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決起


激動する新日本女子プロレスマット…
ドラゴン藤子の引退により、名実供に一つの時代が終わりを告げ、新たな風が通り抜けようとしていた。
そしてその風は、周囲の熱気を巻き込み、渦を巻き始める…


3-1

「…祐希子さん、最近何か来島さんと悪企みしてません?」

「え? ええ? な、なんのコトぉ?」

「隠したってだめですよお。祐希子さん、すぅぐ顔に出るんだから」

「…実は菊池ちゃんに黙って、寮の台所に隠してあるケーキを、恵理と二人で分けて食べ…」

「ふざけないでくださいっ。あたしまじめに聞いてるんですからっ」

「…はあ、あんたには黙っておこうと思ってたんだけどな。言えば絶対ついて来ると思ったから…」

「あたし、祐希子さんの様なジュニア王者になるって決めてます! だから祐希子さんの行くところはどこまでも付いて行きます!」

4-2

「…何か面白そうな話をしてるわね」

「南…ありゃりゃあ、聞こえた? ま、バレちゃったんなら言い訳はしないけど、あたし達が行動を起こすまでは黙っててくれない?」

「そうね…私もその悪企みとやらに加えてもいい…っていうんなら、黙っててあげないこともないけど?」

「…まーったく、なんでこう物好きが多いんだろうね、この団体は。はははっ、ホントにもう、楽しくなってくるじゃないのっ」


そして、幾ばくかの時が過ぎて。
パンサー理沙子が前人未到のアジアヘビー級王座10度目の防衛を果たしたそのリング上──

4-3

「パンサー理沙子!!」

「祐希子、これは一体どういうつもり…? 私の防衛を祝福してくれているようには見えないわね…」

「アジアヘビー級王座10回連続防衛…たしかに偉業ですよ。しかしそれは、並の才能しか与えられていない者が成し得た時に送られるべき言葉。あなたが持つその潜在能力には、およそ似つかわしくない賛辞だとは思いませんか?」

「……」

「もしあなたがそれでいいと思っているんだとしても、あなたに敗れていった人たちは、そうは思っていないはず。あたしたちはそんな人達のため、そして何より、自分たちの未来のために、ここにパンサー理沙子以下新日本女子正規軍に対し、宣戦を布告する! まずはパンサー理沙子、あなたのベルトをいただく!!」

会場全てを騒然とさせる、突然の反乱劇。
観客の誰もが、若手4人に叛旗を翻された王者・理沙子の反応に注目したその時──

「ちょーっとお待ちになって!!」

4-4

「オーッホッホッホ!! あなた方如きの陳腐な実力でアジアヘビー級王座に挑もうなど、例え誰が許そうと、このビューティ市ヶ谷が認めませんことよ!」

「ちょうどいいわ市ヶ谷。あたしたちだって、何もこのまま素直にアジアヘビー王座に挑戦できるなんて思ってない。まずは手始めに、今までの借りを全部含めて、あなたをマットに沈めて上げるわ!」

「オーッホッホッホ!! わたくしがせっかくその身の程知らずぶりを指摘して差し上げたというのに、まだお分かりになっていないようですわね? 全国600億人のわたくしのファンの前で、惨めな姿をさらすがいいですわ!!」

「…理沙子さん、あたしたちの挑戦、受けないとは言わせませんよ」

「…やんちゃなお嬢ちゃんが多くて困るわね。いいわ。現アジアヘビー級王者の力がどんなものか、あなたたちにたっぷりと教えてあげる」

毅然とした態度で祐希子たちの挑戦を受け止めた理沙子。
その表情が、どこか嬉しそうにも見えたのは、祐希子たちの気のせいか、それとも…


革命と言えば聞こえは良いが、反乱という形で新女を二つに割ってしまった祐希子たち。
しかし、幸いなことにマスコミやファンの反応は好意的で、その後押しもあってか試合でも結果を残すことができた。

そして、その闘いぶりを評価した新女フロントは、革命軍に正規軍とのアジアタッグ王座決定戦を提示する。

相手は先輩の伊集院光とテディキャット堀。
祐希子は悩んだ末に親友・来島とのタッグで試合に臨んだ。


『革命軍コンビ、見事に正規軍コンビを破ってIWWFアジアタッグ王座を獲得いたしました!!』

4-5

「やったぜ祐希子!! とうとうオレ達がタッグチャンピオンだ!!」

「恵理の頑張りのおかげよ! これでまた一歩、パンサー理沙子に近づいたね」

「ああ。祐希子は世界ジュニア王者だし、こうなったら革命軍でベルトを総ナメだ!」


マイティ祐希子率いる革命軍の猛威は、次第次第に新女全体を覆っていた。

それにつれ、パンサー理沙子の持つIWWFアジアヘビー王座への挑戦を望む声も、日増しに大きくなりつつある。
しかし、そんな声に対して巨大且つ強烈な不満を抱く選手がいた。

「納得いきませんわ!! このわたくしを差し置いて、あんな実績も実力もない田舎娘共がタイトルに挑戦するなんて!! こうなったら力ずくで、あの物わかりの悪い田舎娘に分からせて差し上げる必要がありそうですわね!」

…言うまでも無く、戦う問答無用の高飛車令嬢、ビューティ市ヶ谷その人である。


4-7

『マイティ祐希子、アジアヘビー王座挑戦に異議を申し立てているビューティ市ヶ谷を見事下しました! これで堂々と、パンサー理沙子との雌雄を決する試合に臨むことができるでしょう!!』

「くっ…! こんな試合でわたくしに勝ったなどと思わないことね! ま、あなたのような小物には一生かかっても巡ってこないような今回のビッグチャンス、邪魔をしては余りにも不憫というもの。わたくしの広い心に免じて、挑戦を認めて差し上げてよ!」

「…も、勝手に言ってなさいっての…」


「…祐希子、いよいよ理沙子さんとタイトルマッチだな。どんな気分だ?」

「…そうだね、約束した相手がすり変わっちゃったけど、今 日本で一番強いレスラーと戦うんだってことには変わりない。確かめてくるよ。ドラゴン藤子に引退を決意させ、ブレード上原が最後まで本気にさせることができなかったアジアヘビー級王者の強さをね」


『時は来たれり! IWWFアジアヘビー級ベルト挑戦者…マイティ祐希子!』

4-8

一進一退の攻防。

バックドロップ、高速のフロントスープレックス、串刺しラリアート、フェイスクラッシャー、DDT…
鋭い技の連続に、武道館に足を踏み鳴らす不気味な音が響く中、一瞬の隙をついた理沙子が祐希子を必殺のキャプチュードの体勢に捕らえた。

「………くっ!」

必死の形相でロープを掴んだ祐希子を投げきれず、後頭部をマットに打ち付ける理沙子。ふらつく王者の姿に、祐希子は勝負を賭けた。

ボディスラムからムーンサルトプレス2発のフルコース。
それでもフォールを返す理沙子に、祐希子は新技・JOサイクロンを繰り出した。
そして…


4-9

『ついに、ついに無敵の王者パンサー理沙子が敗れ、その瞬間、新たなるチャンピオンが誕生いたしましたあ!! その新チャンピオンの名はマイティ祐希子!! 新女正規軍に牙を剥き続けたマイティ祐希子の戴冠に、今館内は大歓声に包まれています!!』

「…完敗ね、祐希子」

「さすがにドラゴン藤子が見込んだ人ですね…本当に厳しかったです。でも、しつこいようですが、パンサー理沙子の底はまだ見えないような気がするんですけど…?」

「…そうね、でもそれは出さなかったんじゃなくて、出せなかったのよ」

例え潜在能力があるとしても、それを限界まで引き出せなければ世界は取れない。
自分の実力以上のものをここ一番という大事な場面で瞬間的に爆発させる能力…それを持つ者だけが、”本当の王者”になれる。

自分には無かったその能力を持っている者が現れた…そのことを理沙子は「嬉しい」と言ってくれた。

「このまま立ち止まらないで、誰も追いつけないくらいに前に前に進んでいってね、祐希子」

「……理沙子さん、あたし何か、理沙子さんのこと誤解してたかも知れません」

「レスラーはね、お互いに戦ってみなければ分からないことが、たくさんあるのよ」

「…戦ってみなければ…ですか…そうかもしれませんね」

笑顔を見せる理沙子の前で、リングに上がってきた仲間からもみくちゃにされる祐希子。
そんな祐希子に、理沙子は一つの”約束”を持ちかける。

「女子プロレス界の最高峰、IWWF世界ヘビー級王座をあなたの手で奪ってくる…たぶん藤子さんや京子でも、同じ事を言うと思うけど?」

「…世界…あたしが世界ヘビーを…かあ。ははっ、何だかワクワクしてきたなっ」

「厳しい道のりとは思うけど、あなたなら大丈夫よ。私たちがどうしても届かなかった世界のベルトを、あなたの手で日本に持ち帰って」

「…持って帰りますよ、必ず。あたし、約束は必ず守る主義ですから!」


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