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9年目3rdQ (10〜12月) Part2 〜 火の玉根性×鋼の気力 〜

《目次っぽいもの》
視線は高く[WR]火の玉根性×鋼の気力[SL,WR]EXタッグリーグプロレス大賞注釈?



「お、思ったよりはやりますわね、あなた。
まだほんの小娘かと思ってましたけど、胸以外は大した成長ぶりでしてよ。
ま、今日は最初から胸を貸すだけのつもりでしたから、勝ちを譲るのも予定通り。
ですが、次の本番ではそうはいきませんからね。 オーッホッホッホ!」

タイトルマッチが本番で無ければ、いったい何が本番なんだろう。

その疑念を観客全員に抱かせておいて、市ヶ谷は勝者のように悠然とリングを去った。
NJWP

11月 WRERA最終戦のセミファイナル。 *1a
NJWPヘビーのベルトを賭けた一戦は、王者・武藤めぐみがついにシングルでビューティ市ヶ谷から初白星を挙げるとともに、防衛回数を八まで伸ばしたのである。 *2a

「……あー、しんどかったぁ! 身体中が痛いし、もうヘトヘト。
ほんと、市ヶ谷さんって無茶するわよ……」

「あははっ。 勝てたんだからいいじゃない、めぐみ。
あの市ヶ谷さん相手にタイトル守れたんだから、すごいよね。
私、試合を見てるだけで生きた心地しなかったもん」

二人きりの控室。

EWA遠征戦から凱旋した結城千種の笑顔の前で、試合を終えたばかりの武藤めぐみは、おそらく他の誰にも見せないであろう緩みまくった顔つきと態度のまま、倒れこんだ簡易ベッドの上で大きく伸びをした。

「なーに他人事みたいに言ってんの。
EWAのベルト持ってる以上、千種だってそのうち市ヶ谷さんと戦うことになるわよ。
それに、上手くいけば 1月にも、二人であの人たちに挑むことになるんだから」

「え? それって、どういう……」

思わせぶりなめぐみの呟きに千種が素直な反応を見せた時、見計らっていたようなタイミングで控室のドアがノックされた。 返事も待たずにノブが回る。
めぐみ 来島

「よっ。 めぐみ、お疲れさん……っと、千種もいんのか。
邪魔して悪かったか?」

「いえ。 来島さんこそお疲れさまです。
わざわざ来てもらってすみません」

いつの間にやら、めぐみはしゃんと身を起こしている。
入ってきた来島を清楚とさえ言えそうな座り姿勢で迎えた千種の親友は、澄ました顔にハキハキとした受け答えを添えて、来島と何やら話を始めた。

その変わり身の見事さに内心舌を巻きつつ、千種は目線だけを少し上に向ける。
天井の蛍光灯が、一箇所だけ暗い。

「取り替えた方が……いいのにねぇ」

「お? なんだ、千種。 タッグパートナーを取り替えた方がいいってか?
あんなこと言ってるぞ、めぐみ」
千種

「ち、違いますってぇ、来島さん! 違うからね、めぐみ!
蛍光灯がほらアレで、めぐみとタッグ組めるのはうれしくて、でもタイトルマッチ負けて足引っ張ってるのが気に……って、そうじゃなくてぇっ。
なんでいきなりタッグの話になるんですか、もうっ!」 *3a

「いきなりじゃねえよ。 話聞いてなかったろ。
来月の EXタッグリーグはお前ら二人に出てもらおうって、そういう話だぜ」

「ええっ!? EXタッグって……だってあれは、来島さんに誰と出るか選ばせるって、社長がみんなの前で発表したじゃないですか?」

「その発表の後で、そこの NJWPチャンプが頼みに来たんだよ。
今度の防衛戦で自分が市ヶ谷に勝ったら、千種とのタッグで EXに出させてくれってな」

呆れた口調で来島は親指を『そこの NJWPチャンプ』に向けた。
当の本人はどこ吹く風で、千種が指摘した切れかけの蛍光灯を見上げている。

「しかも、目標は EX出場でも、その優勝で終わりでもねえ。
市ヶ谷と千里──今やアンタッチャブル呼ばわりされてる NAタッグ王者への挑戦だとよ。
本当に生意気というか頼もしいというか、相変わらずの奴だぜ、お前は」 *4a

「それは目標じゃなく、目的……いえ、手段ですよ。
目標は、NAタッグのベルト、そのものですから」

先輩の発言を冷静に訂正するめぐみ。 その訂正内容に、千種の方が慌てた。

「NAタッグベルトって……ほ、本気なの、めぐみぃ!?
私たち、タッグのタイトルマッチは出ると負けちゃって実績も積めてないしっ。
市ヶ谷さんと千里さんには、祐希子さんと組んだ来島さんだって手も足も出ないでボッコボコにされちゃったんだよ!?」

「手も足もって……お前も案外口が悪いのな、千種。
ま、あとはお前らで決めてくれや。 二人がOKなら、社長には俺が『選べって言われたから二人とも選んだよ。 文句ないよな』……って言っといてやるよ。
ちなみに今年はスレイヤーから龍子の奴が出てくるらしいから、簡単には勝てねえぞ?」

「りゅ、龍子さん!? め、めぐみ、私じゃまだちょっと無理だよぉ!
えーとえーと、そうだ! 今回は私が譲るから、めぐみと来島さんが出るってことで……」

「それだけは無いから」

完璧に息の合った即答。
ホントに好タッグかも……と思いつつ、千種はとりあえず大きなため息をついておいた。 *5a




死闘。
あるいは、消耗戦。
あるいは、苛烈にて熾烈なる戦い。

眼前で繰り広げられている試合は、それらの形容がふさわしい一戦となっていた。

「はぁ、はぁ……まったくしつこいな、貴様という奴は……。
いい加減……無駄な足掻きは、もう諦めたらどうなんだ……っ?」

「冗談は……休み休み言ってほしいっスね……。
そっちこそ、勝てない試合にこれ以上意地になるのはやめた方がいいっスよ……っ?」

試合には流れというものがある。
そして、収まるべき決着のつきどころというものも、また。
ASIA

それらを知る玄人肌の観客たちにとって、この戦い──真田美幸 VS 越後しのぶのアジアヘビー王座選手権試合は、25分を経過した辺りで既に試合終了の四文字が顔を出してしかるべき試合だった。

その流れのまま決着がつかなければ、それがどんな試合でも、最初は冗長さに呆れられ、次にブーイングが飛ぶ。
この試合でも、そうだった。

大きく展開が分かれるのは、その後だ。
ダラダラと続くだけの凡戦ならば、押し黙った中で思い出したように野次が飛ぶ。

この試合でも、観客はもう押し黙っていた。
しかし、ただの一つも野次が飛ぶことはない。
観客が皆、二人の次の動きを、固唾を飲んで見守っているために。

──レフェリーがちらりと時計に目をやる。
その時計は、ゴングからもう 40分近くが過ぎ去っているという彼の感覚が、ほぼ正しいことを証明してくれた。

「体力が無くなれば……あとは気力っ! それなら自分は、誰にも負けないっスっ!!」

振り絞った真田の叫びに慌てて目を戻したレフェリーの目の前で、真田は越後をジャーマンの体制に捕らえていた。

この試合一発目のジャーマンは、越後がロープブレイク。
今度こそ決めてみせる──歯を食いしばった真田が、笑いつつある膝を心中で叱咤して越後を持ち上げていくが……。

「ふざけるなっ! この私が気力勝負で遅れを取るものかぁっ!」

越後の回転エビ固めが強引気味にジャーマンを潰し、真田の肩をマットに押さえ込む。
カウントは──2.9。
もうこの試合で双方何度目かわからないニアフォールでは、観客から脱力か安堵の吐息しか引き出すことはできない。

それを知ってか、越後も真田も、鉛のような身体に自ら鞭を打って前に出た。
絶叫とともに、試合序盤に見せるようなロックアップで激突する。

「次で決めてやる! 受け切れるものなら受けてみろ!」

「それはこっちのセリフだあっ! どっちの根性が上か、教えてやるっスよぉっ!」

互いに掛け合ったアルゼンチンバックブリーカーも双方耐え切り、真田のフェイスクラッシャーも2.9、越後の裏拳も2.9。 さらに真田の逆さ押さえこみも2.9、越後のショルダータックルも2.9。
息も絶え絶え、体力はもはやマイナスの二人が、それでもカウントには肩を上げ、ブリッジで返し、何度も何度も起き上がる。 *1b

真田渾身の卍固め、さらにはノーザンライトボムまでも越後がロープを掴んでブレイクを勝ち取った時、観客はついに押し黙っていることをやめた。
最初は小さく、しかし徐々に大きく、拍手の音が会場を波のように渡っていく。

「これに応えられないなら……女がすたるっ!」

ついに越後が伝家の宝刀を抜いた。
鉈の切れ味、延髄斬りが真田の後頭部を斬り裂き、身体をかぶせる越後に勝利の確信を抱かせる。
カウントが入り、ついに 3つめ──その直前に、真田が越後を跳ね飛ばした。
真田

「見たかぁぁっ、真田の意地!
あんたの技、受けきってやったっスよぉ!!」

斬馬迅──。
越後が鉈の切れ味なら、こちらは重厚なる大太刀。

無尽蔵にも思えた越後の気力すらも打ち砕く真田最強の技が、長かったこの試合についに終止符を打ったのである。

41分50秒間の、まさに大熱戦。 *2b
11月のスレイヤー巡業で行なわれたアジアヘビー王座選手権は、死闘を制した王者・真田が六度目の防衛を果たしたのだった。 *3b
越後 真田

「熱い試合、感謝するっス!
また今度、同じような……いや、もっともっと、燃え尽きるほど熱い試合をやろうっス!」

「ふんっ。 はっきり言って、もう一回同じは御免だな。
これだけ疲れて手ぶらじゃ、割に合わん。
今度は私がベルトを奪って帰るから、覚悟しておけよっ!」




「ここまで来たらもう四の五の言ってられないよね、うん!
こうなったら絶対に優勝して帰るんだからっ!
さぁ行くよ、めぐみ! この私に付いてきなさい!」

「うんうん。 頼もしいわよ、千種。 手と足が一緒に出てるけどね……」

団体の垣根を越えて行なわれる、年の瀬恒例、EXタッグリーグ戦。

主催たる新日本女子の解散により開催が危ぶまれた今年の大会だが、新生・新女の CRO (Chief Ring Officer) を務めるパンサー理沙子の意地と尽力、そして旧新女所属のフリーレスラーたちの協力により、今年も何とか開催の運びとなったのだった。 *1c

EXタッグリーグ参加チーム
ノエル白石&神田幸子新日本女子
SA-KI&吉原泉新日本女子
寿零&オーガ朝比奈ワールド女子
近藤真琴&氷室紫月日本海女子
ソニックキャット&藤原和美フリー
カンナ神威&菊池理宇フリー
石川涼美&サンダー龍子スレイヤー
武藤めぐみ&結城千種WRERA

「新顔も多く、ファンの注目は高くて興行は大成功。 よかったですね〜。
でも一方、海外団体の参加も無くって、トップレスラー同士のタッグは数える限り。
結局は今年も、スレイヤーと WRERAの対決に優勝の行方が委ねられたのでした〜」
EX

「解説ありがとな、石川。
──というわけでここが天王山だよ、武藤、結城!
私らはここで勝って、1月には NAタッグ王座も返してもらう。
行きがけの駄賃に、私のスレイヤー王座戦と石川の EWA王座戦の借りも、ここで少しは返させてもらうよ!」 *2c

「そ、そう思い通りにはいきませんよ、龍子さん!
私たちだってこれでも NAタッグを狙ってるんです!
お二人の気持ちもわかりますけど、ここは返り討ちにしてあげますから!
それでも良ければリングに上がってください! そうよね、めぐみ!」

「うんうん。 頼もしいわよ、千種。
これで声と膝がすっかり震えてなければ、もっとよかったんだけどね……」

スレイヤー無差別級王者と EWA認定世界王者。
WRERAの二人も実力は認められているが、タッグの実績に特筆すべきものは無し。
元・NA世界タッグ王者でもある石川&龍子ペアが数段優位と言われていた。

「そうね……確かに、私と千種のタッグは、実績も経験も不足してるわ。
でも、だからこそ私は、二人でこの EXタッグに出たかったの。
ここで一試合でも多く経験を積んで、強くなるために!」

試合はスレイヤー組有利に進むが、WRERAの二人がかろうじて粘りきって、時間切れ引き分けに持ち込む。

そして迎えた再試合。
めぐみと千種は、この試合で「化けた」。

今回も中盤戦まで不利な展開を背負うが、そこでほぼ技一つごとに交代するほどの小刻みなタッチワークを繰り返す。 *3c
通常は引き寄せた流れを自ら断ち切る“悪手”のはずが、阿吽の呼吸を見せる二人は、その悪手を最善手に変えて見せ、経験・実績・コンビネーション全てに勝るはずの石川と龍子を翻弄した。

最後は、とっておきのフライングニールキックが石川に炸裂。
龍子のカットも千種が何とか押さえ、めぐみ&千種ペアが、二人に足らなかった「実績」を一つ手に入れたのだった。

「私でもやればできました。 応援ありがとうございます!」

「これはただの通過点です。 もっと強くなります!」

対照的と言ってもいい二人の勝利コメントがファンにも好印象を残し、暖かい拍手の中で今年の EXタッグリーグは成功のうちに幕を閉じたのであった。 *4c




この年のプロレス大賞受賞者は、以下の通り。

ベストバウト:ジュニアメロディ小鳩 VS ソニックキャット
ベストバウト:タッグクルス・モーガン、マイティ祐希子
 VS 桜井千里、武藤めぐみ
ベストバウト:シングル武藤めぐみ VS 森嶋亜里沙
最優秀新人ノエル白石
最優秀外国人スーパーカオス
最優秀選手マイティ祐希子

「こ、この私の試合がひとっっつもベストバウトに入ってないとはどういうことですの!
審査委員の方々の目は節穴ですのね!? 厳っっ重に抗議いたしますわっっ!」

……という某選手の乱入が容易に予想できたため、今年は日程をずらしてその選手のプライベートな海外旅行中に開かれたのだ、とまことしやかに噂された授賞式。

新人賞は新生・新女へのご祝儀の意味も込められ、フリー枠から加入のノエル白石が受賞。

最優秀選手は、マイティ祐希子が三連覇。
まだまだ世界の頂点は誰にも譲らない、と堂々たる面持ちで表彰台に上がった頃には、既に会場に用意された立食パーティ用のカレーを今年もほぼ一人で平らげていたのだった。




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■ 注釈(?) ■
*1a11月のWRERAでは、飲食店TV取り上げ、AACジュニア(堀)とEWA(千種)の遠征防衛、小縞FC、富沢CM、滋賀グッズショップ設置、来島CD(「すごい」ヒット)、ゆっこ写真集(「それなり」)、理沙子2p二十歳の誕生日市ヶ谷プライベートイベントその2、など。
*2aスレイヤーの選手からはスレイヤー無差別級ベルトを狙われ、WRERAの先輩たちからは NJWPベルトを狙われる、最近気を抜く暇もないめぐみ。
プレイヤーとしても気の抜けない市ヶ谷戦は、18分58秒、フライングニールでの決着です。
WRERAでは他に、富沢が TTT王座で初の二度目の防衛(vs寿)も。
*3a8月、NJWPタッグ(千春&フレイア)に挑戦して負けてるめぐちぐです。
*4a8年目3Qにちょっとやりあってる来島とめぐみ。
*5aその二人はバッドタッグですよ > 千種
*1b二人の戦いは、本文通りの2.9やロープブレイクの連続。いつ終わるかと思いました。
さすがは根性10不屈持ちの真田と根性8我慢鉄壁判断持ちの越後です。
*2bホントに大熱戦。越後の延髄を真田が読みきって(注:単なる偶然)の受けで止めた後、打カードの斬馬迅で決着でした。
*3bスレイヤーの11月は、森嶋CM、熊本グッズショップ、フレイアプライベートイベントその2、など。
他のタイトル戦は、真田&桜崎が WWPAタッグ初防衛(vs千秋&千春)、小鳩が WWCAジュニア十五度目の防衛(vs千秋)、永沢が JSW五度目の防衛(vs石川)、フレイア&千春が NJWPタッグ五度目の防衛(vs越後&千秋。引き分け)。
また、千秋が千春相手に WWPAジュニア四度目の防衛も果たしてます。
*1c新女解散は8年目4Q。三ヵ月後に復活したとはいえ今年の EXは中止かと思いましたが…フリー選手が出てくることもあるのね…。
*2c龍子vsめぐみのスレイヤー王座戦と千種vs石川の EWA王座戦はともに9年目8月でした。
*3cフルオート観戦でしたが、めぐちぐが毎回タッチ交代コマンドを選択。なんかバグったかと思いました。
*4c12月は WRERAで来島FC、滋賀飲食店設置、ゆっこプライベートイベントその2など。バカンスでは理沙子2pが登場。
スレイヤーでは森嶋FC、熊本飲食店設置、小鳩ファンタジー映画は超絶ヒット、フレイア写真集(「すごい」売れ行き)、石川プライベートイベントその2、など。バカンスでは中森2pが登場してます。
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