3
「やっ……だめ、めぐみ。 やっぱり、やめ……」
「もう、まだそんなこと言ってるの? 抵抗する気もないくせにね?」
めぐみの苦笑を映す千種の官能に潤んだ瞳は、もうどうしようもなく慰めを欲していた。
浮き上がった腰は言葉に反して大きく突き出され、疼きを癒してくれる確かなものを求めている。
「千種……」
自分を求めてくれている場所にその確かなものの先をあてためぐみが、感無量の想いで呟いた。
「私たち、これからもずっと一緒よ……」
「……う…ぅあぁッ……!」
中に押し入っていく。熱い蜜が絡まってきて、さらに中へと潜り込んでいく。
「め、めぐみぃ……」
「千種ぁ……」
熱い溜め息が重なり合う。
それまで互いが、そんなことは決してありえないと思っていた事が、現実となっていた。
「う……うぁ!! あうっ!」
突如、脊髄を駆け上った衝撃。
千種は持ち前の根性や我慢強さなど忘れ、ただ口を突くままに鳴いた。
「めぐ……痛……これ、やぁ……っ!」
千種の可愛らしい顔が苦痛に歪む。
だが、この顔もそのうちに変化し、強烈に湧き起こってくる快感に喘ぎはじめることになる。 めぐみはそう確信していた。
「大丈夫よ。 きっとすぐによくなって、我慢できなくなっちゃうんだから……」
「あぅ……そんなの……っ」
めぐみの手が、汗ばんで震える千種の裸身に伸びた。
白魚のような指を、上気した乳房に這わせていく。
「んっ! あっ……ぅ……っん……」
自分のものよりも幾分大きな胸の膨らみをいたわるように撫でさすりながら、めぐみは大切な親友を貫いた杭をゆるゆると動かし始めた。
「……ッ!」
叫び出したいような衝撃が、千種の喉奥に込み上げてくる。
(ああっ……な、何、コレェ……)
「千種……大丈夫よ。 ね、大丈夫……」
震える唇から苦しげに漏れる吐息に自分の熱い吐息を混ぜてから、めぐみはわななく千種の唇に、自らのそれを合わせていった。
「んくっ……ん……ん……!」
二人分の呻き声が猫が水を舐めるような音とともに花びらと化して、二人きりの空間に舞う。
その淫靡な響きと絡められるめぐみの甘い舌が、千種に痛みを忘れさせる。 先ほどまでの妖しい熱さを、身体中に呼び戻してくる。
「ふぁ……千種。 熱い……」
「めぐ、み……。私も………あっ! あんっ!」
離れた唇を細く繋いだ唾液の糸が、千種の身悶えで千切れて消えた。
最初はほんの僅かに。 そして、徐々にはっきりと。
めぐみの腰が蠢くにつれ、千種の腰から背筋にかけてを、痛みとは違う熱い何かが痺れさせていった。
「……はあっ、あ……はっ……あ……」
耐えるように握り締めていた千種の手が、何かを求めて空を掴むように動く。
「ねえ、千種……私のコレで、感じてる? 感じてるのね?」
「……や…やぁ……」
千種はぐったりとしたまま、ただ首をわずかに横に振るだけだった。
上気した白い身体が、ぴくぴくと、あるいはびくびくと、震えている。
「ふふ……千種ってば、やっぱり可愛い……」
「……あッ!」
甘い刺激が迸り、千種は小さな声を上げた。
めぐみが動き方を大きくした途端、鋭い愉悦が中枢神経を貫いてきたのだ。
「いや……こんな。 めぐみ、めぐみぃ……っ」
「何言ってるの……千種だって、もう気持ちいいんでしょ?」
「んぅ……あっ、あっ!」
千種は首を激しく振った。
少し汗ばんだ髪が目の前を舞って、めぐみの想いを昂ぶらせる。
その想いで相手の胎内を染め上げようとでもいうように、腰を動かし続ける。
「ぅん! うっ! あはぁ! いや、いやぁ……あぁん!」
千種は恥ずかしさに逃げてしまいたかったが、もう自分自身の心も身体もそれをさせてくれない。
どころか、宙を漂わせていた両腕は、更に愛撫を求めるように親友の少女に抱きついてしまう。
それに……。
「ねえ、千種……。 女の子が腰なんか動かして……どこが、嫌なのよ?」
千種は知らないうちに、めぐみに合わせて腰を蠢かせていた。
「あ……いや、いやあ……あ、そ、そんなこと、うくっ……」
しかし、恥じらいも自己嫌悪も、今の千種を我に返させることはなかった。
答える間も、そしてめぐみの方が一旦動きを止めても、その動きは止まろうとしない。
「千種ったら、いやらしい。 でも、そうさせたのは私なのよね……?」
めぐみの瞳は潤んでいた。 赤い舌でぺろりと唇を舐め、満足げな吐息をつく。
「そうだよ。 私じゃ……ないもん。 めぐみの、めぐみのせいなんだから……っ」
千種は頭を振る。 その瞳も、すっかり潤んで熱を帯びていた。
『この世で一番大切なものは愛、そして快楽』──。
千種ももう、それ以外の全てがどうでもよくなってしまいそうだった。
「だから……めぐみのせいだから、だから……」
「……千種?」
「だから……もう、助けて……めぐみっ。 もっと、動いて……何とかして……!」
「やっぱり……だから大好きよ、千種っ……!」
「あっ、あぁぁ!? あっ、あ、ああん!」
めぐみのものが全て千種の中へ埋もれ、前後左右に激しく蠢いた。
今までと違う感覚に、千種はただただおとがいを反らす。
(なに…これ……気が、変になっちゃう……!)
二人の間から響く淫らな水音が、更に千種を刺激した。
「んっ……くっ……ふぁぁっ!」
その水音と同期して揺れる乳房のリズムで、この上ない快感が二人の少女に走る。
「あっ……すごいわ、千種。 あなたったらやっぱり、エッチな子だったのね……」
「言わない、で。 めぐみぃ……ぁあああああああっ!」
「何言ってるのよ。 まだまだ欲しいくせに……」
「……!!!」
めぐみが送り出した、息が止まるほどの衝撃、そして快感。
千種は全身を小刻みに震わせ、荒い息を継いで、
「……あっ、いいっ。 気持ち、いいよ! 気持ちいいよぉっ……!」
とうとう問われずとも千種は繰り返し愉悦を訴え、腰を回転させた。
(──た、たまらない……私ってば、いやらしいよぉ。 でももう……!)
止まらない、止められない。 千種の腰が、快感を求めてめぐみの下で揺れる。
「あっ、ああっ、ああぅっ……!」
押し出された蜜が糸を引いて、よく洗濯されたベッドのシーツを濡らした。
「あ、あっ! めぐみ、めぐみっ!」
千種が一際高い声を耳元であげる。
その声と、下半身をくるむ感触とに夢中になって、めぐみは腰を激しくさせた。
「千種ぁ、千種っ……!」
「あ……あぁあ……っ!!」
千種はもはや抗うつもりも無く、めぐみに犯されるまま、しなやかな体を素直に差し出して、ただ腰の動きだけで彼女に応える。
「くっ……めぐみ、めぐみぃ……私、私……!」
身体を震わせながら、自分を抱く少女を必死になって呼び、しがみつく千種。
「あ、あ、なに、これ……。 千種……も、う……ダメ。 私が、我慢……」
「だ、だめぇ……!」
背筋を鮮烈なまでに駆け上ってきた未知の感覚。
その感覚に耐え切れそうになく一度離れようとするめぐみの腰を、千種は両足で挟んだ。
「だめ、めぐみ……抜いちゃ、まだ抜いちゃ……!」
「うん……うん、いいわ……でも、でも……出ちゃう……!」
「はっ、はっ……あああっ! 私も、だめだめ、めぐみ! めぐみっ!!」
「ちぐ……さっ!!」
時が、一瞬だけ停止した。
呼吸も止まる濃密なまでの快感の中で、ただ互いの鼓動だけが激しく打ち鳴らされ──
「あ、ああああああああっ!!!」
「いくっ、いっちゃうぅぅぅ!!!」
全てが弾けて、真っ白に呑み込まれる。
その瞬間、二人は限界まで喉を仰け反らせ、この夜もっとも大きな嬌声を上げたのだった。
4
「…………ぐさ。 千種ってば。 ほら、しっかりしなさいっ」
優しいが、少しだけキツさの混ざった声。
加えて、ゆさゆさとこれも少しだけ心地よさの枠を超えた振動が、気だるい夢の世界から千種の意識を浮かび上がらせた。
「ん……。あ、めぐみ……おはよ」
「おはよ、じゃないの。 まだ夜中よ」
暗がりの中、全裸のままで自分を見下ろして呆れたように息を吐く愛する親友に、千種はまどろみの中で微笑んだ。
二人であんなことをしたばかりなのに、確かめ合ったばかりなのに。
昨日までと同じ、何もなかったかのような態度のめぐみが、少し可笑しかったのだ。
そう、まるで何もなかったかのような──。
「え……えええっ!? まさか、今の全部、夢ぇ!?」
「そんなわけないでしょ」
軽いチョップが、上体を起こした千種の額にびしりと決まった。
「だ、だってめぐみっ! その、ほらっ、めぐみの、その。 なんていうか、アレが……!」
頭を押さえた千種の視線は、めぐみの下半身、おへそよりもさらに下方に注がれていた。
そこについ先ほどまであったはずのもの。 ただし、本来ならあるはずのないもの。
それはもう、どこにも無かった。
「あら、そんなに……気に入ったの?」
「き、気に入ったって、そんな……!」
かぁっ、と頬を赤らめて固まり、それから千種はおずおずと首を振った。
横ではなく。 縦に、一回。
「んっ」
と、めぐみが顔と目線で促した方向に千種も目を向けると、そこには時計があった。
午前零時を、五分ほど過ぎている。
「千種が寝ちゃったんだから、仕方ないじゃない。 おとぎ話の魔法は、午前零時で解けるものなんだから」
──それって、人魚姫じゃなくて、違うおとぎ話だったんじゃ。
などと思ったらしい千種に向けて、
「ふふふ。 残念そうね、千種」
「う、うん……じゃなくてっ、別にそこまでは……えっ? ひぁっ!?」
妖しい微笑みとともに伸びてきためぐみの手が、千種の身を電流でも浴びたかのように震わせた。
めぐみの手の先、自分のおへその下に慌てて目をやった千種が、そこで息を呑む。
めぐみに掴まれた、千種の方に生えたモノを見て。
「これって……」
「今度は、千種の番よ。 さぁ……」
めぐみの声と、二人を取り囲む大気とが、再び艶かしい粘りを帯びてくる。
千種の戸惑った瞳が、めぐみの甘くて熱い瞳と合った瞬間、陶然と同じ色に染まりきって。
「うん……めぐみぃ……!!」
いざなわれるように、親友の愛しい身体に自ら抱きつき、押し倒していった。
二人の夜は、まだまだ終わりそうになかった。
「あれ……でも。 てゆーことはさ、めぐみ。 私のこれ、明日の午前零時まで……?」
「当然、そのままかな。 ま、練習とか大変だと思うけど。 頑張ってね、千種♪」
〜 おしまい 〜
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