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約束


市ヶ谷軍──といっても、市ヶ谷の他は南利美と外国人だけの陣営だが──に加わったはるみ。

聞きしに勝る市ヶ谷のワガママな破天荒ぶりには思いっ切り振り回されまくるも、彼女や南、さらにはカオスらという世界トップクラスのレスラーたちの中での戦いは、はるみの能力を急速に開花させていくことにもなる。

そして、そんなある日のこと。

「そういえば斉藤さん、今度キックボクサーと試合をするそうですね」

「ああ、メアリー・スミスっていう、現役の世界王者とね。以前一度やって、その時には運良く勝てたんだけど、今度はどうか分からない」

「勝ってくださいね! 斉藤さんなら絶対勝てますよ」

「…ああ」

「約束ですよ」

「そうだな…。約束の一つもしておいた方が、いざという時に支えになる。だが、はるみの方こそ、人のことを心配している場合じゃないんじゃないのかな?」

「え?」

「オーッホッホッホ! こんなところにいましたのね、はるみさん!」

「わあっ!!! い、市ケ谷さん!? びっくりした!」

「いいこと、はるみさん。いよいよ今度のシリーズ、わたくしとあなたで世界タッグへの挑戦が決まりましてよ」

「ええ!? ほんとですか!?」

「ホッホッホ。ま、本来ならわたくし、タッグのベルトなどというものにはあまり興味がないのですが、なかなか頑張っていらっしゃるあなたのためを思いまして、世界タッグへの挑戦を要求しておりましたのよ」

「え? そうなんですか? うわあ、嬉しいですー」

『うーそばっか。タッグベルトあんなに欲しがってたくせにー』

4a-1

「はっ! ゆ、祐希子!!」

「あんた、いつもそーゆー態度だからタッグパートナーに逃げられるのよ。少しは進歩したら?」

「おだまり! 試合中にケガをするようなどこかのノロマに言われたくありませんわ!」

「なーんですってえ? ケガが治ったら待ってなさいよお。いっちばん最初にメッタメタにしてやるんだから!」

「ホッホッホ。やれるもんならやってごらんなさい。もう一度病院送りにして差し上げますわ!」

「はいはい。ったくもう、ちっとは自分のトシ考えたらどうなのよ…」

「い、いつもこうなのかな…? この人たちは…」


シリーズ最終戦は二部構成。
前半最終試合は、メアリー・スミス VS 斉藤彰子のキャッチルール戦。

続く後半のメインイベントは、武藤めぐみ&結城千種組 VS ビューティ市ヶ谷&大高はるみ組によるIWWF世界タッグベルトを賭けたタイトルマッチ。

はるみは世界戦という初めて迎えた大舞台に自身も緊張する中で、斉藤の勝利を信じて彼女の試合を見守ったのだが…

4a-2

「斉藤さん! 大丈夫ですか!?」

「…ああ、はるみか。すまない…約束、守れなかった。まだまだ私は力不足のようだ」

「でも、斉藤さんの選んだ道は間違ってないと思います…私も斉藤さんのように、強くなります!」

「フフ…私のようになるのはいいが、こうして負けてしまうところまでは、真似をしないようにな。次の試合…相手は強いが、はるみの勝ちを願っているよ」

「斉藤さん…」

「心配するな。私もこのままでは終わらないよ。一から鍛え直して今度はヨーロッパに乗り込んでいって、必ず勝つ」

「…斉藤さん、私も、もっともっと強くなります。強くなって…どんな相手にも勝てるようになってみせます!」

「…そうやって、信じた道を行けばいい。フフフ、これはもう一人、倒さなきゃいけない相手が増えることになるかもな」


4a-3

IWWF世界タッグ王座選手権試合。
ジェナ・メガライトとのタッグでこのベルトを保持していた前王者・市ヶ谷にとっては、武藤&結城組へのリベンジマッチでもある。

はるみもそのことは意識しており、だからこそ市ヶ谷の足を引っ張ることだけはすまいと奮闘を見せる。

しかし、長期政権を築きつつある現王者は、やはり強かった。
試合は 20分22秒で市ヶ谷が武藤にフォール負け。
その原因を作ったのは、市ヶ谷のサポートに出られないほど結城相手に疲れ果ててしまった、はるみの力不足だった。

4a-4

「まーったくなんということかしら? このわたくしがあんな小娘連中に負けるなどと…」

「すいません市ヶ谷さん。私の力が足りないばっかりに…」

「ま、すんだことはいたしかたありませんわ。今後はもっとこのわたくしのパートナーにふさわしい強さを身につけていただかなくてはね」

「…あの、そのことなんですけど…市ヶ谷さん…」

「? なんですの?」

「私、もう一度海外に出て来ようと思うんです…。もう一度自分を鍛え直す意味で、海外遠征に行かせてもらいたいんです。それで…その、このタッグのことは…」

「………」

「ああっ! す、すいません!」

「オーッホッホッホ! まーったくしょうがないですわね! やはり小物のあなたには、このわたくしのパートナーは重荷とおっしゃるのね!?」

「…え、あ、は、はい! そーですね…すみません…」

「ホッホッホ! いたしかたありませんわね。ま、どこへでも好きなところへお行きになればよろしくてよ。わたくしのパートナーになりたいレスラーなど、いくらでもいるのですから。オーッホッホッホ!」

胸をそびやかして、市ヶ谷は高笑いとともに歩み去っていく。
ほんの少し、いや、ただの気のせいかもしれないが、それでもなぜか寂しげに見える背中に向けて、はるみは精いっぱい深々と頭を下げた。

「市ヶ谷さん…あ、ありがとうございました!」


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