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9年目3rdQ (10〜12月) Part1 〜 社長・突然の憂鬱 〜

《目次っぽいもの》
社長・突然の憂鬱[WR]菊池・突然の災難[WR]注釈?



「それじゃ、相手は龍子さんじゃなくて森嶋さんなの?」

ああ、と背後のめぐみに返した WRERAの社長だったが、実は生返事もいいところだ。

「そっか。 向こうの団体もいろいろあるのかな。
てっきり龍子さんだと思って対策練ってたんだけど」

そうだな、とこれも生返事で返した社長は、机の上に残した仕事が気になりつつも、窓の外、何の面白みもない隣のビルの明かりを、ひたすら凝視していた。
そうでもしないと、暗い窓に映っためぐみの姿に目を奪われてしまいそうなのだ。

「ゆ、結城か?」

「え?」

「お前の、その、着替え、だよ。 寮から持ってきてくれるって。 結城なのかと思ってな」

居残り練習の後、着替えを忘れたことに気付かずシャワーを浴びてしまったというめぐみ。
今は、シャワーを浴びたばかりの火照った身体に、社長の男物のシャツを羽織っているだけという姿だった。 *1a

だからジムには練習着の予備を置こうと俺は言ってたんだ、と旗揚げ当初に議論した話を頭の中で蒸し返しながら、社長は目の毒だとばかりにめぐみを視界から外し続けていた。
どうやら思春期の少年並みに純情派らしい。
めぐみ

「千種じゃないわ。 寮に来たばかりの新人、成瀬って子よ。
あの子、練習生契約は来月からなのに、今月から住み込んで事務仕事とかお手伝いしてるんだって? 偉いじゃない」

「まあ、その分のバイト料はこっちが払うんだがな」

「あら。 しっかりしてる子なのね」

タオルが濡れた髪を柔らかくこすり上げ、シャンプーの香りを微かに漂わせる。
それだけで、社長の顔は少し赤くなった。
思春期の少年どころか、天然記念物級らしい。

まあ、あれだ。 あいつの方がそういう意識をまったく持ってないわけだから。
俺さえしっかりしてれば何の心配もないわけだ。
しかし男として扱われてないというのが何というか悔しい気がしなくもないような。
そういえば、なんで武藤の奴は先輩や霧子くんには敬語なのに社長の俺にはタメ口なんだろう。これは一度ビシッと言ってやらねばいかんな、うん。 *2a

「社長!」

「わ!? なんだっ? ビシッとかっ?」

「……何言ってるのよ。 話、聞いてた?
あのね、今月の CM撮影、やっぱり断わってほしいの」

「えっ……CMだって?
おいおい、あの件はもう仮契約まで行って、スタジオも押さえてるんだぞ? それを……」

「ごめん。 だけど、その時間がどうしても惜しいのよ。
今度のスレイヤー無差別級防衛戦……森嶋さんが私より何枚も上なのはわかってる。
充分に対策練ったって、勝てるかどうかわからない相手ってことも。
そんな人が、団体王座を取り返さなきゃって、すごい覚悟で向かってくるのよ?
私は……負けたくない。 だから、やれるだけのことはやっておきたいの」 *3a

「…………わかった」

社長は溜息とともに首肯した。
鏡のような窓に映った、めぐみの瞳。
あの目をしためぐみに何を言っても無駄だということを、社長はもう充分すぎるほど把握してしまっている。

「先方にはこっちから事情を話して謝っておく。
この埋め合わせは……いや、お前は何も気にせず試合に集中しろ。 そして、勝って来い」

「……ありがと。 私、社長のそういうとこ好きよ」

その一言に年甲斐もなく心臓を飛び跳ねさせた時、階下のジムからと思しき呼び声が、タイミング良く事務所に響き渡った。
成瀬2p

「せんぱぁ〜い! どこいてはるんですかあ?
新人の成瀬、あなたの成瀬が、ただいま参上しましたで〜!」 *4a

「あっ、ようやく来たわね。
──ここよっ! 上の事務所! すぐに降りてくから!」

ほーい、と陽気な声が下から返ってきたところで、めぐみは入口のドアへと向かった。
ドアを開け、今行くわ、と成瀬にもう一度呼びかけてから、社長の方にも手を振ってみせる。

「じゃあね、社長。 邪魔しちゃった私が言うのもなんだけど、残業はほどほどにね」

「ああ。 気をつけて帰れよ」

さすがに振り向いて、しかし視線はしっかりめぐみから外したまま、社長も軽く手を上げた。

めぐみが階段を降りると、しばらくはその格好にツッコミを入れまくる成瀬の声が聞こえてきたが、やがてめぐみが着替え終わったのだろう。 扉の音を小さく残して、静かになった。

「……こっちも帰るか……」

仕事は終わっておらず、明日の霧子の顔が怖い。
しかし、今日これ以上仕事を続ける気にはどうしてもなれない、WRERAの社長であった。

SLAYER そして、10月の WRERA巡業第五戦、鹿児島大会。 *5a

フレイア鏡とともにスレイヤー・レスリングの威信をかけて殴りこむと、ノンタイトルながら祐希子と千里をともに得意の SSDで下すなど、ここまでの四戦で気を吐いた森嶋。 *6a

最大目的であるこの日のスレイヤー無差別級王座戦でも、彼女は当然のように王者・武藤めぐみを圧倒した。

しかし、めぐみは森嶋のファイトをよく研究していた。

過去三度も来島を仕留めている森嶋の関節技を抜け目なくロープで凌ぐと、ニーリフトで動きを止めたところにダイヤモンドカッターの一撃。
そこをすかさずラ・マヒストラルで丸め込み、得意のフライングニールキックを見せることもなく 23分17秒で勝利。 *7a

「龍子戦はフロック」「森嶋の勝ちは鉄板」とベルト奪還を疑わなかったスレイヤーのファンの願いも虚しく、WRERAの武藤めぐみがスレイヤー王座の初防衛を果たしてしまったのだった。




菊池

「祐希子さんっ……私……
祐希子さんとカラスさんのベルト、奪りましたぁっ!」

授与されたばかりのベルトを大事そうに抱えると、この試合のセコンド役を買って出てくれた祐希子の下へ、菊池理宇は弾けるような笑顔で駆け寄った。 *1b

10月最終戦。
フリー選手として短期契約中の菊池に、WRERAは異例とも言える舞台を用意した。

日本海女子から参戦の王者・氷室紫月に挑戦する、AAC世界ヘビー級王座戦。

当然、WRERA所属選手の中から挑戦者が選ばれる予定だったところ、 AAC

「菊池ちゃんはもう、半分ウチの選手みたいなもんじゃない。
こーゆーチャンス上げたっていいでしょ、社長?」

という祐希子の一声で抜擢された菊池は、この七年間、憧れ、目標にし続けてきた先輩の期待に見事応えてみせたのだった。 *2b

「あははっ。 よくやったわ、菊池ちゃん! 何ていうか、あたしも鼻が高いわよん。
おかげで気合入ったから、メインの NA王座戦もいい感じで行けそうだしね。
菊池ちゃん、ホントにありがとっ!」

「お、お礼を言うのはこっちですよぉ! 今日もセコンドに付いてもらって……。
祐希子さんの試合は、私がセコンド付きますからっ。 よろしくお願いします!」

……と、和気あいあいの祝賀ムードはまさに「いい感じ」だったが、好事には魔が多いもの。
特に WRERAには、こういう時に登場しないと気がすまない「魔」が一人分存在していた。

「オーッホッホッホ!
祐希子のセコンドなどしたら、せっかくのベルトにケチがつきますわよ、菊池さん?
その小娘は、たった一度しか AAC王座を防衛できずに私に敗れたのですから!」 *3b
市ヶ谷 ゆっこ

「うわっ、市ヶ谷っ!?
あんた、何でこんなとこに出てきてんのよ?
あんたの試合はセミなんだから、次の次でしょ。
さっさと準備してきなさいって。 ほら、シッシッ!」

「あら、下品なこと。
私はただ、菊池さんの間違いを正しに来ただけですわ。
AACといえば、実に十三度もの防衛を果たした、この・私・の、ベルトなんですのよ。
祐希子とカラスのベルトなどと、勘違いをしてはいけません。
そこのところをよーくご理解いただきたいものですわね。 オーッホッホッホ!」

「……ふんっだ。 龍子にこっぴどくやられて奪われたくせにぃ。 *4b
何回防衛しようが、奪られちゃったらおしまいよ、オ・シ・マ・イ。
今この瞬間にベルトを持ってることが大切で、つまりは現役王者が一番偉いのっ。
シングル無冠のまま二年も過ごしてる人は黙ってなさいって。
ねー、AAC現役王者の菊池ちゃんも、そう思うよねー?」

「えっ!? あ、はい、その、それはぁ……」

「……あーら、これはこれは。
つい先日、鹿児島の NAタッグ王座戦で私たち“現役王者”の前にあっっさりと返り討ちにあった身でありながら、何を偉そうに胸を張っておっしゃられるのやら。
精一杯張ってみたところで貧弱な胸が大きくなるわけでもありませんのにねえ。
まったく不憫なことですわ! オーッホッホッホ!」

「あ、あの、お二人とも……ちょっと、えっと、落ち着きません?
ほら、もうすぐお二人ともタイトルマッチですしぃ……」

菊池が WRERAの選手でなかったことが、今の彼女にとって最大の不幸だった。
二人を良く知る WRERAの選手であったなら、この段階でなだめようなどとは露も思わず、一目散に逃げ出しているはずだからだ。

「はぁっ? 不憫なのはどっちなんでしょーねぇ。
今はシングル王座の話をしてんのに、タッグとか胸とかの話でごまかすしかないのよねー。
防衛回数とか自慢してみても、シングルは結局 AACしか奪れてないわけだしねー。
今日の WWPA王座戦も、どーせ森嶋の亜里沙ちゃんに負けちゃうもんねー。 残念だわー。
ねっ、不憫なシングル無冠のいっちがっやちゃん?」

「ゆ……祐希子ぉっ!
大人しく聞いてあげていれば、勝手なことをペラペラとっ!
この私の銀河系よりも広い心をもってしても、許せないことはありますのよ!
見ていなさい、今日 WWPA王座を手にしたら次は NA王座も奪って差し上げましてよ!
せいぜい今日は鏡さんに負けないよう、気をつけることですわね!」

「むーりむり。 だから、あんたじゃ WWPAのベルトも奪れないってば。
ま、あんたが負けたって NA王座戦はやってあげるわよ。
ほら、最近は桜井ちゃんとか龍子とかフレイアさんとか、キツい相手ばっかりじゃない?
あんたとなら、ちょーどいい息抜きになるもんねっ!」

「こ、このズン胴ド田舎娘ぇぇっ!!」

「なによ、成金ワガママ高飛車女ぁっ!!」

「ちょっ、待っ!! 二人とも、次の試合が……きゃーーーーーーっ!!」

──こうして、それぞれタイトルマッチの大一番を控えたはずの二人による、壮絶な場外乱闘戦が幕を開けた。

舌戦や試合の前後ならともかく、不意の乱闘騒ぎはこの二人にも久方ぶりの展開。
喜んだ観客がこれでもかと煽ったこともあり、その後の試合進行が二十分遅れてしまうほどの大熱戦となってしまった。

「ゆ……祐希子さ……ん。 私、セコンド……だから……試合……」

この乱闘の影響か、市ヶ谷は続く WWPA王座戦にて王者・森嶋亜里沙相手に惜敗。
一方で祐希子は、フレイア鏡相手に危なげなく NA王座戦防衛二十度目となる勝利を上げた。 *5b

ただし、その試合のセコンドを希望していた菊池理宇は、乱闘の直撃を受けて失神。
獲得したばかりのベルトを傍らに、医務室のベッドで祐希子の試合終了までうなされる憂き目を見てしまったのである。




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■ 注釈(?) ■
*1a10月、めぐみのプライベートイベントが発生してます。
*2aめぐみだけというわけでもなく、ゲーム中では一部選手にタメ口使われまくりの団体社長。それだけフレンドリーということで。
*3a9年目2Qにてスレイヤー無差別級王座に就いためぐみ。当然、スレイヤーは団体挙げて奪還を目論んで刺客を送り、その第一陣は森嶋…という妄想設定。
なお、この10月にはめぐみのCM営業を断わってます。
*4aWRERAにてクラリッジ成瀬を獲得…したのは翌11月。なんとなく(出番の関係上)一ヶ月早く登場してもらいました。
*5a10月のイベントは、スレイヤーにて中森2p学園祭、真田CD(「それなり」)、ソニックが二ヶ月参戦、栃木飲食店、真田プライベートイベントその2、など。
WRERAでは他にゆっこ完治、理沙子2p学園祭、堀CM、山形飲食店、など。
*6aここへ来てトップクラスに並んだ森嶋。否観戦やAUTOながら祐希子にも勝つほどに。
*7a格上相手にプレイヤーとしてかなり気合入れて臨んだ一戦。途中まで圧倒されるも何とか逆転。最後に来た必カード使わずに丸め込みで勝利しました。
*1b2年目4Qの登場以来、他団体選手の中では登場数の多い菊池。
ゆっこはもちろん、カラスも憧れ (「V1」でもそんなセリフあり) という設定です。
「奪りましたぁっ」セリフは小説版レッスルのイメージで。
*2b21分37秒、零戦ミサイルで菊池が勝利。
市ヶ谷や来島をぶつけることも考えましたが、評価値差からも見ても勝ち確定の勝負してどーする、ということで NPCの菊池を抜擢しました。
*3b3年目1Qにて。
*4b7年目3Qにて。
*5b結局、この月の自団体タイトルマッチは以下でした。(順不同)
めぐみのスレイヤー無差別級初防衛(vs森嶋)、桜井&市ヶ谷の NAタッグ七度目の防衛(vsゆっこ&来島)、小鳩の TWWAジュニア九度目の防衛(vsソニック。WWCAジュニアと間違えた…)、桜崎&真田の GWAタッグ十度目の防衛(vs龍子&石川。引き分け)、森嶋の WWPA十四度目の防衛(vs市ヶ谷)。
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