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雌雄


上原との師弟タッグでIWWF世界タッグベルトを取ったはるみ。

次の目標を、はるみがまだ腰に巻いたことの無いシングルのベルト、それもローカルではなく世界と名の付くベルトに置き、上原は海外の団体との折衝を重ねた。


1-1

「はるみ! ついに決まったわよ!」

「え? な、何が決まったんですか、上原さん…?」

「WWA世界ヘビー級王座への挑戦よ! チョチョカラスが今日メキシコで行われる防衛戦を終えた後、私たちの団体に来てあなたとタイトルマッチを行うことを承諾したの!」

「あのチョチョカラスとタイトルマッチ…とうとうここまで来たのかあ。よーし、やるからには絶対に勝ちます!」


かつてメキシコで戦ったときには完敗を喫したチョチョカラス相手のタイトルマッチ。

その日のトレーニングと試合にも気合が入るはるみだったが、数時間後、日本に届いた一報ははるみを驚愕させるものだった。

「あ、上原さん。…どーしたんですか? 険しい顔しちゃって」

「…はるみ、チョチョカラスがメキシコでの防衛戦で負けたらしいわ」

「ええ!? そ、そんなバカな、あのカラスが!? 誰にですか!?」

「それが…あなたもよく知ってる、ジャニス・クレアに…」

「!! ジャニスが、WWAのチャンピオンになったんですか!?」

「そう。今度のタイトルマッチは、ジャニスと戦うことになるわね。…皮肉なものね。国籍が違うとはいえ、海外でともに戦ってきた親友と王座を争うことになるとは…」

「…いえ、上原さん。もしかすると私は、こういう時を待っていたのかもしれません。今まで競い合ってきた相手と、王座を賭けたリングの上で雌雄を決する日が来るのを…」

「…そう。そこまで考えているのなら何も言うことはないわ。随分大きくなったわね、はるみ」

「上原さん…」

「もう私が教えることはなくなった。あとは”勝ってチャンピオンになって”、これしか言うことはない。勝ってきなさい!」

「…はい!」


《19分51秒、ジャニス・クレアがパワースラムでフォール勝ちです! 大高はるみ、WWA世界ヘビー級のベルト奪取はなりませんでした!》

6-1

はるみは敗れた。

ジャニスの動きも戦法もよく知っているはるみだったが、それは相手も同じ。
加えて、ジャニスの力量は、はるみの知っていた頃に比べても随分と成長していた。

「…ヘイ! はるみ!」

6-2

「さすがに、はるみね。タフな試合だったわ。でも、今日のところは私の力が上だったようね」

「…負けたわ、ジャニス。私も成長したと思ってたけど、あなたもこんなに力を付けてたのね…。もう一度チャンスをくれない? もう一度あなたと、ベルトをかけて戦いたいわ!」

「もちろんOKよ。でも、次もあたしが勝つわよ!」


再挑戦を快諾してくれたジャニスだったが、おそらく次が無いことははるみも承知していた。

そもそも、同じ挑戦者と連続でタイトルマッチを組んでくれること自体、ジャニスがはるみとの友情とライバルとしての関係を大事にしてくれた故の、特別なことなのだ。

そのジャニスの気持ちに、はるみなりのやり方で報いたい。そのためにも、次の試合は負けられない戦いだった。
そして…


《やりました! 大高はるみ、見事にWWA世界ヘビー級王座の奪取に成功しました! 腕を高々と上げ、観客の声援に応えます!》

6-3

「おめでとう、はるみ…」

「ジャニス…」

6-4

「今日のはるみはグレートだった。素直に負けを認めるわ」

「…今日の試合、戦ってて楽しかったわ。こんな試合は久しぶり。今、私、本当にプロレスをやっていて良かったと思ってる」

「アハハ。そこまで言われちゃ、あたしも悪い気はしないな」

6-5

「はるみ、強くなったわね。私の手には届かないくらい…」

「あ、あの、上原さん、私、上原さんのおかげでここまでこれました」

「はるみ、私は何も教えてないわ。ここまでこれたのは、自分の気持ちを貫き通した、あなた自身の力なのよ。私は、仮にもあなたの師匠と呼ばれることを、誇りに感じるわ」

「そんな、上原さん…。私一人じゃ何もできませんでした。上原さんが後ろで見ててくれたからこそです。でも、これだけは感じています。これで、上原さんから巣立つことができたかなっ…て」

「…ええ、立派に飛び立っていったわよ」

「さ、はるみ。もう一度お客さんに応えてあげなきゃ!」

「う…うん!」


6-3

…今、一人の”天使”が”女神”へと巣立った。

今までの女神たちがそうであったように、この真新しい生まれたばかりの女神も、これからは本当の意味で、ひとりで戦っていかなければならないだろう。

しかし、女神が常に孤独である必要はどこにもない。

今度は自分の力で、帰れる場所を作ることができるのだから…



〜 The End, or To be continued next "V3". 〜


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