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チャンピオンロード


3-5

「へへへ、お帰り、めぐみ。こんなに早く会える事になるとは思わなかったな」

「うん、私も思ってなかった。だから、ちょっと悩んだりもしたけど、今は大丈夫。祐希子さんともうまくやっていけると思う。少しは大人になったっていうのかな」

「祐希子さんはともかく、来島さんはカリカリしてるみたいだったよ。あなたが帰って来たら、世界タッグに挑戦する資格があるかどうか試してやるって言ってたわ」

「あ〜あ、またモメそうね…」

「そうそう、雑誌で見たわよ、アトランティックヘビー! ね、早く見せてよ、チャンピオンベルト。持って来てるんでしょ?」

「あ、あれね、返上しちゃった。戻って来たら防衛戦できなくなっちゃうもんね」

「え〜っ、もったいない! わ、私なんてまだ一回もベルト巻いた事ないのにい! 返上までしたなんて、なんて羨ましい! この贅沢もの、コブラツイストだぁ!」

「わ〜っ、なにすんの! 周りの人が皆見てるじゃない、恥ずかしいでしょ。やめてったらぁ! …うわぁ〜ん! 私もう、お嫁にいけなくなっちゃう!」


久しぶりの新女。
まずは社長と祐希子に挨拶をしためぐみは、その二人から来島とのIWWFアジアヘビータイトルマッチが組まれていることを聞かされる。
それは、自分の代役が務まるかを試そうと、来島自らが言い出した話だった。

「…どう、めぐみ。恵理のテスト、受ける気ある?」

「もちろんです! もう一度新女のみんなに迎え入れてもらうには、これくらい厳しい試練をくぐり抜けないとって思ってましたし。来島さんのテスト、喜んで受けますよ!」


めぐみの復帰は新女のレスラーたちにもおおむね好意的に受け入れられた。
それでも祐希子のパートナー抜擢には懐疑的な声も多く、来島相手にはまだ分が悪いという意見が大勢を占めていた。

しかし、アメリカでの日々は、周囲だけでなくめぐみ自身が思っていたよりも、彼女を成長させていた。

IWWFアジアヘビータイトルマッチ勝者、武藤めぐみ。

勝負だけでなくパフォーマンスでも来島を上回っての、完璧なフォール勝ちだった。

「…おい」

「あ…き、来島さん」

5-1

「完敗だね。まさかお前がここまで強くなるなんて想像もしてなかった。本当言うとさ、俺のような突貫タイプじゃ、あいつらには通用しないって分かってたんだけど…悪いな、俺のワガママにつきあわせて」

「来島さん…」

「ベルトはなくなっちまったけど、戦った価値は十分あったぜ。これからは俺がチャレンジャーだ! それと…次のシリーズは、あのスナイパー姉妹から必ずベルト取り返してくれよ。頼んだぜ!」

「は、はい! 来島さんの分まで全力で当たってきます!」

5-2

「めぐみ、ベルト奪取おめでとう…すごいね、アジアヘビーチャンピオンだもんね」

「ありがとう…次は千種の番だよ。千種の挑戦なら、いつでも喜んで受けるよ」

「…でも、今のあたしにはそんな資格も実力もないわ…」

「な、何言ってんの千種!? 自分からチャンスを手放しちゃ何もできないよ!」

「…めぐみは、才能に恵まれてるのよ。だからあたしが1週間かかるところを、3日でやっちゃう。あたしも自分なりに努力してきた。でも、どう頑張ろうと、あたしはもうめぐみに追いつけない…」

「千種…」

「……ごめん、何言ってんだろうね、あたし。せっかくめぐみがチャンピオンになった記念すべき日だっていうのに…」

「千種…練習はウソをつかないって、祐希子さんがいっつも言ってるじゃない。千種の練習量はあたしが一番良く知ってる。それは必ず力になるよ。だから…ね?」

「…うん。そうだね。あたしだって、このまま終わったりしないから。必ずめぐみのいるところまで行くから…ね」

「うんっ。待ってるよ、千種」


再び交わした、二人の約束。

しかし、先へ行く者には、後を追う者を立ち止まって待つ、そんな時間も与えられなかった。

《さあ、世界タッグ王座を巡る戦いの火蓋が切って落とされようとしています!
王者組はリリィ&コリィ・スナイパー、”スナイパーシスターズ”!
この無敵の姉妹に挑戦するはマイティ祐希子&武藤めぐみ組!
IWWF世界タッグ選手権試合、まもなくゴングが打ち鳴らされます!》

5-3 5-4

互いの長所を活かし短所を補う、姉妹ならではの完璧な連携を誇るスナイパーシスターズは、まさに世界最強のタッグチーム。

対する新女のタッグは急造の上に、めぐみは世界タイトル初挑戦。

序盤は、ぎごちない動きや連携の不備をつかれて圧倒される祐希子とめぐみ。
それでも、自らセコンドに付いた来島のゲキとアドバイスが奏功して再三のピンチを凌ぐと、祐希子の百戦錬磨のしたたかさと、アメリカで相手の試合を見てきためぐみの経験とが、疲れの見えてきたスナイパーシスターズを上回り始めた。

決着は25分過ぎ。
祐希子が妹・コリィをジャーマンで捕らえ、カットしようと飛び出す姉・リリィをめぐみが自爆覚悟のフライングニールキックで食い止めて…


5-5 5-6

《やりました、マイティ祐希子、武藤めぐみ、世界タッグ王座奪取に成功!
両チーム死力を振り絞っての大一番は、見事挑戦者チームに凱歌が上がりましたああ!》

「…ありがとうめぐみ。あんたの頑張りのおかげでこのベルト、取り返せたよ」

「えへへ、ガラにもなくなんだか緊張しちゃって…祐希子さん、あたし、足引っ張ってませんでした?」

「何言ってんの。もっと堂々と、お客さんにアピールしなさいって。ホラ」

むっ・とっ・う! むっ・とっ・う!

(世界王者かあ…何だか、ずいぶん遠いトコまで来ちゃったカンジだなあ…
千種、今の試合見ててくれたかな…? 千種…? いない…?)

「どしたの? めぐみ?」

「あ…い、いえ。なんでもないです…なんでも…」


翌日。

ベルトを取ったからって気を抜いていられない、と早朝のジムに顔を出しためぐみは、彼女よりも早くから汗を流していた千種の姿を目にした。

「すごいねめぐみ、世界チャンピオンだもん」

「ありがとう。でも、このベルトは祐希子さんのおかげで取れたようなもんだからね」

「…ねえ、スパーリングしない? 昔は良くやってたよね。道場に居残ってさ」

「そういえば、最近は二人でスパーリングすることも少なくなってたね…。よし、それじゃいっちょ、いい汗かこうか!」

ただの練習、ただのスパーリング。
そのはずが、千種の真剣な目を見ためぐみも、いつしか本気を出していく。

例えお遊びでも、リングの上では誰にも負けない。それが武藤めぐみの信条。それでも、今回勝利を奪ったのは千種の方だった。

「…手を抜いた…?」

「!! バカなこと言わないで! あたしがそんなことすると思う?
…そんなことして千種が喜ぶなんて、あたしが考えると思ってるの!?」

「ごめん…めぐみがそんなことするはずないよね。あたしどうかしてた…」

「…千種」

「あはは。大丈夫。もうイジけてふさぎこんだりしないよ、あたし。
めぐみに怒られて、なんかモヤモヤしたモンが全部どこかへいっちゃった。
あたし、一からやり直してみる。初心に返って、また頑張ってみる。
だからめぐみも今以上にがんばって、次はシングルの世界王者を目指してね!」

「うん! 約束するよ、千種!」


そうは言っても、今は世界タッグを守っていくことで精一杯…
そう思っていためぐみは、社長から祐希子の伝言を聞かされて呆然とする。

『世界タッグ王座は返上しよう』、それが祐希子の伝言だった。

「ええ!? まだタイトルを取って日が浅いっていうのに、いきなり返上だなんて!? どういうことなんですか、社長!」

「そりゃ祐希子の言い分ももっともだろう。世界ヘビータイトルマッチの相手がパートナーじゃ、やりにくいだろうからな」

「ああ…そうですかあ…それじゃ仕方な…ええええ!? い、今何て言いました社長!?」

IWWF世界ヘビー級王座への、マイティ祐希子への、挑戦。

ベルトなど遠い先の話と思っていた自分が、アジアヘビー、世界タッグ、とトントン拍子にタイトルホルダーとなり、ついには世界ヘビーに…。
めぐみは大きく身震いした。

「やります! 何があってもやります! やるからには例え祐希子さんが相手だろうと、必ず勝ちます!」


(…とうとうここまで来たんだ。ははっ、最初は単に千種についてきて、面白半分に入門テストを受けただけだったのになあ…)

世界ヘビー級タイトルマッチ直前。めぐみは控え室で一人、集中力を高めていた。

(千種…今日はあんたのためにも、絶対ベルトを祐希子さんから取ってみせるからね! 力を貸してよね、千種…!)

5-8

そして、ゴングが鳴った。

ビューティ市ヶ谷が、サンダー龍子が、ダークスターカオスら海外の強豪たちが、何度となく挑み、そしてことごとくはね返されてきた、とてつもなく高く厚い壁。

昔の、いや、つい先日までの武藤めぐみであれば、その壁の頂きに手もかけられず、成すすべ無く敗れ去っていたかもしれない。

だが今は、ここまで彼女を引き上げてくれた多くの人たちに、誰よりも眼前の祐希子に報いるために、そして、笑って背中を押してくれたかけがえのない親友に応えるために、めぐみは何度でも立ち上がり、何度でも飛んだ。

そして…


5-9

《ゆ、祐希子敗れるぅ〜! そして新チャンピオン、武藤めぐみの誕生だぁ!
館内は割れんばかりの武藤コール、若きチャンピオンの誕生を祝っています!!》

「…とうとうやられちゃったね、めぐみ」

「祐希子さん。今日は、どうも…あの…、あ、ありがとうございました!!」

「ほんとに強くなったわ。入門したての頃がウソみたい。
…でもね、そのベルトを守っていくことは、取ることよりも苦しいって事をよく覚えておいて。私だってチャレンジャーなんだから、気を抜かずに頑張ってね!」

「…はい、これからは、このベルトの名に恥じないように一生懸命頑張ります! 祐希子さん、またいつの日か戦って下さい!」

「5年ぶりにベルトの重圧から解放されたんだから、当分は丸腰でいこうかなぁ…
でもまたウズウズしてきて、その時もあなたがベルトを持ってたら、挑戦させてもらうわ。いいかな、それで?」

「はい! その時まで必ずこのベルト、守って見せます!」


(…めぐみ、おめでとう。とうとう新女のトップに立ったね…)

5-10

(めぐみと同期である事を心から誇りに思うわ。でも、あたしもめぐみに、同期であることを誇りに感じてもらえるレスラーになりたい…

だから、しばらくめぐみの前から姿を消すね。
次に会ったとき、めぐみに頼られるようなレスラーになっているよう頑張る。

…それじゃ、さよなら。めぐみ…)


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