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The Carnival! : Part4 〜 シングル一回戦:対決への想い 〜

《目次っぽいもの》
The Carnival : 対決への想い(1)シングル一回戦(1)シングル一回戦(2)対決への想い(2)注釈?



突然、目の前を丸まったカーペットが転がって通り過ぎ、長い通路にレッドカーペットが敷き詰められた時。 これは一体何の冗談だろう、と桜井千里は眉をひそめた。

「あら、千里さんじゃありませんの。 お早いご到着ですわね」

敷かれたばかりのレッドカーペットを優雅に歩いてくる女性が誰か、声を掛けられる前から見当はついていた。

チャンピオン・カーニバル、シングル決勝トーナメント一回戦の、B会場。
その関係者用通路にレッドカーペットを敷きつつ現れうる人物を、千里は一人しか知らない。 振り返って、その人物に挨拶をする。

「おはようございます、市ヶ谷さん。 市ヶ谷さんこそ、早いですね」

「オホホホッ、スターというのも大変ですのよ。
普通の時間に来ようものなら、この私を一目見ようと待ち受けるファンたちで、会場周辺が大パニックになってしまいますもの。
これも関係各所に迷惑をかけないための、この私の心遣いなのですわ」

と、歩きながら胸をそびやかしているうちに、市ヶ谷は通路脇に立つ千里のそばまで辿りついた。 そのまま通り過ぎる──かと思いきや、その足が止まる。
桜井 市ヶ谷

「本日の、トーナメント一回戦。
千里さんのお相手は、あのモーガンでしたわね」

「はい」

「私の相手は、カオスですのよ。
私もあなたも、かつて一度は煮え湯を飲まされ、しかし今は逆に、力の差を見せつけている選手が相手。 *a1
お互いに、一回戦突破は間違いない、といったところかしらね」

「いえ。 それほど甘い相手だとは思っていません。
仮に私の実力が上だったとしても、こういう大会では何の当てにもなりませんから」

実際、モーガンは、ダダーンと組んだタッグの一回戦で下馬評を覆し、優勝候補の一角・桜崎&真田組を撃破している。 油断できる相手ではなかった。

「先日のタッグ一回戦では私たちのタッグも、圧倒的優位と言われていながら鏡さんたちにぎりぎりまで追い込まれました。 *a2
今日の試合──いえ、これからの試合は全て、簡単に勝てる相手など、一人も……」

「それでもあなたは、お勝ちになりますわね」

市ヶ谷は断言した。
彼女が、他人のことをプラスの形で断言するのは、珍しいことだった。

「この私と、同様に。 そして二人は、二回戦で戦うことになりますのよ。
世界の覇者となるこの私と、その私が認める数少ない真の実力者の試合。
あの忌々しい祐希子にグループリーグで勝ちを譲ったのも、全ては計算のうち。
私はあなたとの試合こそ、事実上の決勝戦だと考えておりますの。
だから、モーガンごときに不覚をとるなど、決して許しませんわよ」

止めていた歩みを、市ヶ谷は再開した。
千里に目線を向けることなく、

「くれぐれも、この私を失望させないでもらいたいですわ! オーッホッホッホ!」

という高笑いだけをその場に残して。




第二回エンジェルウィング・チャンピオン・カーニバル、シングル決勝トーナメント。

一回戦参加16名の所属団体は、WRERAが 7、スレイヤーが 7、IWWFとWWCAが 1ずつ。
ここ何年か、国内はもちろん世界のプロレス界をもリードしてきた WRERAとスレイヤーの選手が、それぞれ何名ずつ二回戦に残るのか。
それが、一回戦における一つの注目点とされていた。



cc2

「チッ。 いきなり NA王者サマが相手とはな。
よりにもよって、私もクジ運が悪いもんだぜ。
ま、相手が強きゃあ、それ用の闘い方ってのがあるんだけどな!」

力量差は歴然。
それゆえ、千春はラフファイトやカウンター狙いの闘い方に活路を見い出そうとし、それは見事に図に当たった。
場外乱闘で祐希子を流血させ、得意のサッカーボールキックを連発、さらに祐希子のムーンサルトを誘って自爆をさせたりと、優勝候補筆頭の NA王者にペースを握らせない。

最後こそ祐希子がコブラツイストから DDTを繰り出してあっけなくカウント3を奪ったが、

「余裕? そんなの、無かったってばっ」

と、試合後に不機嫌そうに語った祐希子の言葉が、全てを物語っていた。

○ マイティ祐希子 −(21分10秒 DDT)− 村上千春 ×



cc2

「タッグでは優勝候補にも挙げられながら、不覚をとって敗退の憂き目を見てしまいましたので……。
鏡お嬢様には申し訳ありませんが、この桜崎、ここは勝たせていただきます!」

「あらあら。 燃えてらっしゃるのね。
でもね、タッグで敗れた分をシングルで取り返そうと思っているのは、貴女だけではありませんのよ?」

スレイヤーのリングではほぼ互角と言われている、一回戦屈指の好カード。 *b1
さらに、二人ともタッグでは一回戦敗退を喫しているだけに、もう負けられないという意地がぶつかりあう好勝負が期待された。

ところが、始まってみれば、序盤の必殺・クレッセントヒールから鏡が一方的に攻める展開。 負けられない想いが緊張につながってしまった後輩の桜崎に立ち直る隙を与えることなく、最後まで攻めきって先輩の貫禄を見せたのであった。

○ フレイア鏡 −(12分49秒 シャイニングウィザード)− メイデン桜崎 ×



cc2

「今日は勝っちゃいますからねー、森嶋先輩!
悔いを残してタッグに悪い影響出さないよーに、全力、ゼンリョクで来てください!」

「…それはこちらのセリフよ…」

一回戦では唯一となる、タッグパートナー同士の闘い。

互いに相手の手の内を知るだけに、序盤は静かな展開で過ぎていったが、永沢のタイガースープレックスを喰らった森嶋が、リミッターを解除。
SSDから一気に攻めて、ライガーボム→ロメロスペシャルでギブアップを奪い、場数の違いを見せ付ける結果となった。

○ 森嶋亜里沙 −(13分00秒 ロメロスペシャル)− 永沢舞 ×



cc2

「どうした、小鳩?
あんたがこの程度なら……早いとこ終わらせてもらうよ!」

「まあ、怖い。 龍子先輩、腕はさびついてないようね♪
これなら──小鳩も本気を出しちゃって、いいかしら?」

スレイヤー・レスリング所属時代は、小鳩に圧倒的な力の差を見せ付けていた龍子。
この試合でも序盤のプラズマサンダーボムから圧勝モードに入るかと思ったが、ブレーンバスターを返したところから、小鳩が突如の逆襲を見せる。

ねちっこいグラウンド技の連発で展開を五分に戻して──どころか逆転させて、団体の元エースを追い詰めた。
それでもやはり、龍子は龍子だ。
再びのプラズマサンダーボムで再度試合をひっくり返すと、最後はドラゴンスープレックスで勝負を決めたのである。

× メロディ小鳩 −(13分59秒 ドラゴンスープレックス)− サンダー龍子 ○




桜井千里は、控室を飛び出すと、全力で通路を走った。

すぐ次に、自分の試合がある。
このような形で体力を使うなど、愚の骨頂。
普段の彼女であれば、決して考えられない行動だった。

それでも今の千里は後先を考えることなく、誰もいない会場通路を走り抜けた。

「──市ヶ谷さん!」

角を曲がったところで、千里は相手の名を叫んだ。
試合を終えたばかり。 一人で戻ってきていた市ヶ谷の背が、その足を止める。
いつも自信と不遜に満ち溢れている彼女の背が、千里からこんなに小さく見えたことは、後にも先にも、この時だけだった。
桜井

「市ヶ谷、さん……」

前を向いていた市ヶ谷が、ほんの少しだけ顔をずらした。
千里に表情は見えず、しかし、わずかに頬や顎の動きがわかるくらいに。

「…………っ」

豪奢な金髪の下で、市ヶ谷の口が小さく動いた。
はっとした千里が、呼びかけようかと逡巡を見せている間に、市ヶ谷は再び歩き出した。
二度と、立ち止まることも振り返ることもなく。

「市ヶ谷さん……」

千里は、三たびその名を呼びつつ、大きくかぶりを振った。
信じたくなかったのだ。

その背後から、会場のアナウンスがかすかに聞こえてくる。

《──スーパーカオス、堂々たる勝ち名乗りです! *c1
優勝候補の一角・ビューティ市ヶ谷に逆転勝利した、黒い超新星!
時代は終わったなどという声を一蹴するパワーボムで、二回戦進出を決めましたぁ!》

千里は、何度も何度も、かぶりを振った。
信じたくなかったのだ。

あの市ヶ谷が、他人に向けて、小さく謝罪の言葉を口にするなどとは。


cc2 cc2
○ スーパーカオス −(17分02秒 パワーボム)− ビューティ市ヶ谷 ×
○ 桜井千里 −(16分12秒 コンビネーションキック)− クルス・モーガン × *c2




cc2

「さぁてと。
世間は、お前とめぐみ── NAタッグ王者同士のシングル対決を二回戦で見たいって思ってんのかね、千種。
だがよ。 あいにく俺は、その手の空気を読まないタチでな!」

「世間の声なんて、私だって知りませんっ。
でも、私自身が戦ってみたいんです。 シングルではほとんど戦ったことのないめぐみと……この、大舞台で。 *d1
だから、来島さんにだって私は負けません!」

このチャンピオン・カーニバルが無ければ、WRERAの団体内抗争の一幕として、各々の持つ EWAと GWAのベルトを賭けたダブルタイトルマッチが決まっていたともされる、千種と来島。 *d2

来島は大きな身体と自慢のパワーを活かして後輩に襲い掛かるが、千種もナックルや延髄斬りなどの打撃技や得意の投げ技で、常に先輩の一歩先をリードする。
結局は、来島が勝負を決めに来たナパームラリアットとパワースラムに耐え切った千種が、実は決着技の一つとしているローリングクレイドルで、カウント3を叩かせたのだった。

○ 結城千種 −(15分30秒 ローリングクレイドル)− ボンバー来島 ×



cc2

「団体交流戦以来っスね! *d3
あの時は気合が空回りの完敗だったけど、今日も同じとは思わないでほしいっス!」

「……あなたのことなんて、関係ないわ。
私は、私の戦いをする。 それだけよ!」

ゴングが鳴って、勢いよく飛び出したのは、真田。
打撃のラッシュから大技・斬馬迅まで出し切って、めぐみを攻め立てる。

しかし、めぐみのレスラーとしての完成度は、昨年真田が戦った時よりもなお増していた。
徐々にペースを掴んで、気付いた時には真田一人が息を切らしている状態。
それでも二発目の斬馬迅で意地を見せるが、めぐみはフロントスープレックスからフライングニールキックに不知火と、得意の連続攻撃で凄みを見せ付けたのである。

○ 武藤めぐみ −(15分04秒 不知火)− 真田美幸 ×



【シングル:決勝トーナメント 一回戦終了】

マイティ祐希子A
村上千春B
フレイア鏡C
メイデン桜崎D
森嶋亜里沙E
永沢舞F
メロディ小鳩G
サンダー龍子H
Iスーパーカオス
Jビューティ市ヶ谷
K桜井千里
Lクルス・モーガン
M結城千種
Nボンバー来島
O武藤めぐみ
P真田美幸

ほぼ順当といえる結果の中で、市ヶ谷の一回戦敗退が、まさかの波乱。
「最強外国人選手」の名をほしいままにするカオスが、千里相手にも下馬評を覆すか。
森嶋と龍子は、ほぼ互角の評価。 残りは祐希子とめぐみが優位とされるが、ここまで来ると何が起きても不思議ではない。




ビューティ市ヶ谷敗退という波乱を見せた、シングル一回戦。
そこから日を置かずに行なわれるタッグ二回戦・準々決勝は、四試合。

三位決定戦が無いこの大会ではこれに勝てばメダルが確定するということもあって、当の選手たちはもちろん、見守るファンたちにとっても熱い一日となる。

「ねぇ……めぐみ。 その……意識とか、しちゃってる?」

という、結城千種が控室で出してきた、いかにもおっかなびっくりな質問に対して、

「なにをよ?」

という、武藤めぐみの返答は、あまりに対照的に、あっけらかんとしていた。
それが何であれ、特別な「意識」はしていないような様子だ。

「んーとね、えーと。 ……あの、ほら、メダルのこと。
今日のタッグの試合、勝てばメダル確定なんだよね。
だから、ちょっと意識とかしちゃうなーって」

「──嘘ばっかり」

失礼といえば失礼なめぐみの断言は、それでも、千種を怒らせるものではなかった。
実は図星な指摘だったし、何より、めぐみの声には笑いが含まれていたからだ。

「千種が意識してるのは、メダルだとかそんなことじゃないでしょ。
今日の試合のことはもちろんだけど、その次のシングル二回戦のこと。
今日勝てば──油断だけはしちゃいけないけどね──次の準決勝の前に、私とシングルで戦うことになる。 どうせ千種は、そっちを意識しちゃってるんでしょ。 違う?」
めぐみ 千種

「……ううん、正解。
驚いたぁ。 全部、お見通しなんだね……」

「まあね。 千種は、そーゆーとこ、わかりやすいから」

肩をすくめながらのめぐみの微笑みに、千種も笑顔を返した。
知らず知らずのうちに入っていたらしい肩の力が、すうっと抜けていくのがわかった。

「でもやっぱり、めぐみは凄いよ。 全然、意識とかしてない感じでしょ。
私なんか、意識しまくっちゃってるもん。
今日のタッグ、もし負けちゃったらシングルもやりにくいなーとか、
勝ってもシングルではどんな気持ちで戦えばいいんだろうとか、
私がシングルで負けちゃったら、タッグで気持ち切り替えられるかなーとか……」

「シングルで千種が勝っちゃったら、私にどんな顔すればいいんだろう、とか?」

「!! そ、そんなぁ、それだけはないからっ!
私が、めぐみに勝つなんて……それは、そんなのは、無理だからっ」 *e1

「本気で……そう思ってるの?」

うってかわって真剣極まりない、めぐみの声。
千種は思わず呼吸を呑み込んだ。

「千種、答えて。
本気で、私には勝てない、勝つのは無理だって、戦う前からそう思ってるの?」

めぐみの瞳、親友の瞳が、千種を見つめた。
その真摯な輝きに、千種はもう一度、息を呑む。

「……めぐみにまた嘘つきたくないから、正直に言うね。
私……めぐみに勝つのは無理かなって、そう思ってる」

「そう……そうなんだ。 ……それなら……」

「だけど──それでも勝つよ。 めぐみにだって」

失望の表情でうつむいたばかりのめぐみが、その言葉を聞いて、千種に視線を戻した。
今度はめぐみが、見つめた瞳の輝きに、息を呑み込む番だった。

「冷静に考えちゃえば、勝てないかなって思う。
めぐみは、この大会で優勝しか考えてないわけだし、そう言うだけの実力があるし、それに比べて、私はやっぱりまだまだだし。
だけど、それでも、私は勝ちたい。 誰にだって、めぐみにだって負けたくない。
だから──」

「──勝つのね。 私が相手でも」

「うん。 勝ってみせるよ!」

笑顔。
めぐみが好きな、そして千種が好きな、それぞれの相手の笑顔が、そこにあった。

「だからさ、めぐみ。 その……ごめんね。
めぐみは優勝したいだろうけど、私が勝ったらメダルも獲れなくなっちゃう。
そこは、さすがに親友として申し訳ないかなーって……あいたっ!!」

いきなり、千種が額を押さえた。
そのすぐ先で、デコピンを放ったばかりのめぐみが、呆れた溜め息をつく。

「調子に乗りすぎだってゆーの。 あいにくだけど、勝つのは私よ。
だから、さっき自分で言ってたみたいにタッグではちゃんと気持ち切り替えてよね。
わかった?」




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■ 注釈(?) ■
*a1桜井はモーガンに5年目2Qなどで負け、5年目4Qなどで勝ってます。
市ヶ谷は、カオスに3年目4Qなどで負け、4年目2Qなどで勝ってます。
*a2タッグ一回戦はこちらをご覧ください。
*b1評価値はフレイアが上ですが、差はわずか20程度です。
*c1大ショック
なんか凶器攻撃がさくさく刺さりまくってたので、堂々たるかどうかはちょっと気になるところですが…。
市ヶ谷がカウント2.9まで追い込むも、凶器→パワーボムで逆転負け。カオスLEVEL3は、どうも凶器攻撃がよく決まります。
*c2桜井VSモーガンは、終盤に2.9で粘られたりパワースラム喰らったりするも何とか桜井の勝利でした。
*d1書いてて気付いたのですが、ほとんどどころか、めぐちぐで一回もシングル組んでないかも。WRERAは評価値差を考えて全カードマッチメイクを真面目にやってたので…。
*d2ゲーム上、ダブルタイトルマッチはできないので、ウソはっぴゃくです。
*d3団体交流戦での対決は9年目2Qにて。
*e1ちなみに評価値差は約120。無理というほどの差ではないですが、今のめぐみは弱点無しのレベルに成長してます。
果たして。
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