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10年目1stQ (4〜6月) Part1 〜 孤高なる海賊王女 〜

《目次っぽいもの》
孤高なる海賊王女[SL,WR]さよならお姉さん:プロローグ[SL,WR]注釈?



「いひ♪ 森・嶋・先・輩? 小鳩、あんまり気負ったりしない方がいいと思うのよ?」

「…別に、気負ってなんかいないわ…」 森嶋

興行参加調整のために WRERAの事務所を訪れた帰り道。

森嶋亜里沙は、隣を歩くメロディ小鳩の笑顔攻撃に、無愛想と鈍い眼光で応戦した。

4月の WRERA巡業に殴りこみをかけた、スレイヤー・レスリングの森嶋と小鳩。 *a1

目的は団体で創設した二つのベルト、スレイヤー無差別級王座と NA世界タッグ王座の奪還だったが、森嶋はさらに二つの王座戦開催依頼を WRERAフロントへ提出していた。

うち一つ、マイティ祐希子の持つ NA世界無差別級王座への挑戦はまだしも、傍らの小鳩をも驚かせたのは、森嶋が自らの持つ WWPAヘビー級王座を「そちらのトップとやりたい」という条件で希望したことだった。

「いくら先輩が強くっても、ひと月にタイトルマッチ四つはさすがにツライと思うわ。
相手もすごい人たちばっかりだし、無理は禁物じゃないかしら?」

「…無理……とは思わないわ。 ひと月に五つの世界戦をやった人もいるもの…」

小鳩の脳裏に、すでに少し懐かしくも感じられる顔が浮かんだ。

二ヶ月前に電撃退団した、“元”団体トップのサンダー龍子。
彼女はかつて WRERAのトップレスラーたちを相手に五つの世界ベルトを賭けて争い、防衛分一つを含む三つのベルトを持ち帰ったことがある。 *a2

小鳩が見るに、今の森嶋は、その時の、そして現時点における龍子の実力を、既に凌いでいる。 そう考えれば確かに、森嶋の挑戦は「無理」というほどの話ではない。 *a3
しかし、それでも小鳩は小さく首を振った。
小鳩

「そんな気持ちで試合しても……きっと先輩は、楽しくないわ。
楽しくない試合は、どこかに無理があるものでしょ?」

「………そんな気持ち…?」

森嶋は足を止めた。
つられて小鳩も立ち止まる。
先輩を見つめる大きな目が二度ほどまばたきしたところで、森嶋は口を開いた。

「…あなたに、私の気持ちがわかるの…?」

言葉だけを残して、歩みを再開させる。 少し早足で。 小鳩の方は見もせずに。

「…………」

追いすがるという動作を忘れてしまったかのように、小鳩はその場を動かなかった。

「……そうね。 小鳩はまだまだだから、“団体で一番強い人”の気持ちはわからないわ♪」

代わりに、小鳥のような歌声で、呟いた。

「でもね? 龍子先輩は、森嶋先輩に、そんなこと押しつけてないと思うの……」

少しだけ、ほんの少しだけ、哀しげなトーンを添えて。

森嶋亜里沙のタイトルマッチ四連戦は、4月シリーズ第三戦から第六戦まで。

武藤めぐみに挑んだスレイヤー無差別級王座戦は、18分20秒のパイルドライバー。
続いて小鳩と組んでの NA世界タッグ王座戦も、35分07秒に市ヶ谷が小鳩に食らわせたビューティボムで、ともに敗北。
WWPA

そして第五戦。
タイトルマッチ三戦目となる、WWPAヘビー級王座防衛戦は──

「…ハァ……ハァ……くぅっ…!」

ゴングが打ち鳴らされ、仰向けの身体からフォールの重圧が消えても、森嶋は起き上がれなかった。

天頂からのカクテル光を左腕で覆い隠し、唇を噛みしめる。
口の中に広がる味は、敗北。 かつて無いほど苦い、敗北の味だった。 *a4

「よい試合を……ありがとうございました。
ただ、今日は、あなたに運が無かったようですね……」

世辞でも社交辞令でもない。
確かに好勝負だった。 運に恵まれなかったとも思う。
だが、だからこそ尚更、自分からベルトを奪った対戦相手の言葉は、彼女の胸を激しく掻き乱した。

「………待ちなさいっ。 この屈辱、必ず返すわ………」

静かに立ち去ろうとしていた相手が、振り返った。
森嶋は、漆黒の空気をまとわせて腕をつき、上半身をもたげる。

「…今日は私の負け。 だけどね、私の旗……海賊の旗は、まだ折れてないわ。
それがある限り、海賊は何度でも立ち上がって、復讐を果たすものよ……。
覚えて、おくことね…!」
桜井

血を吐くような宣言と、ともに向けられる鋭い視線。
その両方に射抜かれながらも動じることなく、

「旗……ですか。
私には、海賊のことはよくわかりませんが……」

桜井千里は、凪いだ水面を思わせる声で、言った。

「海賊とは……旗にすがって立っている……そういうものなんですか?」

「…………っ!」

第六戦の NA世界無差別級王座戦は、マイティ祐希子が二十二度目の防衛に成功。
森嶋は、この月のタイトルマッチで全敗という成績を残し、虎の子の WWPAベルトまで奪われてしまった。 *a5

スレイヤー・レスリングの仲間たちは、無冠となって戻った彼女を遠巻きに気遣い心配もしたが、幾人かは一緒に帰って来た小鳩の、

「帰りはずっと悩んでたわ。 でも結論が出たみたいだから、多分、大丈夫よ。 いひ♪」

という言葉を聞いて、理由はわからないまま、なぜか胸を撫で下ろしたということである。




タクシーのメーターは、幸運にも、ちょうどお釣り無しで払える金額を指していた。

運ちゃんがその金額を読み上げる前に紙幣と硬貨を押し付け、自動で開くドアをこじ開けるように飛び出すと、病院の玄関は目の前だった。

「──階段上がって左だねっ? ありがとな!」

駆け込んだロビーの受付で病室を聞き出すと、背中越しの感謝を残して階段を目指した。
危ないから走らないでくださいっ、との注意が受付から届いた時には、既に階段を一段飛ばしで駆け上がり始めている。

「302号室。 302……302号……」

そうしていなければ忘れてしまうとでもいうように何度も病室の番号を呟いて、五度目で三階にたどり着いた。

受付での指示が抜け落ちてしまったのか、そこでまず右を見て数秒。
それからようやく左を向いて──サンダー龍子は、自らの驚愕に呼吸を止められた。

302、と書かれた札が見える、開いた扉の前。
かしこまった立ち姿で部屋の中を見るショートカットの女性の横顔には、見覚えがあった。
たった三ヶ月という期間で、忘れられる相手では無い。

──なんで、あいつが──ここに?

──まさか、これも、あいつの──

息を呑んだ音が聞こえでもしたのか、その女性が不意にこちらへと顔を向けた。
視線が合い、向こうの表情が変わる。

慎み深く、穏やかで、優しげな、微笑み。
想像したのとは正反対の反応がむしろ、龍子の思考を真っ赤に弾けさせた。

「──井上ぇぇっ!!」

突進する。
たちまち恐怖と愕然と判断不能の色で染まった顔が、視界の中で大きくなっていく。

「あんたのっ! 仕業かぁっ!」

右腕が風を巻いた。
かろうじて拳ではなく平手の形を作った手が、目の前に迫った女性の顔に襲いかかり、激突した。 寸前で割り込んできた、別の顔面に。

「なっ!?」

「社長っ!?」

二人の女性の声は、壁と人間がぶつかった鈍い音でかき消された。
張り手を受けて半回転し、壁と豪快にキスする羽目に陥ったスーツ姿の男性が、まるでマンガのワンシーンのように、ずるずると床まで滑り落ちる。

「しゃ、社長っ! 大丈夫ですかっ? しっかりしてください、社長!」

さすがに慌てて介抱する女性の腕の中、目を回したままの男性にも、龍子は見覚えがあった。

「WRERAの……社長さん、かい……?」

その瞬間、龍子は自分が大きな勘違いをしたことに気付いたのだった。 *b1


「──社長さん、ごめん! 本っ当に、すまない! ごめんっ!」

302号と書かれた病室の中。
何とか打撲と軽い脳震盪で済んだ WRERAの社長に何度も何度も頭を下げて平謝りする親友の姿を見て、石川涼美はベッドの上で苦笑を浮かべた。
石川

「もう、龍子ったら〜。
社長さんは、倒れた私をここまで運んでくれた恩人なんだよ?
その社長さんを、力いっぱいぶん殴っちゃうなんて……」

「ぶ、ぶん殴っちゃいないさ。 張り手が当たっただけで……」

「同じことですっ。
大体、社長さんが飛び込まなかったら、龍子は秘書の霧子さんを殴っちゃってたんだよ?
霧子さんにも、ちゃんと謝らないとダメでしょ?」

「わ、わかってるってば。
えっと……霧子さん、ごめん! 私がバカだった!
思いっきり人違いで勘違いしちゃったんだ! 本っ当に、すまない!」

「い、いえ、いいんですよ。 気にしていませんから。
さっき話してもらって事情はなんとなくわかりましたし、石川さんが倒れたと聞いて冷静さを失っていたわけですし……」

霧子はにこやかに応じたが、多少引きつり気味なのは否めない。
世界最高峰の格闘家に殺気とともに襲われるなど、滅多に味わえる経験ではないのだ。

「それにしても……その、スレイヤーの私、いえ井上霧子さんは、そんなに……?」

「ああ。 見れば見るほどそっくりだよ。
だから、てっきり石川に毒でも盛ったのか、なんて思ってね。 なあ、石川?」

「うん。 実は私も、目を覚まして霧子さんの顔を見た時、悪い夢かと思っちゃった……」

あはは、と笑う元・スレイヤー・レスリングの二人を前に、霧子は自分が続けるつもりだった本当の質問を呑み込むことに決めた。

(……あちらの井上さんは、そんなに、お二人に恨まれるようなことをしたのかしら……?)


「──それでだ、石川。 過労、だって……?」

「……うん。 ごめんね、龍子。 心配かけちゃって……」

二人きりにしてもらった病室で、上半身だけ起こした石川は、弱々しく微笑んだ。
龍子は、かぶりを振る。

「謝るのは、気付いてやれなかったこっちだよ。
フリーになってからこっち、マネジメントの類は全部任せっきりだった。
今はフリー選手も多くってリングに上がらせてもらうのも大変で、それで試合までこなしてりゃ、いくら頑丈で図太い石川だってキツいよな」 *b2

「頑丈で図太いって……これでもお姉さんは、か弱く繊細なつもりなんですけど〜?」

睨みつける石川も、そ知らぬ顔の龍子も、目は笑っている。
互いに謝る状況は同じでも、三ヶ月前、スレイヤー・レスリングを退団した時とは全く異なる今の二人だった。

「でも、そうだね……。 ちょっと最近は、キツかったかな〜」

石川は、身を倒して枕に頭を預けた。
窓の外を眺める。 5月の風が薫っているであろう外の天気は、悪くなかった。

「ねぇ、龍子」

「なんだい?」

「思ってたより早いけど……。 あの話、そろそろ、いいかなぁ?」

むしろ明るい気軽な口調に、龍子の顔は形を変えた。
泣きそうなほど、哀しげな表情に。

龍子

「社長さん……頼みが、あるんだ」

病院の廊下で、龍子は WRERAの社長に頭を下げた。


社長よりも一足先に戻って仕事を片付けていた霧子は、病院から帰ってきた社長に呼ばれて早々、その話を聞かされた。

「石川さんの──引退式、ですって!?
それをウチで……WRERAの興行でやるというんですか、社長!?」

「霧子くん、声っ。 声が、大きい……」

「も、申し訳ありません。
ひょっとして石川さんが今日参戦交渉に来られたのは、もともとそのつもりで……?」

「いや。 元々は単なる短期参戦の予定だったらしいけどね」

その席で石川が突然の人事不省におちいり、慌てて救急車を呼ぶことになって、その後は病院での出来事に繋がる。
龍子に叩かれた頬はまだ痛むが、今の社長の沈痛な面持ちは、頬の痛みが原因ではなかった。

「今後は龍子くんのエージェント兼コーチに専念する……今日の一件もあって、決意が固まったんだろう。 フリーの選手が選手たちだけでやっていくには、いささかツラいご時勢だしな」

「……残念、ですね。
スレイヤーさんが、もう少し彼女たちを大切にしてあげていれば……」 *b3

「そう思わなくもないが……あちらにも、あちらの都合があるのかもしれん。
ともあれ今は、石川涼美最後の舞台に我々のリングを選んでくれたことを光栄に思おう。
時間は無いが、ファンや石川くんたちに満足してもらえるカードを考えようじゃないか」

第三の声が場に現れたのは、その時だった。

「──その話、ウチもかませてもらえへんか?」

いつから隠れて話を聞いていたのか。
物陰からひょいと現れて片目をつむった小柄な影は、この 5月にデビューを果たす予定の新人、クラリッジ成瀬こと成瀬唯だった。

「おいおい、成瀬っ。 お前また、会社の話に首をつっこむ気か?」

十代も半ばの少女、しかも練習生が団体運営に口を挟むなど普通はありえないが、『また』と言うからには既に前科があるのだろう。
呆れた物言いの社長も、怒っている風ではなかった。
成瀬2p

「ええやん、社長? ウチもいろいろ勉強したいねん。
この前の提携話やって、ウチのアドバイスでお得になったわけやし……なぁなぁ?」

「アイデアを出してくれるのはかまわんが……あまりお金のことばかり考えるなよ。 大事なのはあくまでファンと選手、今回は特に石川くんと龍子くんが満足できるか、なんだからな?」

いや、あなたは社長なんだから、もう少しお金のことを考えるべきでしょうに。
──と霧子は思ったが、成瀬の手前、口にするのはやめておいた。

そんな霧子の気持ちを知ってか知らずか、成瀬は霧子の方にもウィンクすると、

「心配ご無用、まかしとき!
お金はもちろん好きやけど、ウチの本質はエンターテイナーやで?
お客さんもみんなも楽しめるカードを考えたるから、せいぜい首を洗って待っといてぇな!」

どこか物騒な言葉とともに、拳で自分の胸を自信ありげに叩いてみせた。 *b4




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■ 注釈(?) ■
*a14月のイベントは、WRERAでめぐみ誕生日、マリー・ネルソン提携切れ、ハニー・ボンバー提携、堀プライベートイベントその2、など。
スレイヤーでは GWAタッグ遠征防衛、ウェイン・ミラー提携切れ、小鳥遊2pFC、桜崎写真集(「かなり」の売上げ)、真帆2p写真集(「あまり」売れず…)、斉藤2p参戦、などがありました。
*a2龍子の退団劇は9年目4Qからを、世界王座強奪話は7年目3Qからをご覧ください。
*a3評価値はすでに森嶋が少し上。
その龍子の退団で、その下 (小鳩やフレイア) との差が開いた一強状態になってます。
*a4まーたやってしまいましたの自操作タイトルマッチにおける敗北
『桜井相手に意地を見せる森嶋の図』を思い浮かべていたものを、終盤のカード運に恵まれず、27分07秒、コンビネーションキックでベルト喪失してしまいました。
*a54月その他のタイトルマッチは、小鳩の WWCAジュニア十七度目の防衛(vs千秋)のみ。
あと、ワールド女子の寿&南をモーガン2p&ダダーン2pの IWWF世界タッグに挑ませましたが敗れています。
*b1いまさらながら、WRERAの社長秘書は「霧子」さんで、社長以外には優しいお人。
スレイヤーの社長秘書は「井上」さんで、策謀家 (ダーク霧子) 。
同姓同名瓜二つの妄想設定です。
*b2旧新女崩壊の影響もあって、フリー選手が20名もいます。
*b3団体所属のままなら年齢引退は30歳。しかしフリーだと27歳で、しかも引退式など無くひっそりと消えていくのみ。
この6月で27歳になる石川を、引退式もさせずに終わらせるのは抵抗があったので、退団後早々の再登場となりました。
解雇はもっと計画的に… > 自分
*b4石川さん引退式は、WRERAで獲得(1590AP)→即引退勧告という、金銭(AP)的にはもったいない話です。
また、実は引退勧告受理してくれなかったので、仕方なくP○Rに登場してもらい勧告成功コードを使うことに。
「社長を信じてる」という石川のセリフが胸に痛かったです。素直に雇い続けることも考えましたが…。
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