【準決勝】
「さあてと、千種。
あんたとは何度かタッグでやってるけど、お互いこーゆー組み合わせは滅多にないわよねー。 今日は楽しませてもらうわよ!」
「楽しむだなんて……そんな余裕見せてたら、私たちがあっさり勝っちゃいますよ、祐希子さん。
ここまで来たからには、狙うは優勝だけです!」
祐希子は確かに強いが、少なくとも“評価値”合計はこちらが上。 実力の合計もおそらくは上のはず──と千種がそんな計算をしたかどうかはわからない。
しかし、祐希子の実力が千種と小鳥遊の予想をはるかに上回っていたことは間違いなかった。
「一気に決めるわよぉ!」
千種を序盤からの JOサイクロンで下がらせると、続く小鳥遊も圧倒。 まさに独壇場の展開に、
「これで負けたら、私のせいだって言われちまうね!」
パートナーのアドミラル八島も奮闘。
得意技ののど輪落としを千種に決め、祐希子ともども一気に試合を決めにかかる。
「そうは……そんな簡単には、決めさせません! 反撃開始よ、ケルちゃん!」
「お、おいおい、あんたっ! その『ケルちゃん』って誰から聞いたよ!?」 *c2
反撃の狼煙は千種&小鳥遊組のダブルラリアット。
さらに千種得意のバックドロップで、八島は KO寸前。 そして、
「こいつでおしまいだぁーー!!」
小鳥遊の巨体を存分に活かした必殺のガルムズディナーが、交替した祐希子を吹き飛ばした。
展開は完全に逆転。
ここから書かれるシナリオは、千種と小鳥遊の勝利しかありえなかった。
──相手が、あの“無敵の女神”でさえなければ。
「あんたたち! 夢の中だろーがなんだろーが……。
そんな簡単にトップがとれるなんて、思わないでよね!」
祐希子がそこから見せた反撃は、まさに神懸かっていた。
まだまだ余力を残していたはずの小鳥遊を大技の連発で翻弄し、さらに千種をも一方的に押し込んでみせる。
「まだです! 最終回からだって、ビッグイニングを作ってみせます!」
……千種の宣言が虚しいものと化したのは、それから三分後。
WRERAの後輩に対しても容赦の無い祐希子のシャイニングウィザードが、千種を流血させるとともに、時間切れまであと数秒というギリギリで勝利までも奪い去ったのだった。
○ 祐希子&八島 [中国] −(59分55秒 シャイニングウィザード)− 千種&小鳥遊 [中部] ×
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「最初は、すっげー不安なタッグだったんだけどよ。
タイプも祐希子似だし、永沢の奴とはけっこう相性いいのかもな。
だから……決勝には俺たちが行かせてもらうぜ、千里!」 *c3
「宣言するのはご自由に、来島さん。
大切なのは、最後にどちらが立っているか。
……勝利だけは、決して譲りはしません!」
WRERAではもう八年半の付き合いになる、ボンバー来島と桜井千里。
最近は後輩・千里に水をあけられている感が否めない来島だが、だからこそ「パートナーに恵まれた」この大会では負けるわけにはいかず、もちろん負ける気もしていなかった。
「二対二だけじゃねえ! 一対一でもなっ!!」
来島のナパームラリアットもあって、序盤は千里相手に優勢。
さらに来島のパートナー・永沢も、千里のパートナー・まだまだ若手の金森に、実力差を見せ付ける。
「元気な子は嫌いじゃないけどね! 今のあなたじゃ、まだまだ。 マダマダ!」
序盤から強引に不知火を繰り出すなど金森を翻弄してリズムに乗ると、永沢は千里に対しても得意のタイガースープレックスを決めて互角以上に振る舞い、早くも試合の行方を決定づけにかかった。
「……やられっぱなしじゃ、いないもん! カッコいいところ、見せるんだから!」
それを食い止めたのは、金森だった。
ヘッドバット二発から組み付いてスモールパッケージホールド。 起き上がる間を与えずに顔面ウォッシュ。 永沢まさかのピンチに出てきた来島の猛攻も何とかエルボーで振り切って、千里とのタッチにこぎつける。
「やはり最後に立っているのは──私たちです!」
飛び出した千里がスパートをかけ、来島、永沢、再び替わった来島を、いずれも寄せ付けない。
決勝戦に進むのは、中国地方代表、広島チームの二人と思われたが──
「決勝には俺たちが行かせてもらうって、言っただろうがっ!!」
来島二発目のナパームラリアット、そして直後の永沢とのダブルパワーボムが、さしもの千里からも体力と抵抗力を搾り取った。
「千里さん! 手を、手を伸ばしてっ!」
何とかエプロンの金森が身を乗り出して、千里との交替に成功するが、
「悪りぃな! これで終わらせてもらうぜ!」
ロープ際のコブラツイストで締め上げてから、とどめはトップロープからのミサイルキック。
広島出身の二人を倒して決勝に進んだのは、九州地方代表・福岡出身の来島と永沢だった。
× 金森&桜井 [中国] −(19分23秒 ミサイルキック)− 来島&永沢 [九州] ○
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【決勝戦】
「よお、祐希子。
タッグでお前と向き合うってのも、珍しい話だよな。
普段は正直、お前が主役って感じだが……今日は、俺が主役を張らせてもらうからな!」
「そうです、ソウデス! 今日の主役は私たち!
祐希子さんにはなーんか親近感あるんですけど、勝負は別です!」 *d1
「あはは。 恵理とスレイヤーの永沢のタッグかぁ。
さすが優勝候補筆頭チーム。 どっちも手ごわい相手よね。
“評価値”ってやつは、向こうがかなり上みたいだし。 どう思う、静香ちゃん?」
「……静香ちゃんはやめてほしいね。
試合のことなら、聞くまでもないだろ。 覚悟を決めて、やるだけさ!」
祐希子 VS 来島。
タッグパートナー同士ということもあって WRERAでも最近は珍しい親友同士の対決で、決勝戦は幕を開けた。
「お前の強さはよくわかってるからな……フルパワーで行かせてもらうぜ!」
ナパームラリアットで先手を取ったのは来島。
序盤ということもあって祐希子が一度下がると、来島は八島に対してもノンストップで攻勢に出た。
「来島ぁ……。 調子に、乗るんじゃないよ!」
「生意気言うんじゃねえよ、八島っ。 もっともっと調子に乗らせてもらうさ!」
八島必死の反撃も、来島の筋肉の壁に跳ね返され、押し返される。
決勝戦は中盤戦まで、来島が出ずっぱりの一人舞台となった。
「さっすが恵理ね! でも、やっぱり主役はこの祐希子サマだって、教えてあげる!」
ここで炸裂した、祐希子の JOサイクロン。
さらに来島にフロントスープレックスやフェイスクラッシャーを叩き込み、親友相手に“炎の女帝”の牙城を見せつける。 だが、
「主役とかボスとかはいつか交替しちゃうもの! 動物の世界もプロレスもおんなじです!」
今や永沢は、来島と同等クラスにまで成長してきている選手だ。
祐希子相手にも全く引かず、あのカオス相手に JSW王座を防衛したばかりのその実力を、遺憾なく発揮してみせた。 *d2
「みんな、お待たせー! 必殺技だよ、必殺技!」
ついに永沢の必殺技・タイガースープレックスが祐希子に決まり、九州代表チームの二人に、優勝の栄冠を意識させる。
「まだだ! こんな程度で終わるなんて、ナメてんじゃないよ!」
交替した八島の、のど輪落とし。
さらにはナックルやベアハッグが、実績も実力もはるかに上な永沢に、彼女の意地と負けん気を刻み込んでいく。
「ううっ。 ちょっとマズいかも。 ワンちゃんパワーを充電しないと……!」
「おっとぉ! そう簡単にタッチはさせないわよ!」
一瞬早く替わった祐希子が、永沢の交替を許さない。
ノーザンライトスープレックスから八島とのダブルパワーボムの大技二発で、永沢の耐久力を限界まで削りきった。
「フォールは、させねえよ!」
レフェリーのカウントは来島がカットで止め、さらにようやくタッチにこぎつけて、三たび向かい合った祐希子と来島。
祐希子の息はすでに荒く、対する来島は余力十分。 来島は、フィニッシュに向けて突進した。
「恵理のそーゆーとこ……好きなんだけどね!」
勢いを丸め込んでのローリングクラッチホールド。 カウント2で弾いた来島に、八島を呼んでのダブルパワーボムからフェイスクラッシャー、そしてラリアットを返してのラリアット。
「そ、そんな……このままじゃ、まずい、マズイ! 来島さーん!」
一気に逆転された形勢を再び逆転するべく、タッチした永沢。 しかし、
「主役交替? それはもーちょっと……あとってことで!!」
ダブルパイルドライバーから引き起こしての、ストレッチプラム。
永沢の告げるギブアップの声が、試合終了にして大会終了のゴングを鳴らす鍵となったのである。
○ 祐希子&八島 [中国] −(47分36秒 ストレッチプラム)− 永沢&来島 [九州] ×
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