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The Carnival! : Part3 〜 タッグ一回戦:今日の友は明日の敵? 〜

《目次っぽいもの》
The Carnival : 龍の意地。そして決意タッグ一回戦今日の友は明日の敵?注釈?



満天の、星空。

白く覆われた 3月の北の大地にあまねく降り注ぐ、小さくも悠久なる光の粒たち。

市街地から徒歩二十分で登ってこれる高台は、半年前にこの地にやってきたばかりのサンダー龍子にとって、すっかりお気に入りの場所になっていた。

「なーによ、龍子。 こんな時間に、わざわざこんなとこ呼び出してさ」

薄く積もった雪を踏みしめながらこちらへと歩いてくる声に、龍子は厚い防寒着のフードとマフラーで守った顔をそちらに向けた。 南国育ちのため、寒さにはあまり強くない。

「悪かったね、祐希子。 あんたとちょっと話がしたくなってさ」

すまなそうに言いながらフードを下ろした龍子の前まで来て、祐希子は足を止めた。
こちらも北の育ちではないが、すでに何年も過ごしているだけあり、龍子ほど厚着ではなかった。

「ふうん。 ま、いいけど。
で、話ってなに? まさか、告白とかじゃないわよねぇ。
悪いけどあたしは、あんたを石川さんと取りあう気はないわよん」

「…………」

「そんな哀れみの目で、人を見ないでってば。
でも、ホントに何の話なのよ。 お互いに決勝トーナメントを控えた、こんな時にさ」

「……あんたには、一度面と向かって、聞いておきたかったんだ」

「だから、なにをよ?」

問われた龍子は、一瞬だけ口ごもった。
星空を見上げて、長い息を吐いた。 澄んだ大気に白い色が混ざり、そして消える。

「──あんたが、私の強さってやつをどんな風に思ってるのか……ってね。
今までシングルで一度もあんたに勝ててない、こんな私のことをさ」 *a1

「むちゃくちゃ強くて手ごわい相手の一人、だけど?」

即答だった。

それなりに逡巡と覚悟をしての質問だったのだろう。 龍子は、拍子抜けを通り越して不信と疑惑の色を浮かべた。

「あんたに一度も勝ってないのにかい?
桜井に無理言って『打倒・祐希子』の同盟まで組ませたのに、それでも私は全敗した。
実のとこ、あんたにバカにされてたり、弱点とか見切られてんじゃないかって、私はけっこう悩んでたんだよ?」

「あるわけないでしょ。 そんなこと」

白い息の向こうで、祐希子は笑った。
NA

「五年も前、初めてあんたと戦った、NA王座防衛戦。 *a2
それから何度も戦ってきて、一度だってあんたが弱いなんて感じたことないわよ。
そのあんたに勝ち続けてるのは、まあ時の運だって思ってるけど、それでもひそかにあたしの誇りなんだからね。
弱い相手に、誇りだなんて思うわけないでしょ?」

「そうかい……。 ありがとな、祐希子」

龍子はもう一度、星空を見上げた。
寒さのためか、空の荘厳な輝きゆえか、身体をぶるっと震わせる。

「少し、気分が楽になったよ。
私はね、シングルではなんとしても準決勝──あんたとの試合まで勝ちあがるつもりさ。
小鳩の奴に、森嶋か永沢。 手ごわくなった昔の仲間が相手だけど、それでも絶対にあんたの前に立ちふさがってみせる。
だから、あんたも千春や桜崎や鏡さんに不覚を取るんじゃないよ」

「そりゃ、気をつけるわよ。 あたしだって、優勝して金メダルもらうつもりなんだしね」

「優勝、か……」

龍子は呟いて、歩き始めた。

「私にとっては、そんなのはオマケみたいなもんだよ。
ただ……そうだね。 最後に、そういった勲章みたいなのをもらうのも、悪くはないかな」

「あはは、最後ってなによ。 まーた思わせぶりなこと言っちゃってぇ」

「そう思うかい?」

傍を通り過ぎつつ龍子が返した何気ない言葉に、祐希子はなにを感じたのか。
身体ごと振り返った祐希子の前で、龍子の背中が軽く右手を上げ、別れの挨拶を見せた。

「もう一度言うよ、祐希子。 今回の大会、私はあんたとの試合まで勝ちあがる。
そして、今度こそ勝ってみせるよ。 それが、この──」

上げられた右手の拳が、ぎゅっと握り締められた。

「サンダー龍子の、意地ってやつさ」




第二回エンジェルウィング・チャンピオン・カーニバル、タッグトーナメント。

一回戦の 8試合は、二つの会場で同日に行なわれた。



cc2
フレイア鏡 VS 桜井千里
村上千春ビューティ市ヶ谷

無敵を誇った前・NAタッグ王者の桜井&市ヶ谷組の楽勝も予想されたが、千春が市ヶ谷に、鏡が桜井に互角の戦いを見せて、試合は意外なほど混戦に。
最後は桜井が鏡を沈めたが、勝った二人もしばらくリングから降りられないほど疲れ果てた、薄氷の勝利だった。



× フレイア鏡 (29分14秒 スクラップバスター) 桜井千里 ○
  村上千春ビューティ市ヶ谷  



cc2
メイデン桜崎 VS クルス・モーガン
真田美幸ルミー・ダダーン

優勝候補にもあげられた GWAタッグ王者、桜崎&真田組。
この試合も、早々に桜崎がメイド・イン・ヘヴンでダダーンをタップ寸前に追い込むなど余裕の勝利かと思われたが、最後に真田に対してモーガンがパイルドライバー→パワースラムの連続技で振り切って、番狂わせを演じた。 *b1



  メイデン桜崎 (27分51秒 パワースラム) クルス・モーガン ○
× 真田美幸ルミー・ダダーン   



cc2
イレーヌ・シウバ VS ライラ神威
カンナ神威ケルベロス小鳥遊

神威の名を持つ二人の、因縁対決。
そのはずの対決はしかし、意外な展開を見せた。
シウバと先鋒を務めたライラが早々に小鳥遊にタッチすると、そのまま小鳥遊が二人を相手に奮戦。 カンナとライラが直接顔を合わせることなく、勝利を飾ったのである。 *b2



  イレーヌ・シウバ (10分50秒 のど輪落とし) ライラ神威  
× カンナ神威ケルベロス小鳥遊 ○



cc2
イージス中森 VS マイティ祐希子
中村真帆ボンバー来島

タッグの相性という点では WRERAの強豪タッグにも引けを取らない中森&真帆組だが、いかんせん個々の実力差が大きすぎた。 *b3
その上、祐希子や来島は容赦なくそれぞれの必殺技を披露。 危なげなく二回戦に駒を進めた。



× イージス中森 (12分43秒 ニーリフト) マイティ祐希子  
  中村真帆ボンバー来島 ○



cc2
越後しのぶ VS サンダー龍子
テディキャット堀村上千秋

WRERAの抗争劇番外編は、タッグ歴にして数年 VS 数日。
越後と堀は息の合ったところを見せるが、エンジンのかかった龍子は一人で試合を支配できる存在だ。 最後は越後との延髄斬り合戦を押し切る形で、龍子が即席タッグを二回戦に押し上げた。



× 越後しのぶ (29分59秒 延髄斬り) サンダー龍子 ○
  テディキャット堀村上千秋  



cc2
スーパーカオス VS 森嶋亜里沙
ジュディ・コーディ永沢舞

森嶋と永沢は、次のシングル一回戦では敵同士。
そういった要素から、真田&桜崎組を破ったモーガン&ダダーン組にカオス&コーディ組も続くかとも思われたが、蓋を開けてみれば森嶋&永沢組が縦横無尽。 13分弱で森嶋がカオスを締め上げ、あっさりとギブアップを奪った。



× スーパーカオス (12分47秒 チキンWフェイスロック) 森嶋亜里沙 ○
  ジュディ・コーディ永沢舞  



cc2
メロディ小鳩 VS 佐久間理沙子
ウィッチ美沙富沢レイ

国内両雄・スレイヤーと WRERAが誇る、色物タッグ (佐久間だけは否定?) の対決。
実力者・小鳩を有するスレイヤー組が有利かと思われたが、TTT王者・富沢が小鳩と互角にわたり合い、美沙と佐久間もほぼ互角。 しかし最後は小鳩が最近習得したスプラッシュマウンテンを披露し、富沢をマットに沈めたのである。



○ メロディ小鳩 (29分21秒 スプラッシュマウンテン) 佐久間理沙子  
  ウィッチ美沙富沢レイ ×



cc2
武藤めぐみ VS ジェーン・メガライト
結城千種キャシー・ウォン

一回戦のトリを飾るは、優勝候補筆頭・NA世界タッグ王者の武藤&結城組。
序盤こそメガライトがラッシュを見せるが、めぐみの冷静な反撃でその動きが止まってからは、終始めぐみと千種が相手を圧倒。 最後はフライングニールの一閃で、貫禄の一回戦突破を決めた。



○ 武藤めぐみ (11分59秒 フライングニールキック) ジェーン・メガライト  
  結城千種キャシー・ウォン ×



【タッグ:決勝トーナメント 一回戦終了】

フレイア鏡
村上千春
A
桜井千里
ビューティ市ヶ谷
B
メイデン桜崎
真田美幸
C
クルス・モーガン
ルミー・ダダーン
D
カンナ神威
イレーヌ・シウバ
E
ライラ神威
ケルベロス小鳥遊
F
イージス中森
中村真帆
G
マイティ祐希子
ボンバー来島
H
I越後しのぶ
テディキャット堀
Jサンダー龍子
村上千秋
Kスーパーカオス
ジュディ・コーディ
L森嶋亜里沙
永沢舞
Mメロディ小鳩
ウィッチ美沙
N富沢レイ
佐久間理沙子
O武藤めぐみ
結城千種
Pジェーン・メガライト
キャシー・ウォン

優勝候補にも挙げられた GWAタッグ王者・桜崎&真田組が、ここでよもやの敗退。

他はさすがに実績あるチームが多数残ったが、次に波乱を起こすとすれば、タッグ歴が浅いだけに相手に研究もされていない龍子&千秋組や小鳩&美沙組か。




タッグトーナメント一回戦、終了直後。

開催会場の一つ、その控室で、二回戦進出を決めた 8強16人の一人・永沢舞は、鼻歌まで歌って今日の勝利を祝っていた。

森嶋 永沢

「勝利、ショーリ!
まさに会心の試合運びで、圧勝! アッショウ!
今日はやりましたよねー、森嶋先輩!」

放っておけばVサインして踊りだしそうなパートナーの方をチラリと見るにとどめて、森嶋亜里沙は静かな声を返した。

「…浮かれるのは勝手よ、永沢。 でも、次の試合のことは考えてるんでしょうね…?」

「もちろん、モチロンです!
二回戦の相手は千春先輩の妹さんと、なんといっても龍子先輩!
即席タッグだからって、油断できませんっ。 勝って兜の緒を締めよ、ですよね!」 *c1

「…私が言っているのは、そっちのことじゃないわ…」

バッグに荷物を押し込めていた手を止めて、森嶋は永沢を見つめた。
その目は、信頼するタッグパートナーを見る目つきではなかった。

「…次の試合は、シングルの一回戦。 あなたの相手は、私なのよ…?」

己の敵を見据える目つき。
その鋭い眼光に、さしもの永沢もたじろいだ。

「で、でもでも。 それは、そうなんですけど。
森嶋先輩と私じゃあ、まだまだ実力が違いすぎるってゆーか。
だから、私はタッグの方を頑張らなくっちゃ、なんて思ってて……」

「…そう。 それなら…」

森嶋は、唇の端を歪めた。 決して爽やかとは言えない類の笑みが、浮かべられる。

「…シングルは、私にわざと負けてくれないかしら…?」

「!! ……それって、本気じゃ、ないんですよね? 先輩……?」

「…さあね。 本気だとしたら、どうなの…?」

「……本気で言ってるなら、先輩のこと、見損ないましたっ。
そんなこと言う人に、私は絶対、ゼッタイ、負けたりしません!」

「…じゃあ、冗談だとしたら…?」

「冗談なら……えーっと。 それはまあそれで、負けられませんよね。
うん、負けられないです!」

「…それなら、どっちでもいいわ…」

「えっ?」

目をまたたかせた永沢の前で、いつの間にか森嶋の笑みの形が変わっていた。
気付いた永沢が、頬を可愛らしくふくらませる。

「あーっ、からかったんですね! 先輩、ひどい、ヒドイ!」

「…最初から、諦めたようなことを言うからよ。
負けても仕方ないなんて気持ちで試合して、得るものなんてない。 全力で戦いなさい…」

どのみち勝つのは私だけど、と最後に言い添えて、森嶋はバッグのジッパーを閉じた。
すっくと立ち上がる。

「…とにかく、私とあなたは敵同士。
宿舎に帰ったら、シングルの試合が終わるまで、あなたをパートナーなんて思わない。
あなたも、そのつもりでいなさいな…」

「……わかりました! それから、勝つのは先輩じゃありません!
私、ウサちゃんパワーとワンちゃんパワーで、先輩を倒してみせますから!」

「…できるものなら、やってみなさい…」

笑顔で届けられた永沢からの宣戦布告に、森嶋も不敵に応じた。
それから、後輩を顎でうながす。

「…それじゃ、早くしなさい。 一緒に行くわよ…」

「えっ? 一緒に行くって……どこへです?」

「…一回戦突破のお祝いに、食事して帰るのよ。 派手にいきましょう…」

「……あれ? 私たち、もう敵同士なんじゃないんですか?」

「…宿舎に帰ったら、って言ったでしょ。 それまではパートナーよ…」




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■ 注釈(?) ■
*a1龍子操作でCOMゆっこと戦ったことが無いから、というのもありますが、AUTO対戦でもいまだゆっこに全敗中の龍子さんです。 否観戦も何回かやってますが、なぜか一度も勝てません。
*a25年目3Qをご覧ください。
*b1波乱と言ってよいでしょう。 桜崎も真田も評価値はモーガンと同レベル。 まさかここで消えるとは思いませんでした。
*b2今プレイ中、一度もやったことのないカンナ VS ライラがようやく…と思ったら、まさかの顔合わせ無しに終わりました。
*b3一回戦では唯一の、良補正タッグチーム同士の対戦でした。 (ベタータッグ VS ベストタッグ)
*c1二回戦ではけっこう注目カードの一つです。
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