1
とさっ。
軽い音をたてて、少女の身体がベッドに横たえられた。
「め……めぐ、み……?」
「ふふっ。 千種ったら、やっぱり可愛い」
そのまま、自由の効かない少女の服を、もう一人の少女がゆっくりと脱がしていく。
「服を着たままもいいけど。 汚すと大変だしね」
「え……あ、や……な、何するの……?」
お気に入りのシャツ、スカート……さらには胸を覆う下着まで、丁寧にそしていやらしく脱がされていく。
抵抗しようとは思うのだが、身体は痺れたように動かない。
それに、頭の中も同じように痺れてしまって、恥ずかしさすらよくわからなかった。
「や、だよ……?」
それでも何とか差し出した結城千種の震える手を、武藤めぐみはやんわりと掴んで微笑んだ。
「心配いらないって。 綺麗よ、とっても」
「ど、どうしたの……めぐみ……?」
「別に。 どうもしないけど……?」
心持ち切れ上がった目、長い髪とリボン、千種が羨ましくも思う整った顔立ち──それは確かに彼女の親友の、いつもの姿だ。
だが、妖しく潤む瞳で自分を見つめる視線は、決していつものめぐみのものではなかった。
「めぐみ、いったい……あっ! ふぁ、いや……っ」
千種の胸に、めぐみの手が触れていた。
痺れて動かない身体なのに、感覚だけははっきりと脳裏に響いてくる。 今まで感じたことの無い、鋭くて心地よい感覚。
「やだ……や……あっっ! し、痺れ……あ……」
ふくらみ。 とがり。 くびれ──。
脱がされた千種の、筋肉を感じさせない白くきめ細かい肌に、それ以上に白い手の愛撫が与えられる。
その手が新しい場所に進む度に、律儀にも千種の身体は痙攣にも似た反応を返してしまう。
「可愛い反応。 ……ね、千種。 あなた、まだ男の人を知らないでしょ?」
「め、めぐみ!? 何、言──ん……!」
震える唇に、一途な唇が重ねられた。
いやいやと顔を振って離そうとするも叶わずに、軽く歯で唇を噛まれたりもする。
「ん、んっ……」
──めぐみの様子がおかしい。 千種がそう思ったのは今日の練習のことだった。
オフ明けの軽い調整のみということもあって、動きはいつもと変わりなくも見えた。
しかし、どこか虚ろな表情で遠くを見ていたかと思えば、一転して熱っぽい目を千種に向けていたりもしていたのが気になったのだ。
風邪でもひいてるのかな、と心配して部屋を訪ねて、勧められるままジュースを飲んだ。
そうしたら……
「んっ……。やぁっ」
力の入らない手で千種が押しのけようとすると、あっさりとめぐみは唇を離した。
「めぐみ……もしか、して。 ジュース、なにか、入れ……?」
荒くなっている千種の吐息。
そこに鼻に掛かったような声が濃度を増しているのを知って、めぐみはゆったりと微笑んだ。
「ねぇ、千種。 人魚姫のお話って知ってる?」
「人魚姫? 知ってる、けど……なんで今、そんな話……」
「王子様に恋してしまった人魚姫が、薬をもらいに行くの。 自分の願いを叶えるような薬を……魔女のところに、ね」
「く、薬? 魔女って? そんなもの、いるわけ──あ、やぁ……っ!」
「私もそう思ってた。 魔女とか黒魔術だなんて、バカバカしいって。 それも同じレスラーの中にいるなんて噂、信じてもいなかったわ……」
呟きながら、めぐみの舌は上顎をなぞって這い、手は愛おしげに千種の肌を撫でる。
その手はやがて、千種の胸からお腹へ、お腹から太腿へと降りていった。
「ふっ……ああぁ……っ」
さすがに身をよじる千種だが、フォールの要領で押さえ込む──までもなく、身体を押し付けただけで容易く動きを封じてしまえる。
いつの間にか感じてしまっていたのか、太腿を押し付けた千種のそこは、下着の布の向こうでうっすらと濡れていた。
めぐみの手が、そこへと伸びる。 中へ。
「あの子に会って、薬と……もう一つのものをもらうまではね、千種……?」
「んぅ……!」
他人の指で初めて敏感な部分を触れられ、千種が息を詰めた。
「思ったとおりね。 千種、こういうことって慣れてないでしょ」
「……こういう……こ、と?」
「一人でも、あんまり……じゃない?」
「や、やだぁっ……そんなこと、めぐみ……!」
「安心して。 私が、開発してあげるから……」
めぐみは次第に増えてきた蜜のぬめりとともに、下着の中の千種を、その入口を弄んだ。
「ん……んっ……!」
千種は声を漏らすまいとするように、下唇を噛んだ。
慣れない身体では不快感となってもおかしくない刺激が、薬の効果か純粋な快感となって背筋を震わせる。
「我慢しなくてもいいの。 私といいこと、しよ……?」
紅く震える頬に口づけをしてから、めぐみはもはや蜜にまみれた指を、その源へと深く潜り込ませた。
「……いやっ! い、いやだよ……やめて……っ」
千種はさすがに抵抗を示してもがいたが、下腹部の奥の方は充分すぎるほど疼いていた。
薬とめぐみによって開かれつつある身体が、忠実に感応してしまう。
「あっ……つ……ぁ、あ……!」
「可愛いわ、千種……ずっと好きだった……」
「うぁ……め、ぐみ……っ?」
「でもね、言えなかった。 女同士だもん……仕方ないって」
めぐみの瞳が、一瞬だけ悲しげな色に染まった。
それを拭い去るかのように、めぐみは軽く首を振る。
上気した千種の鼻先を、長いめぐみの髪が幾筋か通り過ぎた。
「知ってる? あの子からもらった薬、なんでもアーサー王の騎士と王女様が飲んだ薬なんだって。 媚薬、惚れ薬──って口に出すとチープよね──だけど、名前の通り効くのは異性にだけ。 身体は疼いても、私だけを見るようにはならない……」
「う……あ…ん。 ……んん……くっ……!」
独白しながらもめぐみは愛撫を止めていない。彼女の指が音をひいて蠢くたびに、千種の腰から下はぴくぴくと反応していた。
「それじゃあ意味ないって、苦しかった。 だけど、あの子の黒魔術が私を救ってくれたわ。 もう一つのものを私にくれてね」
「黒、魔術……もう一つ……?」
熱が渦を巻いた意識の中で、千種はふと先ほどめぐみが言った人魚姫のことを思い出した。
魔女が人魚姫に与えたのは、人間の足。 代償として奪われたのは、美しい声。
目の前にいるめぐみの声は、いつものままだ。 であれば、彼女は魔女に何を奪われたというのか──。
「心配しなくても、ソフトクリーム一年分で済んだわよ」
こんな時にまで自分を心配して見上げてくる、千種の瞳。 その瞳から想いを読み取ったのか、めぐみは肩をすくめて千種の心の声に答えた。
「あの子は言ってくれたの。 もっと素直になればいいって。 素直になって、この世で一番大切なものが何かを知る人が増えれば、黒魔術に必要な闇の力が増大するから……って」
「一番、大切な……もの? それって……?」
今までのめぐみなら、強さとか勝利とかプロレスとか、ひょっとしたら千種だと言ってくれるかもしれないが、そういった答えが返ってくるはずだった。
しかし。
「そうよ、千種。 この世で一番大切なものは愛、そして快楽──今の私は、それをあなたに与えることができるの」
うっとりとした瞳で千種を見つめるめぐみは、何かを想像したのか、悩ましげに腰をくねらせた。
「めぐみ……しっかり、して。 その子に──そいつに、あやつられてるの……!?」
愛撫に悶えながらも真剣な千種の訴えを聞いて、めぐみはくすっと笑った。
「違うわよ……これは私の意志。 あなたを私のものにしたい……ふふふ。 見て、千種……?」
「め、めぐみ……?」
予感にも近い違和感に眉をしかめる千種の前で、立ち上がっためぐみの姿に変化が起こった。
するり、とめぐみの衣服が床に落ちる。 千種も見慣れた動きやすい服の下は、美しいほど白い素肌だった。
下着まで除かれたその身体の股間で、なにか、醜悪にも見えるものが勃ち上がる。
「……ぁ……嘘……っ」
千種が目を見張った。 親友の身体に、見たことのない器官が生え、脈打っているのだ。
そして……
……ドクンッ……
「あ……? あ……!」
その瞬間、千種の体奧で何かが弾けた。 同時に、全身からじっとりと汗が滲み出してくる。
(何……私の、身体……んぁ……どうなっちゃった……の?)
目に涙が溜まる。 激しいトレーニングの後のように激しく呼吸が乱れ、何かが身体を衝き上げて来る。
「あぅ……。 は、はぁ……」
激しく胸が上下する。 苦しい。 でも、目が離せない。
「これは私のもの……あの子からもらったもの……男のもの……」
(めぐみ……人魚姫……生えてる……魔女の……もらった……人間の足……男の……)
単語だけが流れる熱く激しい思考の渦に飲み込まれながら、千種はただ身体を悶えさせていた。
「はぁ、はぁ……なんでぇ? 身体が……あぁ、熱いよ……っ!」
「言ったでしょ、千種。 異性には効く薬だって……。 もうあなたは私しか見えない……私のこれしか、ね……」
めぐみはそう言うと、自分の男の部分を愛おしげに撫で上げた。
2
そんな物を間近に見るのは、はじめてだった。
めぐみのそれは、もうはちきれんばかりに膨張して、時々脈を打っている。
「ほら、千種。 あなたが欲しくて、こんなになっちゃってる……」
異常な情景が、虚ろに開かれた千種の目には、むしろ甘美な光景に見えていた。
「……ねぇ。 なめてみない……?」
千種はためらわなかった。 うっとりと、むしろ自ら進んで桃色の唇を前に出し、美しいめぐみの身体でただ一つグロテスクな箇所に舌をのばした。
「ん……」
「あん……千種ぁ」
熱くなっている部分に吐息がかかり、すぐに舌が触れる。
聴き取れないほどかすかな、ぴちゃ、という音。
怯えたように舌が離れた──それもわずかな間のこと。
「んぅっ……ん……」
「千種……あ、あっ……!」
すぐに、上気した息とそれに同調した熱い声が、さほど広くは無い部屋に響く。
「……いいわ、すごい。 ねえ、次は……」
「う、うん……」
めぐみの囁きに、千種は素直に従った。 めぐみのものを口に含ませる。
「……ん……んん」
千種は、抵抗らしい抵抗も見せずにそれをしゃぶり始めていた。
「むッ……んぅっ、んんぅっ……はぁふ……」
激しく卑猥な「くちづけ」の中に洩れる、千種の溜め息。
その溜め息もめぐみのこわばりに押さえられ、小刻みな喘ぎへと変わっていく。
「……ンんっ……ふぅっ……はぅ!」
「ふふ……あの薬、ちょっと効きすぎ……」
つり目気味な瞳を満足げに細めて、めぐみはゆっくりと千種の髪を撫でた。
「あ……。 千種、そこよ。 そこを舐めて……」
そう願うと、小さく頷いた千種の舌が口の中で期待通りに動きはじめる。
「大好きよ……千種」
「……ふぇぐみ……ふぁ、あっ……あん!」
めぐみが胸を揉むと、千種は身悶えして、奉仕が続けられないほど激しく快感を感じている。
そんな千種の下着の中に、体勢を変えためぐみが再び手を伸ばすと、
「うふふ……さっきよりもずっと濡れてるじゃない」
「いや……恥ずかしいよ……」
めぐみは下着に隠された千種を可愛がる。 念入りに。 解きほぐすように。
「あああっ……い……」
「……気持ちいいの?」
千種は、こくこくと頷いた。
「それじゃ、こっちは……?」
「ひ、ひぁ……!」
突起への刺激に、千種は激しく身体を痙攣させた。
めぐみは自身の──女の身体を、よく知っている。 同性がどこをどう責めれば感じるか、何をしてほしいと思うのか、充分に知りつくしている。
「もう、千種ったら。 そんなにもじもじしちゃって……」
「……だって、だってもう、私……っ」
「この程度で何言ってるの。 あなたには、これを入れてあげるんだから。 千種の最初が私だなんて……ふふふ、うれしい」
「ああ……いや、そんなこと……」
千種は小さな悲鳴をあげた。 しかし、身体はぴくぴく震えるだけで動かず、その手は弱々しくめぐみのものを握っていた。
「……あ、熱い。 熱いよぉ……」
手に感じたものへの感想か、尽きることの無い内側に対する喘ぎか。
入口への刺激だけではもはや物足りないのだろう。 どうしようもなく揺れる腰は最後の救いを求め、誘っていた。
「あらあら。 そんなに欲しいの? 千種」
「あ、あ……めぐみぃ……」
「ダメじゃない。 欲しいなら欲しいって言わないと。 ねぇ……どうしてほしいの?」
「だ……だめぇ。 だめだよ、めぐみ……っ」
「私はね……大好きなあなたに無理強いはしたくないのよ、千種」
恥ずかしさと飢えにも近い欲望に肌を紅潮させた千種に、めぐみは諭すように微笑んだ。
「千種の身体は、もう充分に開いてるわ。 後は、心が開いてくれるのを待つだけなんだから。 さぁ……?」
「な……バカ、バカ。 めぐみの馬鹿ぁ……」
「そうよ、あの時言ったでしょ。 二人とも大馬鹿だって。 私もそう、馬鹿の一念は岩だって通しちゃう──だから、私は諦めなかったの。 あなたを手に入れることをね?」
「んあぁ! あ、あっ! ふぁっ!」
めぐみの指が千種をさらに、意地悪なほどに追い詰める。
昨日までは想像の中でしか出来なかった事を、現実の千種に施しているのだ。
「あ……私、私! これ以上、やめ……やあ……!」
「駄目よ。 千種はもう私のものになったんだから……ね?」
「そ、そんな……私、そんなんじゃ……!」
「入れてほしいんでしょ?」
その一言で、千種の身体がびくりと浮き上がった。
もう押さえようも無い渇望の中、砂漠に垂らされた水のように、めぐみの言葉が染み渡っていく。 それも瞬く間に吸い込まれて、さらなる渇きが身体を満たしてしまう。
「あ、あ……」
「いいから言いなさい……。 そしたら、そのもどかしさから解放してあげられるのよ。 もう、我慢できないんじゃないの?」
千種は滴る汗に顔を歪め、背けて──唇をわななかせた。
「うん……もうだめ。 めぐみ、助けて……」
千種は、もうどうしようもないといった面差しで、めぐみにすがった。
「欲しいのね?」
からかうような念押しに、千種は再び口をつぐんでしまう。
だが、いったん溢れた欲望と崩れた理性は決してとどまってはくれない。 今までは想像すらしたことのない言葉が、口をついて出る。
「ほ、欲しい……。 疼いて、おかしいの。 あそこ、切なくて……お願い、めぐみ……!」
「これで……いい?」
めぐみは、自分に生えたばかりの器官を手に取ってみせる。
「んあ……お、お願い! そ、それ、それ……」
あれで、自分は気持ちよくなれる。
自分だけじゃない。 めぐみも、一緒に気持ちよくなれるんだ。
そう気付いたとき、千種は心の底から声を上げた。
「ちょうだい……めぐみ、ちょうだい! 私も、ずっと、めぐみのこと……! だから、一緒に気持ちよくなろう……!」
「うれしいわ、千種。 うん、一緒に気持ちよくなろうね」
熱く濡れた瞳の懇願に、めぐみもうれしげに応えていた。
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