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再会


《いよいよ迎えました開幕戦、会場は超満員!
今回のシリーズはいつもと違い、選手たちからピリピリとした緊張感を感じますが、それも仕方のない事でしょう。さ〜あ、この様子を見てどう思われますか、解説の理沙子さん?」

「そうですねぇ、ファンの注目は祐希子と市ヶ谷のどちらが強いかという事だと思うんですけど、私は、彼女らの周りを固める各陣営の若手。とりわけ結城と武藤の戦いに興味を引かれますね」

《さあ、いよいよ試合開始の模様。新日本女子 vs JWIの全面戦争! 第一ラウンドが、今、始まります!!》

そして、ついに新日本女子 vs JWIの戦いが火蓋を切った。


コン コン

「はい? レイさんですか? どーぞ」

カチャ…

「は〜い、千種…」

「め…めぐみぃ!?」

「えへへ、久しぶりだね、元気してた?」

「アハハ、見ての通りだよ! めぐみも元気そうじゃない!」

3-1 3-2

「…どうしてめぐみは市ヶ谷さんのところになんか行ったの? あんなに市ヶ谷さんを嫌ってたあなたが、JWIに行ったなんて信じられなかった。一言、相談してくれてもいいじゃない!?」

「…ごめんね、千種。あなたには本当に迷惑をかけたと思ってる。でもね…私が言ったら、千種、快く送りだしてくれた?」

「…それは」

「市ヶ谷さんの団体に行ったこと、私は後悔してないわ。確かに市ヶ谷先輩の事、今でもそんなに好きな訳じゃないよ。でもね、あの環境の中で、あたしは強くなったと思う」

「うん、聞いた。小川先輩に勝ったんだってね」

「千種だって、菊池さんに勝ったんでしょ?」

「アハ、何とかって感じ…あっ!? そうだ、ヨーロッパで無視したでしょ、めぐみ! ブシドー!」

「ああ、思い出されちゃった!」

久々に笑いあう二人。今まで会えなかった分、色々なことを話し合う。
ヨーロッパでのこと、それぞれの団体でのこと、そして夢のこと。

「ねえ、めぐみ? あたし達って、やっぱりプロレス馬鹿なのかもしれないね。自分たちの青春、プロレスに賭けちゃってるもん」

「でもさ、そのかわりに夢が見れるじゃない。人並みの青春と引き替えに、世界チャンピオンになるっていう大きな夢をね」

「どっちが早くベルトを巻くか競争だね。じゃあ、賭けしない? めぐみが先だったら、お祝いに焼き肉食べ放題をごちそうしちゃおう!」

「それじゃあ、あたしはアイスクリーム1ケースだ! これでどうだっ!!」

「あははははは!!」


翌シリーズ、シングル戦でぶつかった二人は互いの成長を確かめ合う。

一方で、新女とJWIの抗争も激しさを増していき、シリーズ最終戦では5人ずつの勝ち抜き戦、イリミネーションマッチが開催される。

めぐみや千種も参戦したこのイリミネーションマッチは、からくも新女側が勝利したのだが…

「祐希子、お待ちなさい! まさか、こんなことでこのわたくしに勝ったなどとは言わせませんわよ!!」

「なぁに、言ってんのよ、市ヶ谷! どう見たって、あたし達の完勝じゃない。イチャモンつけないで欲しいわ!」

「もう、我慢できませんわ! 祐希子、1対1ではっきり決着をつけてさしあげてよ! 今度の特別興行の日、そこで勝負ですわ!!」

「望むところよ! その時こそ、あなたのその減らず口、塩と砂糖詰めて塞いであげるわ!!」

当人同士によって勢いだけで決められたマイティ祐希子 vs ビューティ市ヶ谷のタイトルマッチ。

名勝負ではあるが既に馴染みのカードだけに、ファンには対抗戦を盛り上げるイベントの一つとして受け止められたが、今回はいささか別の結末が用意されていた。


《遂に終止符が打たれました! 43分26秒、三発目のムーンサルトプレス!
マイティ祐希子がビューティ市ヶ谷を下し、堂々のIWWF世界ヘビーの防衛!
プロレス史上に残る凄い試合でしたね、解説の理沙子さん》

「これで、一応の決着を見たと言っていいでしょうね。しかし市ヶ谷選手にとっては惜しい試合でした。次の対戦が楽しみです」

《そうですね…おっとお! 今、市ヶ谷がこの放送席からマイクを奪いとって、何やら祐希子に向かって叫び始めました!!》

3-3

「…ホホッ。祐希子、まさかあなたがレフェリーまで抱き込んでるとは思いませんでしたわ。大したものね」

「ちょ、ちょっと、何勝手な事言ってんのよ、市ヶ谷!」

「そんな帯の長いベルト、あなたのようなズンドウ田舎娘にぴったりですわ。それにわたくし、今日限りで引退することに決めましたから。オ〜ッホッホッホッ!」

《お〜っと、これは大変な事になりました! 市ヶ谷、”八百長発言”に続き、引退宣言までしてしまった!!》


市ヶ谷、まさかの引退宣言。

めぐみたちJWIのメンバーもさすがに市ヶ谷に詰め寄るも、「プロレスは飽きた。これからはレースに命を賭ける」と言う市ヶ谷に呆れるしかなかった。

新女フロントはそんなJWIメンバーに戻って来るよう手を差し伸べる。
いち早く南が申し出を受けたことで他のメンバーも心が揺れるが、めぐみは意地とケジメから断固として首を振った。

そして、新女の提案で最終決着戦が用意される。
武藤、小川 vs 祐希子、結城のタッグ戦。

「当たって砕けてたまるか、ね」と微笑む小川に頷きながらも、めぐみの脳裏からは南の言葉が離れなかった。

(JWIは市ヶ谷のための市ヶ谷による市ヶ谷の団体だったのよ。市ヶ谷のいなくなった今、JWIは何の意味も持たない。だから、新女に戻るのよ…)

3-4

…そして、めぐみたちは敗れた。

「…祐希子さん、そして千種…今日は私達の完敗ですね。でも、精一杯ファイトしてくださって、ほんとにありがとうございます」

「あなたたち、ほんとに強くなったわ。でもね、もう自分を苦しめなくてもいいんだよ。JWIという団体はもうないのだから…」

「そうよ、一緒にやろうよ、めぐみ」

「祐希子さん…すみません。せっかくのお話ですが、他の人達に言ってあげて下さい。私はいいですから…」

「…どういうこと?」

「私、考えてきたことがあったんです。アメリカに行こう、フリーで何とかやっていこうって。ですから、わたしにはもう必要のない話です…」

「めぐみ…」

「ごめんね、千種…」


一週間後。

「もう、この国を見る事も当分ないのか…」

あれから、社長の説得にも耳を貸さなかっためぐみは、事実上、新日本女子追放の身となって、一人アメリカへ旅立とうとしていた。

「千種…世界を目指すって言ったあなたとの約束、当分無理みたい。さよなら日本、さよなら千種…」

「待って〜! めぐみ、待ってったら!!」

3-5

「こら! 一人で行っちゃうなんて、ひどいじゃない! 社長に聞いてびっくりしたんだからね」

「ご、ごめん。でも今の私、人に見送りしてもらうほど、立派じゃない。見られたくなかったんだ。こんな所」

「バカねえ、私にはそんな事関係ないよ。それに、社長からの預かり物もあったしね。はい」

「ん、なに…飛行機のチケット、ファーストクラスじゃない! ど、どうしてこんな事…」

「元々、新女に戻ってくれたらアメリカ遠征を考えていたんだ…て、社長が言ってたわよ。それと…気持ちの整理がついたら、いつでも戻ってこい、だから今は頑張って行ってこいって」

「社長…ありがとうございます」

「がんばってね」

「うん、行ってくるね!!」


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