市ヶ谷財閥の令嬢にして女子柔道世界選手権無差別級王者・市ヶ谷麗子の、まさに鳴り物入りの新女入団。
新人とは言え実力・実績ともに折り紙付きの彼女ではあったが、態度はそれに輪をかけて巨大だった。
「すでにわたくしは柔道界で敵無しの状態。そんなわたくしに対して、ほんのわずかながら対抗できる方々がいらっしゃるのがこのプロレス界だとお見受けいたしましたの。ま、なにはともあれ、これで新日本女子プロレスは安泰というものですわ。何しろゆくゆくはこのわたくしがエースとして燦然と君臨いたしますのよ」
『あの…リングネームなどはもう決まってるんでしょうか?』
「リングネーム…そうですわね。このわたくしの気高さと美しさを表現するに十分なリングネーム…ビューティフルな…そう、『ビューティ市ヶ谷』とお呼びいただこうかしら? その名のとおり、ビューティフルでワンダフルでパワフリャーなレスリングをみなさんにお見せいたしましてよ。オーッホッホッホ!!」
「なんなのアレ…」
「ま、その辺でチョロチョロと使い走りをなさっている方々とは、住む世界が違うというところかしら?」
「! なーんだってえ!?」
後先考えずに飛び出した祐希子は、これも後先考えずに、衆目の中で市ヶ谷に噛み付いた。
「あたしの目の前にいるのは単なる大口叩きの成金ワガママ女ね! こんなのが世界王者なんて、柔道も落ちたモンだわ!」
「…その度胸だけは褒めて差し上げましてよ…このズン胴田舎娘! どうやらあなたのような二束三文のレスラーとわたくしのようなエリートの違いというものを、体で分からせて差し上げる必要がありそうですわね!」
「上等じゃない! マスコミの前で化けの皮がはげても責任持たないわよ!」
…かくして、翌日のスポーツ紙のプロレス欄を、記者会見場で大乱闘を演じる祐希子と市ヶ谷の写真が賑わすことになる。
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