAの若手レスラー・小縞聡美もまた、社長に呼び出されていた。

「ああ、タイトルマッチですか? はーい、いいですよ〜」

こちらは、社長が詳しい説明をする前に、二つ返事で OKが出た。

これは小縞がウェイトレスとして培ってきたサービス精神の賜物──というわけでもないだろう。

ジュニアレスラーの小縞は、団体の先輩であるテディキャット堀の胸を借りる形で、すでに AACジュニアや GWAジュニアのタイトルマッチを経験している。

まだまだ勝ちを意識できるほど実力が追いついていないのは悔しかったが、「タイトルマッチ」というもの自体への抵抗や恐れは、特に持っていない小縞であった。
だから、

「ほぉ。 いいんだな? やっぱりやめる、とか言うなよ?」

という、人の良い社長にしては珍しくイタズラ心が見え見えの言葉にも、小縞はさほど警戒心を持たなかった。
小縞

「なんですかぁ、社長。 顔が笑ってますよ?
……あっ、もしかして。
今回は堀さんじゃなく、いよいよ千秋さんが相手なんですね?」

堀と同じく先輩である村上千秋は、WWPAジュニア王者だ。
堀と違って「後輩に胸を貸す」タイプでは無いことと、たまたまタイミングがずれたりしたこともあって、小縞はまだ、千秋のベルトに挑戦したことが無かった。

「大丈夫です! ちょっと痛そうで怖いですけど、全然問題ありませんから。
むしろ楽しみですよ〜!」

「……いや。 悪いが、千秋じゃないんだ。 他団体の選手への挑戦だよ」

小縞の笑顔を見てさすがに申し訳なくなったのか、社長は謝るように言った。
しかし、それを聞いた小縞の方は、さらに笑顔を輝かせる。

「ホントですか!? やったーっ!
他団体ってことは、今月参戦して来るワールド女子のキューティ金井さんですよね!
堀さんや千秋さん相手に比べれば、私にも勝ち目がありますよ!
社長、ありがとうございます!」

感謝の言葉には、これも実家のファミレス仕込みか、完璧なお辞儀が付いてきた。
それを前にした社長は、後悔にも似た感情を、引きつった顔に浮かべていた。

「こ、小縞。 あのな……」

「……あれ? だけど金井さんは、今はベルト持ってなかったよーな……」

「小縞……。 なんというか……すまん」

恐る恐る、といった動きで、社長が机の上に書類を出して、小縞の方へと押し出した。
首を傾げた小縞がその紙に目をやり──その動きが、見事なまでに固まった。

WWPA“ヘビー級”王座選手権 : 寿零 VS 小縞聡美──!?

WWPA

「ほら、その、あれだ。
この前、桜井がスレイヤーの森嶋選手からそのベルトを奪っただろ。 あいつは IWWF王座も持ってるから返上したわけだが、そのこともあって、今月は暫定王者の寿選手がウチに参戦してくれてな。 いろいろ考えたんだが、なにかと都合もあって、お前の名が挑戦者に浮上したんだ。 はるかに格上だし、容赦の無いファイトで有名な相手だが、まあこれも経験だと思え。 うん、そうだ、経験だ。 何事も経験だよ、小縞」 *b2

後ろめたさのためか、急に饒舌になった社長の言葉を、聞いているのかいないのか。
小縞はしばらく口を半開きにしたまま固まっていたが、

「……しゃ…………」

「……小縞?」

「社長の……バカぁっ!!」

どこからともなく取り出された銀のトレイが、WRERA社長の頭を一撃した。

「楽勝。無謀」「WRERAやる気ないな」「何の演出? 伏線?」「ナメやがって」。
ワールド女子のファンや寿零のファンからの声は、以上四つに大別された。

同月行なわれたスレイヤー・レスリングでの AAC世界タッグ戦に比べても、さらに上をゆくほどの“格差マッチ”だ。 *b3

下馬評はもちろん、小縞自身を含む WRERAの選手たちの中にも、さすがに小縞の勝利を確信する者は──微かな期待や祈りならともかく──ただの一人もいなかった。

だが、とにもかくにも、小縞はあきらめることなく、勝利を目指して奮闘した。

そして、そんな者に対してだけ、勝利の──リングの女神は、時に気まぐれを起こしてくれるのかもしれなかった。 *b4

「……え? ……えええ? ええええええ!?」
小縞

《か、カウント3が、入ったぁぁぁ!?
WWPA王者、まさかの交代だあ!!
こ、小縞聡美、時間切れ直前の大金星ぃっ!
得意のダイヤモンドカッターが、あの“殺戮兵器”寿零を沈めてしまったぁ!》

59分10秒、決着は小縞の決め技・ダイヤモンドカッター。
粘っただけでも大善戦、引き分けなら大殊勲、といえる試合での、まさかの勝利。

ファンの歓声と拍手の中、小縞は先輩選手からもみくちゃにされながら、

(このベルト、ウチのファミレスに飾ったら、お客さん増えるかなぁ……?)

などと、現実感のわかない頭の中で、ぼんやりと現実的なことを考えていた。




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■ 注釈(?) ■
*a1番外編小説もどきを挟んだので、前回からはリアル世界でもほぼ一ヶ月経って更新してます。
閑話休題、7月のスレイヤーにおける主な出来事は、WWCAジュニア遠征防衛、真田FC、フレイアCM、桜崎CM。
本文で取り上げてないタイトルマッチは、ライラ&小鳥遊2pのEWAタッグ二度目の防衛(vs村上姉妹)でした。
*a2氷室&近藤との二人合計評価値差は250以上。
しかも、選手育成方針が「基礎を十分に上げてから技を覚える」なので、中森も真帆も高難易度の技をほとんど覚えていません。体力差で押し切れるジュニアならともかく、このクラスでは、さすがにジリ貧になります。
*a3プレイヤー視点でも同じ。はっきり言って、中森2p&真帆2pのリプレイ用出番作りでした。だから、負けても取り上げるつもりだったのです。
*a4WRERAの権威も何も、富沢が獲った時点でかなりベルトの権威が下がってるような気は…。
*a5実際、よく勝てたと思います。
真帆2pの必・フォクシードライバーが体力の無い(280)氷室に炸裂したのと、最後に合カードが出てくれたおかげです。
翌月の遠征戦も、負けて帰って来るとしか思っていなかったので、かなり驚きました。
*b17月の WRERAは、めぐみ写真集(「すごい」売れ行き)、市ヶ谷プライベートイベントその2、など。
本文で取り上げないタイトルマッチは、スレイヤーに殴りこんだ堀の GWAジュニア十四回目の防衛(vs千春)、来島の GWA二度目の防衛(vsモーガン2p)、めぐみのスレイヤー王座四度目の防衛(vsフレイア)、でした。
*b2スレイヤーと同様、はっきり言って小縞のリプレイ用出番作りでした。
*b3評価値差は250近くあって、しかも小縞は十分に技を覚えていない状態です。
*b4なんて書いてますが、プレイヤーとしてはさすがに勝てないだろーなーと思って操作してました。ごめんね、小縞。
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