「あなた、この前テレビに出てたわね。確か、ショーレスリングのプログラムだったと思うけど」
「ショーレスリングはないわねえ。プロフェッショナル・レスリングって呼んでほしいものね」
「プロ・スタイルっていうのは、キャッチのようなスタイルのことを言うのよ。飛んだり跳ねたり、あれはサーカスだわ」
「スープレックスとサブミッションが、そのサーカスに負けることはよくあるのよ。 …で、あなたは何なワケ? あたしとレスリング論を戦わせたい、ただの元気のイイお嬢ちゃんなのかな?」
「…あなた、あのニュージャパンレディってオフィスのトップレスラーでしょ? このあたしをスカウトしない?」
「…驚いた。変わった売り込み方もあったものねえ」
ちょうど実施中の新人テストを勧めても「フィジカルテストではセンスは分からない」。
体力が無いと死んじゃうだけと言っても「体力なんて後からいくらでもつけられる」。
気持ちの大切さを説いても「日本人お得意の精神論」。
さしもの祐希子も目の前の少女に呆れるが、不思議と悪い気はしなかった。
「…その、超がつきそうなくらいの自信過剰ぶりは評価できるわ。プロにはハッタリも必要だしね。名前くらいは聞いておこっかな?」
「ソニア稲垣。ママはイギリス人、パパが日本人なの」
「ソニアちゃんね。覚えておくわ。それにしても、ママが英国淑女のワリにはマナーが悪いわね」
「…トレーニングのジャマして悪かったわ。ごめんなさい。
確かに言い方は間違ってたかもしれないし、精神面が大事なのも手続きが必要なのもよく分かるわ。ただ…あたしはレスリングが好きなの。それだけは分かって」
「…よく分かったわ」
「さよなら、チャンプ」
「バイバイ、またどこかでね。もっとも、あたしは今はチャンプじゃないけどね。
…うーん。あそこまで言うんだったら、ちょっと試してみても良かったかなあ…」
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