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序章


つい先日までは全く興味のなかったレスラーとしての生活を始めた祐希子。

想像していたよりもハードな練習に戸惑いながらも、エース格のパンサー(佐久間)理沙子、ブレード上原(京子)、寮長のテディキャット堀(咲恵)らの先輩や、同期の面々とも親しくなっていった頃…


「あ〜あ、何で私たちが記者会見の手伝いなんかしなきゃいけないのよお」

「しょーがねえって。こーいうのも下っ端の仕事のうちさ」

『えー、それではただ今から、市ヶ谷麗子選手の入団記者会見を始めます…』

1-1

市ヶ谷財閥の令嬢にして女子柔道世界選手権無差別級王者・市ヶ谷麗子の、まさに鳴り物入りの新女入団。

新人とは言え実力・実績ともに折り紙付きの彼女ではあったが、態度はそれに輪をかけて巨大だった。

「すでにわたくしは柔道界で敵無しの状態。そんなわたくしに対して、ほんのわずかながら対抗できる方々がいらっしゃるのがこのプロレス界だとお見受けいたしましたの。ま、なにはともあれ、これで新日本女子プロレスは安泰というものですわ。何しろゆくゆくはこのわたくしがエースとして燦然と君臨いたしますのよ」

『あの…リングネームなどはもう決まってるんでしょうか?』

「リングネーム…そうですわね。このわたくしの気高さと美しさを表現するに十分なリングネーム…ビューティフルな…そう、『ビューティ市ヶ谷』とお呼びいただこうかしら? その名のとおり、ビューティフルでワンダフルでパワフリャーなレスリングをみなさんにお見せいたしましてよ。オーッホッホッホ!!」

「なんなのアレ…」

「ま、その辺でチョロチョロと使い走りをなさっている方々とは、住む世界が違うというところかしら?」

「! なーんだってえ!?」

後先考えずに飛び出した祐希子は、これも後先考えずに、衆目の中で市ヶ谷に噛み付いた。

「あたしの目の前にいるのは単なる大口叩きの成金ワガママ女ね! こんなのが世界王者なんて、柔道も落ちたモンだわ!」

「…その度胸だけは褒めて差し上げましてよ…このズン胴田舎娘! どうやらあなたのような二束三文のレスラーとわたくしのようなエリートの違いというものを、体で分からせて差し上げる必要がありそうですわね!」

「上等じゃない! マスコミの前で化けの皮がはげても責任持たないわよ!」

…かくして、翌日のスポーツ紙のプロレス欄を、記者会見場で大乱闘を演じる祐希子と市ヶ谷の写真が賑わすことになる。


入団後すぐにプロレスデビューを果たした市ヶ谷には遅れをとったが、しばらく後に祐希子も『マイティ祐希子』の名でデビューを飾った。

まだまだドラゴン藤子はおろか他の先輩たちとの試合もほとんど組んでもらえなかったが、次第に「プロレスってクセになるほど面白い」と思うようになっていく。


「さ、佳代ちゃん。練習練習」

「…あ、誰か来たわよ?」

1-2

「ちょっと、新日本女子プロレスってのはここ?」

「見学ならその辺に座って、ジャマにならないよーにしてね」

「見たところ若手みたいだけど、まっ、いいか。ちょっと相手してくれない?」

「…どーいうつもり?」

「そうね…俗っぽく言っちゃえば道場破りってやつ? 最強を自負する新日本女子プロレスってのがどんなもんか知りたくてね」

「…へーえ、世の中にはあたしみたいな物好きが他にもいるんだ」

突然現れた道場破りの少女の挑戦を受ける祐希子。
互いに相手の手強さに面食らいつつも、最後は何とか祐希子が勝ちを拾った。

「南…南利美よ」

「南ちゃん…ね。で、どーするの? このままあたしに負けっぱなしでいーのかな?」

「……」

「まさか、いーワケないわよねえ?」

「フフッ。ハハハハハ…負けたわ、あなたには。プロレスか…やってみるのも面白そうね」

これより10日後、後に“国内最強の関節技の使い手”と呼ばれることになる南利美が、新日本女子プロレスに入団を果たすことになる。


「あ、藤子…さん。お、おはようございます…!」

1-3

「ああ、祐希子じゃない。がんばってるかしら」

「もちろん…」

「最近見ないから、すっかり忘れてたわ。まだ、辞めてなかったんだ?」

「なんだって!? あんた、あたしにケンカ売ってるのか? それなら、ここでやっても…」

「何言ってんだか。勝負ならマット上でいくらでもして上げるわ。もっとも、私とカードを組んで貰えればだけど。うふふ」

「むむむ、今に見てろよ!」


ドラゴン藤子との試合を組んでほしい。しかし、それには実力もさることながら、実績が不足しすぎている。
前座ばかりの自分と違って、実績十分の市ヶ谷は既にセミ前の試合に出ることもあるのに…

そんな祐希子に、実績を得るための一つのチャンスが訪れた。

新人王決定トーナメント、”エンジェルクラウン”。

市ヶ谷、南を含めた新入団選手だけでなく、テディキャット堀や伊集院光といった先輩レスラーも参加する若手のトーナメントは、ドラゴン藤子とのことを除いても祐希子を燃えさせるには十分だった。


「あ、上原さん、こんにちは」

「やあ、元気そうじゃない。どう、面白い試合やってる? ところで明日からエンジェルクラウンだってね」

1-4

「はい! あたし、優勝狙ってます!」

「お、張りきってるね。そういや、市ヶ谷のお嬢は、優勝して当然って感じだったね」

「市ヶ谷…!」

「…まあ、私は祐希子にも期待してるんだけどね。頑張ってみなさい。あはは!」


そして…

yukkowin

『新人王決定トーナメント『エンジェルクラウン』を制したマイティ祐希子選手です。おめでとうございます。見事な優勝でした!』

「えへへ、どーもありがとうございます!」

『ファイナルは優勝候補最右翼と言われた、元柔道世界チャンプのビューティ市ヶ谷選手とのマッチアップでしたが、何か作戦を持って望んだのでしょうか?』

「とにかく自分の持ち味を出そうと…あたしの場合はスピードが持ち味ですから、それを生かした攻めを心がけました…けど」

『…けど?』

「ま、あーんな口だけのタカビー女を倒すのにあれこれ考える必要なんて、これっっっぽっち!も、なかったですね! 記者会見では大きなコト言ってましたけど、これで少しは自分の実力を自覚できたんじゃないですか?」

『は、はあ…えー、それでは以上で、優勝したマイティ祐希子選手の…うわっ! な、何ですか!?』

1-5

「祐希子! さっきから聞いてればずいぶん好き勝手なことを言ってくれますわね! そんなマグレが続いたような優勝で喜んでいるようじゃ、あなたの実力もたかが知れているようですわね!」

「何よあんた、まだいたのお!? 負け惜しみ言ってるヒマがあったら、さっさと着替えてセコンドにつく準備でもしたらあ!? それともそのまま荷物まとめて埼玉に帰る!?」

「こ、このズン胴田舎娘えええ! どうやら悪運と自分の実力をはき違えていることに気づいていないようですわねえ! 今ここで分からせて差し上げてよ!!」


最後にまたもや乱闘騒ぎを起こし社長からお叱りをいただいた祐希子だったが、新人王のご褒美としてメキシコの団体・AACへ海外遠征させてもらうことになった。

…「頭を冷やして来い」とのメッセージも込められていたかもしれない。


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