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9年目4thQ (1〜3月) Part1 〜 挑む者たち、挑まれる者たち 〜

《目次っぽいもの》
団体間の力関係[SL]トップを見すえて[WR]挑む者たち、挑まれる者たち[WR]注釈?



「よおっし! このボンバー来島、久々のベルト獲得だぜ!」
GWA

1月。 *1a
スレイヤー王座奪還を目論むサンダー龍子とともに WRERAに殴りこんだフレイア鏡だったが、『新年初タイトルマッチ』として組まれた GWA王座戦でまさかの敗北。
WRERAのボンバー来島にベルトを奪われることとなった。

さらに同月、スレイヤーの選手が WRERAの王者に挑んだタイトルマッチ、即ち、
 アジアタッグ王座戦:堀&越後組 VS 真田&桜崎組
 GWAジュニア王座戦:テディキャット堀 VS メロディ小鳩
 IWWFヘビー級王座戦:桜井千里 VS フレイア鏡
 スレイヤー無差別級王座戦:武藤めぐみ VS サンダー龍子
の四試合全てが、挑戦者側の敗北に終わったのである。

「『これを以って両団体間の序列付けが済んだと見なす向きもある』……か。
まったく、言いたいこと言ってくれるわよね。 ブッコロすわよ、ほんとに」

先月購入したばかりの携帯端末を指先で叩いてブラウザを閉じると、メイデン桜崎はしかし、むくれた表情を悩ましげなそれに変えた。
桜崎

「……とは言うものの、的外れでもないのかな。
去年の交流戦は惨敗。 しかもウチは緊縮財政だのなんだので、ベテランへの風当たりも強くなってるし。
RIKKAさんも引退しちゃって、戦力落ちてるのは確かだものね……」 *2a

「むむむ? どうしたのですか、桜崎先輩?」

コーチ役も務める先輩の愁眉に気づいたのだろう。
小股の早歩きで近寄ってきたのは、入団以来ずっと桜崎が面倒を見ている、ウィッチ美沙だった。
美沙

「暗い顔してどうしたのです? ため息ついてちゃダメなのですっ。
美沙の魔法が、ため息つくと幸せが逃げるって言ってるのですよ!」

それは魔法じゃなくて俗説でしょっ。

──と心の中で呟きながら、桜崎は美沙に微笑みを返した。
その表情だけ見れば、まさに忠実にして慈愛溢れるメイドの鑑だ。

「みっともないところをお見せして申し訳ありませんわ、お嬢様。
交流戦以来目立ってきた WRERAとの差、特に今月のタイトルマッチ戦績を目の当たりにして、この桜崎なりに団体の将来を憂いておりまして」

「WRERAとの差……タイトルマッチなのですか? 小鳩先輩は防衛成功してるのですよ?」

確かに小鳩が王者として WRERAの堀と戦った WWCAジュニア王座戦は、小鳩が十六度目の防衛を果たしている。だが、

「その小鳩お嬢様も、GWAジュニア王座戦では同じ堀さんに敗れてしまっております。
それでもジュニア戦線はまだ互角と言えるでしょうけれど……」

ヘビー級戦線では、深刻なことにベルトの流出が相次いでいる。

今月の GWA王座だけならいざ知らず、団体創設ベルトである NA世界タッグ王座、さらには“8月の政変”などと称された龍子まさかの敗北により、団体最高位王座・スレイヤー無差別級ベルトまでもが WRERAへと流出済み。 *3a

しかも、いずれも奪還に失敗しているとあっては、「スレイヤーの選手層は WRERAに劣る」と言われても反論しにくい状況だった。

「……うぅ、言われてみると確かに旗色が悪いのです。
ウチの団体はただいま不景気真っ盛りなのですね」
ライラ

「あん? テメェら、なーに辛気臭え顔してやがんだぁっ?」

ガラは悪いが景気は良さそうな声で二人に割り込んできたのは、言わずと知れた団体最高の直球型問題児、ライラ神威である。

「今月のタイトルマッチ戦績がどうの、旗色がどうのって聞こえてきたがよ。
テメェら、大事なことを忘れてんじゃねぇのか?
この私が今月奪ったばかりの EWA世界タッグベルト。 こいつのことをよぉ!」

そう言ってライラが掲げたベルトは、確かに EWA世界タッグ王座の物に相違なかった。
EWA-T

今月の最終戦、後輩のケルベロス小鳥遊とのヒールタッグを組んだライラが、ワールド女子の十六夜美響&柳生美冬組から奪ったベルトである。

そのベルトを、どうして今、ジムの中で持ち歩いているのよ?

──と問いただしたい衝動にかられた桜崎だったが、先に別のツッコミを入れたのは美沙だった。
美沙

「ライラ先輩は話の流れをわかってないのです。
ていうか空気読んでくださいなのです。
WRERA相手の話をしてるのであって、それ以外の相手との勝ち負けは全部テーマ外れで意味無いのですよ?」

「なっ! て、テメェっ!?」

「大体なのです。 元はと言えば、交流戦の大敗が出発点なのですよ。 *4a
その大敗の出発点、連敗スタートは他でもないライラ先輩の試合だったりするのです。
桜崎先輩の勝利や、美沙の引き分けを無にしたのは誰か、自覚して反省して責任取って欲しいくらいなので──ふぎゃんっ!」

当然といえば当然の代償、自然といえば自然の帰結として、美沙はライラに殴られた。
どうやら、こういう危機に際して彼女の魔法は発動してくれないらしい。

悲鳴を上げて逃げる美沙と、それを無言で追うライラの鬼ごっこがジムを三周したところで、

「WRERAと差がつくのも……わかる気がいたしますわ。 お嬢様がた……」

桜崎は特大のため息をついた。

幸せがどれだけ逃げようが、とりあえずは知ったことではない気分だった。 *5a




「ち、千里さん、おはようございます! あのっ、そのっ、本日はお日柄もよく……っ」

「? おはよう」 桜井

ジムに入って早々に後輩の結城千種から受けた、奇妙な挨拶。
ある意味で奇襲的なそれにも動じることなく、桜井千里は短く挨拶を返した。

わずかに首を傾げたかも、というだけの反応を見せるにとどめて、そのまま更衣室へと消えていく。 *1b

「ううっ……やっぱり、タイトルマッチ前の千里さんは、さすがの迫力だよねぇ……」

「……それ、どう考えても千種が気にしすぎてるだけだと思う」

トレーニング用のチェストプレスマシンに腰掛けて一部始終を見ていた武藤めぐみが、容赦のないジト目を親友に向けた。
千種 めぐみ

「千里さんはいつもあんな感じで変わりないって。
市ヶ谷さんなんかは、いつもより余裕あるくらいね。
実家の埼玉から直接会場入りするって言ってたし。
明日の NAタッグタイトルマッチ……意識しちゃってるのは挑戦者側の私たちだけよ?」

EXタッグリーグ優勝チームに与えられる、NA世界タッグ王座への挑戦権。

昨年の EX覇者である武藤めぐみと結城千種は、早速その権利を行使。
WRERA 1月シリーズにて、王者・桜井千里&ビューティ市ヶ谷組への挑戦が決まった。

ただし、下馬評は圧倒的に王者組有利。
前王者でもある龍子&石川ペアを下した伸び盛りの二人とはいえ、シングルの祐希子同様に無敵街道を行くタッグ王者組の壁は、あまりに厚くそして高いとされていた。

「仕方ないんだけどね。
6人タッグやハンデに近いメンバーでのタッグマッチならともかく、シングルでは私も千種も、あの二人や祐希子さんとは、試合すら滅多に組んでもらえてない……それが現実だもの」

スレイヤーを始めとする他団体に比べ、WRERAはその点においてシビアだ。
ことシングルマッチに関し、実力が離れていると見なされるうちは、トップ選手と戦う機会がほとんど設けられないのである。 *2b

「でも、めぐみはその三人とシングルでのメイン戦を体験済みじゃない。
私は、まぁ、まだだけど……」

「龍子さんから何とか──運良くなんて思ってないわ──タイトル奪ったから、ようやくね。
でも、まだまだお試し程度。 本当に認められるには、もっと実績作らなきゃ。
とりあえずは明日…… NAタッグを獲って、私たちの力を認めさせたいのよ」

「私たちって……私も入ってるの?」

「当たり前でしょ。 それとも千種は、あの二人に勝てるわけないとか思ってる?」

ひょっとするとめぐみは、千種の弱気な発言を予期していたのかもしれない。
だとすれば、その予想は外れたことになる。
千種は、はっきりと首を横に振ったのだ。

「もちろん、勝つつもりだよ!
私一人ならともかく、めぐみが一緒だもんね!
勝ってタッグ世界一になるのはもちろん、シングルでだってメインが充分務まるって、みんなに認めてもらおうよ。 ねっ、めぐみ?」

「そうね、千種。 私たちがトップに追いついたってこと、証明して見せなきゃね!」

二人で決意の笑みを交わしあい──めぐみはしかしそこで、ふと、自分自身の言葉に引っかかりを感じた。

自分でも良くわからないまま、その引っかかりを言葉に乗せてみる。

「トップに追いついた……か。 本当に、それでいいのかな……」

その呟きは、千種の耳にすら届かないほど、小さなものだった。

だから、更衣室を出たばかりの桜井千里がその時めぐみの方を向いて、それから何か考え込むかのように目を閉じたことは、あくまで関係の無いただの偶然だと思われる。




NA-T

「オーッホッホッホ!
よくぞここまで辿り着きましたわね、お二人とも。
ですが、あなたたちの旅は残念ながらここが終着駅。
この美しく気高きビューティ市ヶ谷が率いる NA世界タッグ王者と同じ舞台に立てたという栄誉だけをお土産に、あとは私たちの引き立て役に回っていただきますわ!」

WRERA 1月シリーズ第五戦、メインイベント。
NA世界タッグ王座戦という大一番を前にしても、市ヶ谷節は好調至極。

そんな市ヶ谷のこの上なく気持ち良さそうな高笑いに水を差したのは、他ならぬタッグパートナーの千里だった。

「あまり油断しない方がいいですよ、市ヶ谷さん。
あの二人、決して弱くはありません」

「ホホホッ。 千里さんは本当に心配性ですわね。
天文学的確率のまぐれとはいえ私が不覚をとった武藤さんはともかく、もう一人の結城さんはまだまだ未熟で、せいぜいがセミ前クラス。
一応シングルのベルトもお持ちのようですけど、私たち二人には遠く及ばないのではなくて?」

「一年前……いえ、ほんの半年前までは、武藤もそう思われていたはずです。
今の結城が半年前の武藤でないと……市ヶ谷さんには言い切れますか?」

それでなくても、挑戦者組の二人には勢いがある。
事実、ゴングが鳴って激しく仕掛けたのは、挑戦者組先鋒のめぐみだった。

「この試合……勝ってみせる!」

千里にペースを掴ませまいとする速い攻めから、大技・フライングニールキックを敢行。
これが見事に決まると、千里得意のハイキックを受けながら、交替した市ヶ谷相手にも踏みとどまり、早くも二発めのフライングニールを放つ大立ち回りを見せた。

「あらあら、なかなか頑張りますわね。
ですが、これはタッグマッチ。 弱い方を攻めればよろしいのですわ!」

さすがに息が続かず、めぐみは千種にタッチ。
それが運のツキとばかりに、市ヶ谷は替わったばかりの千種にビューティボムの洗礼を浴びせ、そのまま押し切ろうと前に出る。

「まだまだ……行けます! 負けませんから!」

ところが千種は、市ヶ谷相手に堂々互角に渡り合ってみせた。
いや、互角どころか、苛立って動きが荒くなった市ヶ谷の隙を頼みのバックドロップで投げきってみせ、優位のままで戦いを早くも終盤モードに突入させる。

「めぐみ!」

「うん! 行くよ、千種!」

阿吽の呼吸、神韻の連携。
EXタッグリーグで龍子&石川組を葬り去った脅威のタッチワークがここで発動。
市ヶ谷の命もこれは風前の灯火かと思われたが──

「な、なめるんじゃありませんわよ、小娘ぇっ!」

市ヶ谷がそれほど甘いレスラーでないことは、歴史が証明している。
ジャンピングニーを狙った千種を逆にジャンピングニーで吹き飛ばす意地を見せ、うまく相手を分断した上で千里に出番を譲った。

「私は……油断はしない。 だから二人とも、覚悟を決めなさい!」

千里はここで、鮮やかに試合をコントロールしてみせた。

千種のジャンピングネックブリーカーをトペ・レベルサで潰すと、お株を奪う投げ技の連発で彼女を追い詰め、めぐみとの一対一に持ち込んだ。
めぐみも奮闘を見せるが、現段階では千里がめぐみを凌駕する。
得意の打撃で一方的に押し、ダイヤモンドカッターの一閃でカウント2.8を奪うと、挑戦者の二人にはもう後が無くなった。

何とかタッチした千種が再びのバックドロップで意地を見せるも、最後は冷静にエクスプロイダーで沈め、千里はシングルでもマイティ祐希子と並び称されるその実力を、後輩二人にまざまざと見せ付けたのだった。

市ヶ谷

「……勝利という結果は当然のこととして。
またもこの私が脇に追いやられた感がありますわね。
千里さんにはもう少し空気を読んでいただきたいものですわ。

──まあ、幸いにして次の最終戦のメインも、私の試合。
あの忌々しい祐希子をけちょんけちょんにして差し上げ、主役の座とファンの話題を独占させていただきますわ! オーッホッホッホ!」

……というビューティ市ヶ谷の高笑いを聞いた、大方の予想(期待?)通り。

翌第六戦の NA世界無差別級王座戦は、王者・マイティ祐希子がビューティ市ヶ谷を退けて、二十一度目の防衛を果たしたのだった。 *1c




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■ 注釈(?) ■
*1a1月のスレイヤーでは、保科2pFC、真田一日署長、などが。
WRERAでは、越後CM、市ヶ谷CD(「それなり」)、来島一日署長、堀写真集(「かなり」の売上)、などがありました。
*2a8年目3Q9年目2Qをご覧いただければと。
*3a7年目4Q9年目2Qのお話です。
*4a団体交流戦(後半)については、9年目2Qにて。
*5a1月のスレイヤーにおけるその他のタイトルマッチは、
真田&桜崎のGWAタッグ十一度目の防衛(vs森嶋&永沢)、森嶋のWWPA王座十五度目の防衛(vs小鳩)。
さらに 2月分も書いてしまうと、永沢のJSWヘビー六度目の防衛(vsライラ)、フレイア&千春のNJWPタッグ六度目の防衛(vsカオス2p&コーディ2p)、真田のアジアヘビー七度目の防衛(vs桜崎。60分引き分け)、でした。
*1b当リプレイにおいて、後輩との絡みがここまで皆無に等しい桜井。
原因の一つは「後輩にどんな口調で接するんだろ?」というのが個人的大問題だったからです。
ゲーム中では基本「ですます」口調なものの、一部ではそうでなかったりもするし…と妙に悩んでしまい、後輩との会話を回避気味でした。
(今回も、さほど絡んでいませんけど。)
*2bゲーム開始以来の方針で、WRERAでは全興行マジメに試合構成を考え、団体選手間では評価値差が大きい (=上位者に経験値が入らない) カードを避けるようにしてます。
スレイヤーは、最終日+アルファのみで、あとはランダム任せ。
まあ、村上姉妹とか見てるとどちらもあまり成長が変わらないので、WRERAでの苦労はほとんど意味無いという話も…?
*1cワンパターンは承知で、ついついオチ担当に使ってしまう市ヶ谷様です。
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