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別離


メキシコから急ぎ帰国しためぐみは、空港のロビーで思いもよらぬ人物の歓迎を受ける。

2-1

「オーッホッホッホッ!」

「い、市ヶ谷さん…!」

自分の興した新団体JWI (ジャパン・レスリング・オブ・イチガヤ) にめぐみをスカウトしに来た市ヶ谷。
最初は断固拒否のめぐみだったが、因縁浅からぬ市ヶ谷から「新団体に来れば自分と戦える」との話をされたことで心が揺らぐ。
新女でプロレスを続けていくのか、それとも、打倒市ヶ谷にプロレス人生を賭けてみるのか…

そして、めぐみは一つの道を選んだ。


「おお、結城くん! よく来てくれたね」

「社長、状況はどうですか?」

「…最悪の方向に進みつつあるようだ。今日、市ヶ谷に続いて、南、小川、永原、金井、そして武藤の5人が退団を表明したよ」

「! めぐみも…ですか!? どうして、めぐみまで…?」


新女の中心選手を引き抜き、大物フリー選手・ブレード上原や海外選手も集めた、JWIの旗揚げ興行は大成功だった。

一方の新女も存続の危機を囁かれながら、それが逆に話題となって興行自体は盛況だったが…。

「う〜ん、市ヶ谷さんや、みんながいなくなったせいで、カードの組み合わせがちょっとマンネリ気味かなぁ」

「それはちょうど良かった。なぁ、アニー?」

「え?」

「ハァイ、チグサ! 元気デスカ!?」

「ア…アニー・ビーチじゃない? それと、あなたは…あ、ちょ、ちょっと!?」

2-3

《おお〜っと、これは…サンダー!? サンダー龍子だぁ!!
さすらいの一匹狼、クレージードラゴン、サンダー龍子がアニー・ビーチを引き連れてやってきたぞぉ!?》

「…えーい、マイクを貸せって! 祐希子、ゆきこぉ! きさまを倒してやる! 私と勝負しろぉ!」

「…いいわよ、その挑戦、受けてあげる!」

「うわぁ…大変なことになってきたぞ!?」


新女にサンダー龍子が参戦したのと時を同じくして、JWIではブレード上原がアンチ市ヶ谷の反乱軍を結成。市ヶ谷との戦いを望むめぐみも上原側に付いていた。
そのめぐみに、市ヶ谷のマネージャである佐藤が一つの提案を持ってくる。

「次の興行の最終戦でビューティ市ヶ谷VS武藤めぐみのシングルマッチを組んであります。もちろん、メインイベントですよ」

「い、市ヶ谷さんとシングル…」

「ムチャよ! まだ、武藤には早すぎる!」

「もう、これは決定事項なんですよ、上原さん。それでは私はこれで…武藤さん、期待してますよ。ハーッハッハッハ!!」

「くそ、佐藤のやつ! …武藤、災難だったね」

「災難…? とんでもない、これはチャンスですよ! だいたい、打倒ビューティ市ヶ谷を目標に今までがんばってきたワケですから! とにかく、やってやりますって!」

「へえ? …フフ、あきれたコだね、あんたって」

2-4

《あぁ〜かコーナーぁ、140パゥンド〜ぉ、武藤ぅ…めぇぐーみーぃ!!》

「アナタとシングルをやるハメになるとは思ってませんでしたわ。まあ、これもお客様へのサービスですから仕方ありませんわね。…あら、心配しなくてもよろしくてよ。わたくし、今日はほんの少ししか本気を出しませんから。オーッホッホッホッホ!」

「言ってなよ、市ヶ谷! 目にもの見せてやるよ!」

解説のミミ吉原に「武藤選手が10分保てば御の字でしょう。ケガしなきゃいいですけどね」と言い切られた通り、試合は圧倒的に市ヶ谷のペースで進む。

しかし、祐希子への意地か飛び技をかわさない癖のある市ヶ谷は、めぐみの大技もまともに受け止め、徐々に体力を消耗させてしまう。最後は、焦りの故かホールドが甘くなったビューティボムを必死のウラカン・ラナで丸め込んで、めぐみが金星を飾った。

「や…やたっ…」

「わ、わたくしが、こんな小娘に…? こ、こんな試合…認めませんことよぉ!!」

「は…?」

ドカッ。
おさまりのつかない市ヶ谷の不意打ちビューティボムをまともに食らい、めぐみはいつかと同様に病院送りとなった。


《IWWF世界ヘビー級タイトルマッチ、王者マイティ祐希子、ブイ、エス、挑戦者サンダー龍子の一戦! 果たして狂える龍は無敵の女神を喰らうことが出来るのか!? 割れんばかりの大声援の中、今、開始のゴングが鳴ります!》

タッグ戦とはいえ祐希子からフォールを奪った龍子は、ついに祐希子の持つIWWF世界ヘビーのベルトへの挑戦権を得た。

前哨戦として龍子とシングルで戦い、その強さを肌で感じていた千種は、祐希子を応援しながらも龍子の勝利すら予感する。
しかし、祐希子の強さは千種の想像をも超えていた。

王者・マイティ祐希子、タイトル防衛。

解説の理沙子も市ヶ谷クラスと断言する龍子の強さを更に上回る強さは、まさに”炎の女帝”、”無敵の女神”の名に相応しかった。

「…やっぱり祐希子さんは強いや。でも、いつかはあたしが…あれ?」

《おっと、サンダー龍子がここでマイクを持ち出したぞ? なにかのアピールか?》

2-5

「祐希子…今回はあたしの完敗だ。だが、次に会ったときにはあたしが完勝する! …じゃあな!」

《こ、これは、抗争終結という意味なのかぁ? どういう事だ、サンダー龍子ぉ!?》

「サンダー龍子…こんなレスラーもいるんだ。あたしだって…!」

この試合を最後にサンダー龍子は新女から姿を消した。強烈なインパクトをファンやレスラー達に残して…


JWIでも、市ヶ谷軍−上原軍の抗争が終わりを告げようとしていた。

最終決着戦として行なわれた両軍選手による綱引きマッチは五分の星で最終戦を迎え、ビューティ市ヶ谷−ブレード上原戦が全ての命運を握ることになった。

2-6
《上原軍やぶれるぅ! ブレード上原がビューティ市ヶ谷を鬼神のファイトであわやのシーンまで追い込み、必殺のフランケンシュタイナーを繰り出すも、まさか、まさかの返し技のビューティボムで轟沈! 正規軍の勝利に終わりましたぁ!》

「上原さん、大丈夫ですか! …スゴイ試合でした、惜しかったですよ!」

「…やられちゃったわ…今の市ヶ谷には勝利への執念があるわ。みんな、今日まであたしについて来てくれて、ありがとう」

「な、なに言い出すんですか、上原さん! まるで、これで最後みたいじゃないですか!」

「そう、これで最後なんだよ、武藤。あたしはJWIのレスラーじゃないんだ。今日で契約はおしまいでね、だから最後は絶対勝ちたかったんだけど…」

「契約が…そうか、上原さんってフリーだったよね。すっかり忘れてた」

「短かったけど楽しかったよ。市ヶ谷はあんな奴だけど、戦いがいのある相手だったしね。それじゃ、みんな元気でな!」


そして、舞台はヨーロッパ、EWAへと移る。

ナスターシャ・ハン、ディジー・クライらを擁するEWAからの選手派遣依頼に応えて、数シリーズ限定で新女とJWIそれぞれが選手1名を送り出すことになったのだ。

新女代表は千種。
JWI代表は謎のマスクマン、ブシドー…と市ヶ谷に命名されてしまっためぐみ。
二人はお互いの遠征を知らぬまま、ドイツの地に降り立つ。


2-7

「あの、ブシドーさん? …めぐみ? めぐみだよね!?」

「………!」

「ねえ、返事してよぉ? めぐみなんでしょ? 私だよ、千種だよぅ…!」

「……(そりゃアンタが千種だってことは見りゃわかるわよ!)」

「なんでぇ? どうして、返事してくれないの? もしかしてそのマスクの下には…?」

「…?」

「特訓でふためと見られぬ傷がついたカオがあるのね!? それで、マスクマンに? はっ! しゃべれないのは、もしかしてノドまで…!」

「そ…そんなこと、あるわけないでしょっ! あ、しまっ…!?」

「やっぱり、めぐみだぁ!」

「ご…ごめん、千種!」

「あ、待ってよ、めぐみ!?」

「しまったぁ、カンペキにばれちゃったよ!?」


結局、まともに会話することもないまま、ドイツを去ることになっためぐみと千種。

帰国後、千種はジュニアチャンピオンの菊池を、めぐみはそのライバル小川を、それぞれがシングルで破ることで一層評価を高めた。

二人の進む道は未だしばらく交わらないかに思えたそんな折、突然に事態は大きな変化を見せる。


2-8

「い…市ヶ谷さん! この新聞の記事、JWI崩壊って一体どういう事なんですか! JWIを世界最強の団体にするっていったのは、あれは嘘だったんですか!?」

「…それではお伺いいたしますけど、武藤さん? 今現在、JWIと新日本女子どちらが強い団体なんだと思われているのかしら?」

「それは…少なくともファンの人たちはIWWF世界ヘビー級のベルトを持っている、祐希子さんのいる新日本女子の方が強いと思ってるんじゃ…」

「そこですわ! いくらわたくしが反乱軍を叩き潰してみせても、海外のトップ・レスラーを一蹴してみせても、そのベルトがあるという、ただ、それだけで祐希子が世界最強なんて思われているからしゃくなのよ。あ〜くやしい!!」

「…え?」

「とにかく、わたくしが祐希子などよりもはるかに強いという事を世間の皆さまに知らしめねば、この日本という国の国際的な信用にもかかわることになりますわ! 彼女らを完膚なきまでに叩きのめして差し上げて、JWIの強さを見せつけるのよ!」


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