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師弟の思い


ソニアたちのアメリカ留学中、祐希子の周りで特に大きな出来事は無かった。

いや、祐希子自身にとっては、理沙子とリングアナのファウルチップ服沢が交際中であることを富沢と武藤から教えられたことは大きな事件だったのだが、ことプロレスに関する話では、これといった事件は起きなかったのだ。

平和といえば平和。しかし「祐希子にしては大人しすぎる」という声も確かに存在した。
その大半は「今は弟子のソニアの面倒見で大変なのだろう」で納得するものであったが、その理由自体が不満だという声も、約一名分だけ存在していた。

4-1 4-2

「オーッホッホッホ! わたくしだってちょっとその気になれば弟子の一人や二人、すぐに持つことができましてよ」

「市ヶ谷さあん、あたし別に弟子になんてしてくんなくていいですう」

「おだまり、小娘! このわたくしがもったいなくもあなたごとき二流レスラーを弟子にして差し上げると申しておるのに、それを断るとおっしゃるの!?」

「ふえええ〜んっ」

…単なる対抗意識だけなのかもしれない。


一方、帰国したソニアの成長ぶりを見た理沙子と祐希子は、現世界タッグ王者である武藤、結城とのシングル戦2回ずつをソニアに用意する。

「あのクラス相手にどこまでやれるのか見てみたいの。その様子を見て、アジアヘビーのベルトに挑戦させるかどうか決めようと思うわ」

「驚かせてくれるかも知れませんよ。練習でもすごくいい動きしてましたしね」

「フフ…期待してましょうか」


武藤、結城とのシングル戦ではさすがに苦杯をなめるソニアだったが、展開はほぼ互角。
勝気なソニアゆえ結果には満足しなかったものの、自分の実力がトップクラスに近づいているという手応えは感じていた。

ファウルチップ服沢との婚約を発表したばかりの理沙子も、永原の持つアジアヘビー王座への挑戦を水面下で調整し始めていたのだが…


「…帰国してからしばらく経つけど、祐希子さん、まだベルトに挑戦させてくれない。タイトルマッチできる実力は付いてきたって思うのに…」

「オーッホッホッホ!!」

4-3

「うわっ…! い…市ヶ谷さん!?」

「オーッホッホッホ! ソニアさん、あなた、このまま祐希子の下にいては、ベルトに挑戦する機会は巡ってきませんことよ?」

「え? ど、どうしてですか?」

「あの女はすっかりフ抜けてしまっていますわ。自分から世界王座を取り戻そうという気がさらさらございませんもの。そんな女と一緒にいては、いつまでたってもチャンスはやってきませんわ!」

「そ…そうでしょうか…?」

「そこで! あなたに特別に、わたくしの計画に参加させて差し上げますわ!」

市ヶ谷の計画、それは「世界王座統一計画」とでも言うものだった。

現在、世界王座と名の付くベルトは、カオスのIWWF、サンダー龍子のWWCA、市ヶ谷の弟子 (←あくまで市ヶ谷の言) メガライトのEWA、の3つ。その全てを自分が奪おうというのであった。

「まずはWARSにわたくし直々に乗り込んでいって、龍子からWWCA王座を奪いますの。

続いてWOLFに乗り込んで、エース面してふんぞり返っている山田をコテンパンにして差し上げて、メガライトを引っぱり出しますの。

そこでEWA王座を奪い、後は新女に戻ってカオスを倒せばこのわたくしが史上初の統一三冠王者となる…ああ! 何と素晴らしい計画なのかしら!

かつてこのような雄大で崇高な野望を持ったレスラーが存在しましたかしら? いいえ存在などいたしませんでしたわ!
なぜなら、そのような野望を持つことのできる、真に強く美しいレスラーなど、このわたくしの他には存在しないのですから!」

(…ここまでキョーレツに自画自賛できる人なんて、他にいるんですかね…)

「わたくしが統一王者となれば、それに付き従うあなたがたにもチャンスが巡ってきますわ。
返事は今すぐにとは申しません。ですが、ご自分の今後を考えた場合、答えは自ずと決まってくるでしょうけども! オーッホッホッホ!」

まさに嵐のように過ぎ去った市ヶ谷に呆然とするソニアだったが、世界王座が3人もいる必要は無い、というその言に一理はあると感じていた。
そして、本当は祐希子こそがそういうことを言うはずではないか、とも。

「祐希子さんにはもう、ベルトへの執着心がないのかな…
…あたしが何かすることで、祐希子さんの気が変わるなら…」


《…い、一体どうしたことでしょうか!?
新日本女子プロレスのウルトラ高飛車ファイター・ビューティ市ヶ谷が、小縞聡美、ソニア稲垣を引き連れて突如このWARSの会場に乱入うう!
サンダー龍子と対峙し、まさに一触即発の状態となっております!》

4-4

「…何しに来たんだ、市ヶ谷? とてもウチの興行をおとなしく見に来たようには見えないね!?」

「オーッホッホッホ! この全国に600億人のファンを持つこのわたくしが、あなたの持つWWCA世界王座を直々にいただきに参りましたの。こうしてこちらから出向いて来ましたのに、出迎えのあいさつもないとは失礼千番もはなはだしいですわね!」

「どの面下げてそんなこと言ってるんだ!? まったく相変わらずな奴だな!
上等じゃない。あんたたちまとめて返り討ちにしてやるから、覚悟しときな!」


1-4

「ソニアが市ヶ谷と一緒にWARSに殴り込んだあ!?」

「そう。私も昨日のウチの興行が終わってから知ったんだけど、3人で殴り込んで、市ヶ谷はサンダー龍子の持つWWCA世界王座への挑戦を要求したらしいわ」

「何やってんだかあのバカ…それで、どうしてソニアまで一緒になって…?」

「分からないわ。祐希子、あなたは何か心当たりないの?」

「…あいつも何か考えがあるんじゃないですかね。もういっちょまえのレスラーなんですから、自分で考えて行動すればいいんですよ。あたしはあいつを信じてますから…」


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