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帰国した祐希子たちは、社長の計らいもあって、すんなりとEXタッグトーナメントにエントリーされる。
狙いはただ一人、IWWF世界王者となったビューティ市ヶ谷。 しかし、レッスルの女神はさらなる波乱と戦いとを望んでいた…
『な、な、なんと大波乱!! ビューティ市ヶ谷率いるタッグチーム、トーナメント1回戦で敗退!! 市ヶ谷を葬ったのは今回が初来日のダークスターカオス! 市ヶ谷をも凌駕しようかという圧倒的なパワーファイトで、最後は強烈なラリアートをたたき込んで市ヶ谷をフォールいたしました!!』
「…な…なんなのコイツ…あの市ヶ谷が手も足も出ないじゃないの…」
「くっ…このわたくしが負けるなんて、何かの間違いですわ!」
「なーに言ってんだか。たった今弁解のしようのないほどハッキリ負けたじゃないの」
「カオスさんとやら、あなた、このわたくしの持つIWWF世界ヘビーベルトに挑戦させて差し上げましてよ!」
「…な、なんですってえええええ!?」
「こんちは、理沙子さん。市ヶ谷の奴、EXタッグトーナメントそのものを潰しちゃって。何様のつもりですかね!」
「ふう、女王様のつもりなんでしょうね。リング上であれだけダークスターカオスを挑発したからね。結局、EXタッグトーナメントの方を中止せざるを得なかったわけ。お客さんは結構ノってるみたいだから、良かったけど」
「あたし達、レスラーは納得いきませんよ」
「そうよね。でも、あの前王者レミー・ダ・ダーンを倒した市ヶ谷と互角以上の試合が出来る無名レスラーがいたなんて…世界は広いわね」
「ホラ吹きタカビー女」市ヶ谷にムカっ腹を立てつつも、ダークスターカオスの底知れぬ強さに興味も感じる祐希子。
その祐希子の眼前で繰り広げられたIWWF世界ヘビー級タイトルマッチ、ビューティ市ヶ谷−ダークスターカオス戦は、史上空前のスーパーパワーの応酬の後、ダークスターカオスが勝利を収めた。
「フフッ…。いわばこれで、ベルトは本来収まるところに収まったわけだ。世界で最も強い者の手の中に…な」
『高々とベルトを掲げる新王者ダークスターカオス! …あーっと! マイティ祐希子です! マイティ祐希子が、新王者カオスの前に立ちはだかります!』
「…なんだ? ガールはもうベッドで寝る時間じゃないのか? それとも、子守歌でも歌って欲しいのかな?」
「今日の試合を見てて、市ヶ谷よりあんたの方が、遥かにチャンピオンとしてふさわしいことが分かったわ。一応前王者に挑戦者として指名されていた者として、あんたへの挑戦をアピールしておきたいの」
「ハハッ、いいだろう。今度、IWWFの主催するリーグ戦がアメリカで開催される。その名は『アテナクラウン・V1サバイバル』。IWWF世界ヘビー級王座を賭けた熾烈なリーグ戦だ。このリーグ戦で決勝まで勝ち上がってこい。私はそこで待っている」
「『アテナクラウン・V1サバイバル』…」
マジソン・スクエア・ガーデンで開催される、史上最高の女子プロレス夢の祭典『アテナクラン・V1サバイバル』。
IWWFヘビー、AACヘビーの王座経験者を中心に集められた8名による総当り戦は連日会場を熱狂の渦に巻き込んだ。
祐希子はいくつかの引き分けはあったものの着実に勝ち星を積み上げ、市ヶ谷らをかわして、カオスとの決勝戦・IWWF世界ヘビー級タイトルマッチに臨むことになった。
至高のベルト、IWWF世界ヘビー級王座を競う当代最高のレスラー、ダークスターカオスとマイティ祐希子。
リーグ戦でも一度戦い、互いの実力を認め合っていた者同士の戦いは、まさに死力を尽くした激戦となった。
両者ともに相手を仕留めることができずに時間は刻々と経過。フルタイムドローかと観客が思い始めたその時…
『マイティ祐希子! 最後にリング上に立っていたのは挑戦者マイティ祐希子だ! この瞬間、日本女子プロレス界に、新たなる伝説が誕生いたしましたあ!!』
ドローによる王座防衛など望まない──その意志を込めたカオス2発目のダークスターハンマーを、祐希子はヒット寸前に見切って自らの腕を絡めた。 バランスを崩したカオスの背後に回って変形のJOサイクロン。 カウントは2.9。カオス、王者の執念。 しかし、そのカオスの執念を断ち切ったのは、コーナーポストに駆け上がった祐希子渾身のムーンサルトプレス。 新しい女神の誕生に相応しい、美しい飛翔だった…
「…やられたよ、ジャパニーズガール」
「…カオス…」
「だが、次にやるときはこうはいかない! 必ずユーを、このマットに沈める! 私がその王座への第一コンテンダーだということを忘れるな」
「望むところよ。もう一度勝って、どっちが本当に強いのかハッキリさせてあげるわ!」
「ちょーっとお待ちになって!」
「…う…毎度お馴染みのこのカン高い声は…」
「あなたがた、このわたくしを差し置いて何を勝手に話を進めていらっしゃるの? わたくしがそのベルトを直々に奪い取って差し上げますから、感謝することね。オーッホッホッホ!!」
「フフッ…まだそのベルトに挑戦したことのない選手にチャンスを与えるのが筋というものじゃなくて?」
「えっ、そ、そーなのか? それじゃオレも立候補しよーっかな?」
「あら、あなたたち、先輩を出し抜いてそーいう話をするのはよくないわ。やっぱりここは年功序列っていうものが…」
「そ、そーだよ。いーこと言うじゃん理沙子。祐希子、やっぱり先輩の恩義は大事にしないとね」
「え…? カワイイ後輩にはチャンスはくれないんですか?」
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「…ああん、もう!こうなったらみんなまとめてかかってらっしゃい!!」
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