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決別


菊池理宇、引退。

それを目の当たりにしたはるみは、どのレスラーもいつプロレスを辞めなくてはいけなくなるか分からないのだ、ということを悟る。

だからこそ、今のうちに出来ることをやっておかなければいけない。でも、それは何なのか…そう悩んでいたはるみの前に、険しい顔をした上原が現れる。


4-1

「はるみ、祐希子の誘い…断ったの?」

「え? …は、はい。断りましたけど…」

「せっかく新日本女子にいい待遇で入れるチャンスだったのよ? どうして断ったりしたの!?」

「で、でも、私はこのまま上原さんと一緒にやっていきたいですから…」

「私と一緒なら、いつまでも不安定なフリーでいてもいいって言うわけ? レスラーとしての今後を考えたら、新日本女子に入って頑張った方がずっといいってことくらい、分からなかったの?」

「…そんな、上原さん…私はただ…」

「前に私、言ったわよね。あなたには目標を大きく持って欲しいって…まだ遅くないわ。もう一度祐希子のところに行って、話を受けるって言ってきなさい!」

「…上原さん、もう私とはやっていけないっていうんですか…?」

「…そうね、そんな甘ちゃんとは、もうやっていけないわ」

「…!」

「行かないんなら、私から祐希子に…」

「上原さん! そんなに私が邪魔なんですか!? 私はただ…プロレスを一から教えてくれた上原さんと、ずっと一緒にいたいだけなのに…」

「……」

「…分かりました。もう上原さんの前には二度と現れません。でも、やっぱり今のままじゃ、新女には入れません…」

「はるみ…」

「上原さん…お世話になりました!」


はるみは涙をこらえながら、その足で理沙子の元へ向かった。

ただならぬ雰囲気をいぶかしむ理沙子に、はるみは「海外に行って鍛え直してきたい」と告げる。

「…そう。止めても聞きそうにないわねえ。分かったわ。あなたの契約は、とりあえず停止しておきます。でも、日本に帰ってきて、もしまたウチのリングに上がりたかったらいつでも言ってね」

「はい! ありがとうございます!」


二度目の海外修行。
遠征先としてはるみが選んだのはカルガリーだった。

「ここがカルガリーかあ…。よーし、誰も知り合いがいないここで、一から出直しだあ!」

「ヘーイ! そこにいるのは、はるみじゃない!?」

「え!?」

4-2

「ハーイ、あたしよ、あたし!」

「ああっ! ジャニスじゃないの!」

「元気そうね。日本での活躍はどうなの?」

「…あ、うん、まあまあね」

「ふーん。私はアメリカのUSWWってところで、時々メインを務めてるわ」

「へえ、頑張ってるじゃないの。でも、どうしてカルガリーへ?」

「へへへ、ちょっと色々モメちゃってね。向こうのプロモーターと。それでまあ、気分直しってとこかな」

「…ふーん。あんたも色々大変なんだ。それじゃ、お互い頑張りましょ!」


誰も知らないリングで自分を追い込む…その目論見はジャニスの登場でいきなり崩れ去ったが、結果的にはそれが良かったのかもしれない。

はるみ以上に明るく元気なジャニスのおかげで、はるみは日本での出来事を思い出して塞ぎ込むこともなく、目の前の試合に集中できたのだ。

それだけでなく、実力もシングルでの実績も先を進んでいたジャニスに追いつけ追い越せ、と発奮したこともはるみにはプラスに働いただろう。

数シーズン後、はるみとジャニスはそれぞれがメインの試合を組まれるまでになっていた。
二人が戦う試合も何度か組まれ、戦績は五分。ファイトスタイル、実力ともに近い二人の戦いは、常に観客を熱狂させた。


4-3

「いい試合だったわね! 負けたのはちょっと悔しいけど、今日は祝ってあげるわ」

「ジャニス、ありがとう。えへへ、今なら日本に戻ってもメインを務められるかな」

「あ、その日本だけど、聞いた? 今度新しい団体が旗揚げするんだってさ。ブレード・ウエハラって選手が中心になって、旗揚げするらしいよ」

「…え!?」

「何だ、知ってる人なの?」

「…知ってるも何も、上原さんていうのは、私の師匠なのよ…! 私にプロレスを教えてくれた人なの!」

「ワアット? はるみのマスターなの?
…だったら、はるみはその団体に行くべきじゃない? こういう時のために、はるみは強くなろうとしてたんじゃないの?」

「え?」

「もちろんレスラーなんだから、強くなるのは当たり前だけど、はるみの場合はそれに加えて、何かのために強くなろうとしてるんじゃないかって思ってたのよ。…その”何か”っていうのは、このことなんじゃないの?」

「…でも、上原さんは、私が新日本女子に入ることを断った時、私とはもう一緒にやっていけないって…そうはっきり言ったのよ。私はもう、上原さんに必要とはされてないの…」

「何言ってんのよ! それはきっとはるみのためを思ってのことよ! 今は自分といるより、ニュージャパンに入った方が将来のためって思ったに決まってるじゃない!」

「…」

「…つまんない意地張ってないでさ、行ってあげなって。きっと待ってるよ、マスター・ウエハラは」

「ジャニス…」

「どうするの、はるみ。決めるなら今しかないよ?」

「…そうよね。上原さんがまた頑張って団体を作ろうとしてるって時に、私がひと事みたいな顔してるわけにはいかないわ。ありがとう、ジャニス。私、日本に戻って、上原さんのところに行ってみる!」

「そうこなくっちゃね。でも、その前に一つ」

「何?」

「日本に帰る前にもう一度私と戦って欲しい。この場所での記念に、ユーとのベストファイトを残していきたいんだ」

「…もちろんOKよ!」


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