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トップイベンター


めぐみへ
   王座奪取おめでとう。親友として、心から祝福するわ。
   これであたしも心置きなく出発できる。
   あたし、自分を追い込んで、鍛え直そうと思うの。
   どこへ行くかはまだはっきり決めてないけど、
   必ず強くなって帰ってくるわ。
   それまで必ずチャンピオンでいてね。
   めぐみから王座を奪うのはあたしだけだから。
                         結城千種


「あ、記者さん…」

「武藤くん、今日の試合、もう一つ元気がなかったね。やっぱり結城くんのことが気になるのかい?」

「ええ、考えちゃいけないって思えば思うほど気になっちゃって…
あたし、こんな気持ちで試合していかなきゃいけないんでしょうか…」

「うーん…ただ、結城くんは君を困らせようなんて思ってるわけはないし、むしろこれから先の君とのライバル関係を大事にするための行動だと思う。だから、君が落ち込んでると結城くんも困るんじゃないかな…」

「…そうですよね。千種のことだから、きっと大丈夫ですよね…きっと…」


6-1

「あ、めぐみ!」

「理沙子さん?」

「昨晩、千種から事務所に連絡があったの。ヨーロッパで向こうのプロモーターにブッキングして、各地のマットに上がっているそうよ」

「千種が…!?」

「必ず帰るから、心配しないで欲しい。それまでは自分のワガママを許して欲しい…と。それからめぐみにこう伝えて欲しい…」

「…!」

「あたしがいなくなって落ち込んでるかもしれないけど、チャンピオンなんだから何があっても常に強くあって欲しい、今のめぐみは自分の目標なんだから…と」

「…何があっても強く…。分かりました! あたしも日本でチャンピオンの名に恥じないファイトをし続けて、千種の帰りを待ちます!」


千種が姿を消した直後の落ち込みが嘘のように、めぐみはその後のシリーズで充実した試合ぶりを見せた。

それを見た理沙子たちは、IWWFヘビー級王座の初防衛戦にGOサインを出す。

「久しぶりのニューフェイスよ。名はジェナ・メガライト。
スナイパーズが、このメガライトに敗れて世界タッグのタイトルを失ったそうなの。日本では全く無名だけど…これが送られてきたプロフィール」

「私…こいつ知ってます! アメリカに行ってた時に見たことがあるんです!」

ジムで見かけた、200キロのバーベルを持ち上げるレスラー。試合でも強烈なジャーマン・スープレックスを決めていた、あいつがチャレンジャー…

めぐみは、拳を硬く握り締めた。


6-2

試合開始直後、桁外れのパワーで強引に振り回してダウンを奪うと、そのままぶっこ抜く、いきなりのジャーマンスープレックス。
”スープレックスモンスター”の二つ名通りの荒業に、ゴングから数秒で、めぐみの意識は一瞬とんだ。

後から思えば、冒頭のこの一撃が試合の行方を決めていたのかもしれない。

世界チャンプ恐るるに足らず。そう思ってしまったメガライトと、一瞬の油断も命取り、と気を引き締めためぐみの差。

それは実力の差以上に勝負に影響し、その後は終始試合をコントロールしためぐみが、メガライトに粗い試合ぶりを後悔させる間も与えずに、フォール勝ちを収めた。


《武藤めぐみ、王座防衛!
メガライト、世界王座を奪取することができませんでしたあ!
リング上では勝ちをおさめた武藤が大歓声の中でアピールしています!》

「…ヘイ、ムトー! これで終わったと思うなよ!
今度やる時はリングの上で血ヘドを吐かせてやるからな!」

6-3

「何度でも相手になってやる! いつでもかかってらっしゃい!」

「…と、その前にミーの本当の恐ろしさを分からせる必要があるみたいだね。
ユーに世界タッグベルトに挑戦するチャンスをやろうじゃないか。
ユーとユキコのコンビで来るがいい!
ミーのパートナーは…マイシスター、カマン!!」

「…ホ〜ッホッホッホッ!!」

6-4

「い、市ヶ谷さん! どうして!? 引退したんじゃないんですか!?」

「私が何故復帰したかですって? それは簡単な事。全国600億人の私のファンの復帰を望む投書の山、そして…
私の本当の実力を分かって、私と少しは渡り合える実力を持ったメガライトの必死の願いが、私をリングに復帰させましたのよ! オ〜ッホッホッホッ!」

「…少し拡大解釈しているようだが、まあそれはおいといて。
ともかく、ミー達はアメリカでは未だに無敗を誇る最強のチーム!
ユーに勝ち目など、これっぽっちもない!!」

そして、次のシリーズの最終戦として、IWWF世界タッグ王者・メガライト&市ヶ谷組と、元王者・祐希子&めぐみ組の対戦が、なし崩し的に決定した。

「祐希子さん…あいつら、さんざんいいたい放題言ってたけど、いいんですか?」

「いいわけないでしょ! 私、今、モーレツに燃えてきたよ!
特に市ヶ谷…今度という今度は、コテンパンにのしてやるんだから!
次の最終戦、ぜええったいに、勝つからね!」


祐希子とめぐみのタッグで負けるわけにはいかないし、負けるわけがない。

驕りや油断は禁物だが、祐希子にもめぐみにも不安は微塵も無く、新女の仲間も (市ヶ谷の行動や性格には全員揃って匙を投げたものの)、二人の勝利を疑わなかった。

最終戦を明日に控えたその日。花に嵐のさわりがあるなどとは思わずに…


《た、大変な事になってしまいましたぁ! 試合後の混乱の中、マイティ祐希子がメガライト軍団に捕まり、足を抑えてうずくまっています!》

6-5

「祐希子さん大丈夫ですか!? 祐希子さん! 動けないんですか!?」

「あ、明日もやるんだ! 何があってもリングに上がるんだから…!」

一目で骨折と知れる左足にも構わず立とうとする祐希子を、来島や菊池が懸命に押さえて担架に乗せる。
その様子にも平然としているメガライトを見て、めぐみは心底怒りを覚えた。

「汚いぞメガライト! 絶対に私は、あなたを許さない!」

「ハハン。軽い挨拶のつもりだったんだけど、意外ともろいもんだね。…明日は代わりを連れてきな。ミーはお前さえいれば、他は誰でも構わないんだからな」

「祐希子さんが駄目でも南さんや来島さんがいるわ! 絶対にやってやる! とにかく、あなただけは絶対に許さない!」

「あのサブミッションしか能のないミナミか、それともパワーだけのキシマか? ま、どちらでも明日はユキコと同じように病院送りにしてやるから、楽しみにしときな!」


その夜。

会場の片付けも終わり、他の全員がホテルや祐希子が搬送された病院に向かった後も、めぐみはただ一人で控室に残っていた。

「どうすればいいんだろう…南さんや来島さんじゃ、あいつらには勝てないわ…。でも祐希子さんは入院…あいつらの思う壷じゃない!」

拳を握り、肩を震わせる。
悔しすぎる。こんなの嫌だ。何とかしたい。それなのに…

「ああ…わからない、どうすればいいの!? 私にはわかんないよ…」

「──らしくないぞ! 私の知ってるめぐみは、そんな事言わなかったはずだよ!」

6-6

「…ただいま、めぐみ。がんばってるね。誰が見ても立派なチャンピオンだよ」

「…千種? 千種なの!? 帰ってきてくれたんだね…?」

「さっきヨーロッパから戻ってきたんだ…ごめんね、勝手なコトして。心配かけちゃったでしょ?」

「千種…バカ…何で黙っていなくなったり…したのよ…」

「どうしてもめぐみに追いつきたくて…。その一心で頑張って、やっとの事でヨーロッパ王座を取って帰って来たんだけど、まさかこんな事になってるなんてね。祐希子さん、足をやっちゃってダメなんだってね…」

「こんな事になっちゃって、私、どうしたらいいかわかんない! でもね…あんな卑怯な奴らにベルトを持つ資格なんてないんだ!」

泣きじゃくるめぐみを暖かく見守る、その目を決意の色に染め変えると、千種はめぐみに想いを告げた。明日のパートナーに立候補したいと。今なら、一緒に戦えるはずだと。

「…明日の相手がどんな奴か知ってるの? 千種の選手生命だって、どうなるか保障できないほどの強敵よ!?」

「大丈夫。リングの上で死ねれば本望。でも、あたしは倒れない。それが大事な試合ならなおさらの事! それが…プロレスラーだと思うから」

「千種…あんた、本当にバカだね…大バカだよ」

「ふふっ、そうね…私達、本当のバカなのかもね。でも、バカの一念は岩をも通しちゃうんだからっ。さ、あしたは絶対に勝つわよ! そうでしょ、めぐみ?」

「…もちろん! 千種とのタッグなら、相手が誰だろうと怖くないわ! 勝って新女の意地を見せつけてやる!」


《…本日は御来場頂きまして、誠にありがとうございます。

本日のメインイベントは当初、マイティ祐希子&武藤めぐみ組vsジェナ・メガライト&ビューティ市ヶ谷組の IWWF認定タッグ選手権試合となっておりましたが、祐希子選手の欠場により…》

中止か──
そんな嘆息が満ちようとした会場を、次の瞬間、驚きと歓声が埋めた。

《急遽、挑戦者チームを変更して、武藤めぐみ&結城千種組vsジェナ・メガライト&ビューティ市ヶ谷組の、IWWF認定タッグ選手権試合とさせて頂きます!
では、シリーズ最終戦、思いっきり新日本女子プロレスしてください!》


6-9h
6-10h

試合は、30分を越す大激戦となった。

めぐみと千種の体力はすでに尽き、何度も相手にフォールを許す。その全てを互いの絶妙なカットと根性のニア・フォールで凌いでいく二人。

半ば朦朧としためぐみの脳裏に、かつて誰かが言った言葉が蘇る。
”タッグは息が合えば、その力は想像を超えたものになる”…

「…めぐみ!」

自分を信じて疑わないその声に、めぐみはコーナーポストから飛んだ。

38分51秒。ジェナ・メガライトへのダブルインパクト──

6-8h
6-7h

《結城&武藤組、やりました!!
難敵、メガライト&市ヶ谷組を見事破り、新・世界タッグ王者に輝きました!》

6-11 6-12

《新女の選手達がいっせいにリングにかけ上がり、武藤と結城を祝福しています! 紆余曲折を経て今、同期であった二人がともに手にした世界王座! 彼女たちの目標であった世界の二文字が、今、現実の物となったのです!》

「…今日のファイトはとってもエキサイティングだったぜ、ムトー」

6-14

「メガライト…」

「そっちのニューフェイスも、ヨーロッパスタイルのレスリングをしっかり吸収してて、いいパートナーじゃないか。フフフ…全く楽しいよ。レスリングをやっててこんなに楽しいと思ったことはない。残念ながらしばらくはジャパンにやって来れないけど、ミーが戻って来るまで誰にも負けるんじゃねーぜ」

「シングルとタッグ、2本のベルト共守り続けるわよ。誰が来ようとね!」

「…フフッ、でも、今度はあたしがシングルのベルトを巻くからねっ」

「えへへ、だーめっ。そっちはあたしがずーっと持っとくんだから」

「あーっ、欲張りなんだからあ、もおっ」

「ははっ。あははははっ」

6-13

《…武藤めぐみ! 結城千種! これからの女子プロレスを供にリードしていく次代の後継者が、今誕生いたしましたあ!》

「…後継者か。嬉しいような、寂しいような…どうです? 理沙子さん?」

「そうね。私の時もそんな感じだったかしら。あの子たちを見てると、5年前の祐希子たちを思い出すのよね。その時、みんなが祐希子達のこと、何て呼んでたか知ってる?」

「え? いいえ」

6-15

「”レッスルエンジェルス”──リング上で、一番輝いているコ達のことなの。あの時のあなた達がそうであったように、今のあの二人もまた、リングという神殿を護る天使なのよ。技という剣を携え、肉体という鎧をまとった…ね。今の祐希子ならその意味、よく分かるんじゃない?」

「”レッスルエンジェルス”か…わかります。今のあの子たちに、ピッタリの言葉かもしれませんね…」


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