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師弟


1-1

「…上原さん」

「…はるみ! どうしたの!?」

「上原さん、その…旗揚げおめでとうございます」

「あ、う、うん。ありがとう」

「…以前、私が新女入りを断って上原さんに忠告されましたよね。あの時は上原さんの気持ちが分からなくて、自分勝手なことをしてしまいました…」

「ううん、私もホラ、言葉が足りなかったしさ。その…」

「あれからまた海外に出て、自分なりに成長したつもりです。それで…もしよかったら、私もこの団体に…」

「入ってくれるって言うの? はるみ?」

「また一緒にやってくれますか? 上原さん…?」

「…さてと、困ったなあ。ロッカーが一人分足りなくなっちゃった…フフフ」

「…それじゃ!」

「…実は、私もはるみに手紙を出そうかどうかずっと迷ってたの。あんな別れ方しちゃったでしょ、私の方から来て欲しいって言う資格はないと思ったから…」

「そんな…」

「…嬉しいわ、はるみ。あなたの方から来てくれて」

「…! よろしくお願いします、上原さん!」

「…よーし、あなたも今日から極東女子プロレスのレスラーよ。私は、しばらくフロントの方が忙しくて試合に出られないけど、その分がんばってね!」

「はい! まっかしてください!」


2-2

「えへへ、はるみちゃん、元気ィ?」

「あ! か、金井さん!? ど、どうしてここにいるんですか!?」

「今日、上原さんが旗揚げする新しい団体にはるみちゃんが参加するって聞いて、旗揚げ戦に特別参加させてもらうことにしたの。はるみちゃんの新しい第一歩を見ておきたくてね」

「金井さん…ありがとうございます…」

「えへへ、今日の旗揚げ戦、成功するといいね」

「はい、頑張りますよ!」


ブレード上原の新団体・極東プロレスの旗揚げ興行は成功。
その後のシリーズでの興行もまずまず盛況で、上原やはるみもほっと胸をなでおろした。

そんな折、はるみは手が離せないという上原の代わりで、初来日の外国人選手を空港まで出迎えに行く。
どこか楽しそうな上原の雰囲気が気になりつつ…


「…この便のはずよね。さーて、どんな選手が来るんだろ? 強い選手だといいなあ」

「ヘーイ! はるみ!?」

5-1

「ああああ!? ジャニス!? 新しく来る外国人って、あなただったのお!?」

「アハハハ。向こうで試合をしてても、ユーがいないと張り合いがなくてね。それでマスター・ウエハラにお願いして、契約してもらったのさ」

「そ、そうだったの…。フフッ、そうかあ、また一緒にプロレスができるのね!」

「そーいうこと。よろしくお願いね、はるみ!」


はるみの親友・ジャニスの参戦や海外を含む他団体との提携が好材料となり、極東プロレスの集客は右肩上がり。経営も何とか軌道に乗った。

そして数ヶ月。
ジャニスは近いうちの再会を約して日本を離れ、上原の元には新日本女子から毎年恒例の最強タッグリーグ戦への出場依頼が届いていた。

「ウチとしてはチャンスだから、是非新女を倒したいの。はるみ、私と一緒に新女に殴り込んでみる?」

「是非行かせて下さい、上原さん! それに、新日本女子のみなさんにはお世話になりっぱなしなんで…」

「そうね。恩返しのつもりで、思いっきり暴れてきましょう!」


最強タッグリーグ戦。
新日本女子プロレスの主催で各団体を招いて行なわれる年に一回の大会は、文字通り最強タッグを決める大会として認識されていた。

5-2

「久しぶりね、はるみさん。活躍は聞いているわよ」

「理沙子さん、お久しぶりです。…その、なんの連絡もせずに、すみません」

「私はレスラーを義理とか恩情とかで縛るのは好きじゃないの。あなたが考えて起こした行動なんでしょ? それに対して自分で責任がとれればいいのよ」

「は、はい…ありがとうございます」

「ま、その話はおいといて。今回のタッグリーグ戦は、優勝できれば世界タッグへの挑戦権が与えられるわ。それを目指して頑張って、いいリーグ戦にしてね」

「世界タッグですか…頑張ります!」


今回の最強タッグリーグ戦参加チーム 8組は、
IWWF世界タッグ王者、武藤めぐみ&結城千種組、
IWWF世界ヘビー王者を擁する、ビューティ市ヶ谷&南利美組、
アジアタッグ王者、越後しのぶ&永原ちづる組、
メキシコヘビー王者を擁する、キューティ金井&富沢レイ組、
EWA世界ヘビー王者を擁する、ナスターシャ・ハン&ディジー・クライ組、
WWCA世界ヘビー王者を擁する、ダークスターカオス&USA組、
WARS代表、サンダー龍子&石川涼美組、
そして極東女子代表で元アジアタッグ王者、ブレード上原&大高はるみ組。

WWA世界ヘビー王者、チョチョカラスを除くほぼ全ての現世界タイトルホルダーが集う大会で優勝するのは並大抵のことではない。

はるみたちも、初戦から世界タッグ王者の武藤&結城組に黒星をつけられ、いきなり優勝に黄信号がともる。
しかし、越後&永原組と金井&富沢組を除く他のタッグが潰しあう大混戦になったことにも助けられ、1敗を守ったはるみたちが最終的に優勝を決めた。

「…タッグリーグ戦優勝おめでとう。約束通り、世界タッグのタイトルマッチを組みました。相手は知っての通り、わが新女の最強コンビ・武藤&結城組。いい試合を期待します」


5-4

タッグリーグ戦の初戦で一方的に敗れた雪辱を期す上原とはるみ。
今や新女の宝ともいえる世界タッグベルトを守るべく、リーグ戦ともまた一段違った気合で臨む武藤と結城。

期待通りの好勝負になった一戦は25分を超え、さらなる長期戦を観客に予感させたその時…


《29分22秒、大高はるみがバックドロップからの片エビ固めで勝ちました! ブレード上原&大高はるみ組、見事に世界タッグ王者に輝きました!》

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相手コーナー近く、流れるような動きで上原を捕らえた、武藤と結城のWパワーボム。
カットに入ろうとするはるみを抜け目無く武藤が抑えてのフォールに試合は決したかと思われたが、上原のカウントは2.9。

粘りに舌を巻きつつも上原を攻めたてようとする結城とレフェリーに止められた武藤は、この時、上原の手がはるみの伸ばした指先に触れたことに気づかなかった。

タッチ成立。油断した結城をそのお株を奪う垂直落下式のバックドロップで投げ切ると、上原が武藤を抑える間に、はるみが3カウントを奪っていた。


5-3

「おめでとう、新チャンピオン。負けたけど納得できる試合だったわ」

「負けたのは悔しいけど、今回は素直に祝福させてもらうわ。でも、次はあたしたちが勝つわよ」

「今日勝てたのはとてもラッキーでした。それに、私一人の力なんかじゃ決して勝てなかったし…今日は胸を貸していただき、どうもありがとうございました!」

「今度は私たちが貸りる番ね」

「次に戦うときに、今日よりも強くなってなかったら、しょーちしないぞ」

「はい! もっともっと強くなります!」


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