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8年目3rdQ (10〜12月) Part2 〜 プランBの効能 〜

《目次っぽいもの》
EXタッグリーグプランBの効能[SL]プロレス大賞注釈?



団体の垣根を越えた年末恒例の最強タッグ決定戦、EXタッグリーグ。

とはいえ近年は『最強タッグ=NA世界タッグ王者』という認識がファンの間でも定着しつつあるため、主催者である新女こと新日本女子も、EXタッグリーグという大会の盛り上げ方には苦労するようになっていた。

そんな中、新女は一つの大きな賭けに出る──。 *1a

フレイア 森嶋

「…少ないわね…」

「少ないですわね」

森嶋亜里沙の呟きにほとんどオウム返しで答えたのは、彼女とともにスレイヤー・レスリングから EXタッグに参戦したフレイア鏡だった。

EXタッグリーグ初日、新日本ドーム。
50,000人収容の会場での EXタッグ開催は大会史上初。
しかも、七日間にわたる集中興行となれば、新日本ドームでの興行を何度も成功させているスレイヤーでも例が無い。
そこには、老舗である新女の意地と自信とが見え隠れしていた。

「……ところが蓋を開けてみれば、というところかしらね。
観客の入りがこうまで少ないとは、新女さんも予想外でしょう。
空席が目立つ、どころか、間違いなく空席の方が多く見受けられますものね」

「…世界中を騒がせている、大不況のせいかしら…?」

米国に端を発した先ごろの世界的大不況は、ここまで順風満帆で来ていた女子プロレス界にも暗い影を落としている。 *2a
しかし、鏡ははっきりと首を横に振った。

「影響はあるでしょうけど、最大の原因はおそらく二つ。
先月のパンサー理沙子さんの引退と、そしてなにより新女さんの営業努力不足ですわね。
看板選手を失って慎重になるべきところを、団体と大会のブランドイメージを過信してのドーム集中興行……ウフフッ、これを愚かと言わずして何と言いましょう?
もしこれで新女が潰れるようなことになっても、同情するどころか笑ってさしあげますわ」 *3a

──これは後日の話になるが、フレイア鏡はこの時の軽口を大いに後悔することとなる。

偶然にも鏡のセリフを耳にしていた新女のスタッフが、後に新女を襲う激震の元凶が鏡であるかのように週刊誌の取材で語り──もちろん全くの逆恨みなのだが──、鏡とスレイヤー・レスリングに対する一大バッシング、いわばスキャンダルを引き起こすことになるのであった。 *4a

ともあれ、今はまだその時ではない。
ドームを埋めるには至らなかったものの、年に一度の大イベントであることには変わりない EXタッグリーグは、今年もファンに熱い戦いの数々を提供したのである。

EXタッグリーグ参加チーム
斉藤彰子&ミミ吉原新日本女子
ソニックキャット&菊池理宇新日本女子
八島静香&野村つばさ新日本女子
南利美&寿零ワールド女子
近藤真琴&氷室紫月日本海女子
ロゼ・ヒューイット&ジャネット・クレア海外
森嶋亜里沙&フレイア鏡スレイヤー
テディキャット堀&越後しのぶWRERA

11月のパンサー理沙子引退もあって新女メンバーは小粒感が否めず、日本海女子の二人も強豪たちの中では見劣りがする。
実質的に勝負はそれ以外の四チームの争いとなった。
EX

結局は今年もスレイヤーと WRERAのタッグによる全勝対決に優勝の行方が委ねられることとなり、

「何度戦っても同じ結果ですわ」

「…私より強い人がいなかっただけ…」

個々の力では WRERAの二人を大きく凌ぐスレイヤーのチームが、栄えある表彰の舞台に上がったのである。




上原

「沖縄に戻って、小さなプロレス団体を作ってみたいんです。
理沙子のやつも引退しちゃって、いい頃合いですしね。
……社長、井上さん。 今度こそ、お別れです……」 *1b

時計の針を少し戻して、12月初旬。
ブレード上原は、コーチ契約の満了とともにスレイヤー・レスリングを去った。

「行ってしまいましたね、社長……。
上原さんのフロント入り、説得できずに申し訳ありませんでした」

「今回は仕方なかろう、井上くん。 彼女の意志が固かったよ。
だが、落ち込んでいる暇はない。 早速、“プランB”を実行に移すぞ」

「承知いたしました。 ですが……」

「なにかね。 問題でも?」

「いえ。 ただ少し考えただけですわ。
もしプランBのことを話していれば、上原さんは思いとどまったかもしれない、と」

自分と社長にしかわからない謎めいた言葉を社長に告げると、秘書の井上は薄く笑った。
それは社長にとって、この世の何よりも頼りになる、しかしどうしても好きにはなれない微笑みだった。

「自分が去ることで、愛した後輩たちがこれからどうなるかを知れば……ね」

そして、12月。 *2b
EXタッグリーグやバカンスなど全ての行事が終わり、年明け興行までの短い冬休みに入る直前のこと。

選手たち一同を集めて「重大発表」を行なった社長と秘書の井上は、上原の愛した後輩たちの息が意外なほどぴったり合っていることを、その場で知ることになった。

「「「「どういうことですかよなのスかだですのコラ!?」」」」

「……見事なハモり具合ね。 選手全員、仲の良いことで頼もしいわ」

にこりと優しい笑顔を見せる井上に、しかし選手の誰一人として笑みを返しはしなかった。

憮然。 あるいは理解不能。 あるいは呆然。 あるいは憤怒。 あるいは表面上無関心、とその表情は様々だが、十五人の選手全員が井上の「告知」に納得してはいないのだ。 桜崎

「……ご主人様、奥様。
どういうことか、ちゃんとご説明いただけますか?」

皆を代表するかのように、一歩前に出たのはメイデン桜崎だった。
高校では生徒会長をしていただけあって、こういう場面では龍子や石川らよりも高いリーダーシップを発揮する。

「もう一度説明するわね。 私たちの団体は、非常に厳しい状況にあるの。
世界的な大不況・大恐慌は、この業界にも大きな影響を与えて──」

「うちの団体のお客さまは減っていませんわ!
先月だって全会場超満員だったじゃありませんか!」

気丈にも反論を割り込ませた桜崎だったが、その彼女も次の井上の一言には押し黙ることになってしまう。

「そうね。 でも、新女さんも先月まではそうだったはずよ?」

スポーツ紙の一面を衝撃的な文句が踊ったのは、つい先日のことだ。

「新女、事実上の倒産か」──。

参加した鏡や森嶋が感じていたように、今年の EXタッグリーグは興行としては大失敗。
NJWPジュニアベルトの創設やドーム会場の長期貸切などで借入金が膨れ上がっていたところに受けた大赤字は、健康そのものだったはずの新女に「残り三ヶ月」という余命を宣告する死神となったのである。 *3b

「あれを対岸の火事と笑ってはいられません。
何より大きいのは、今まさにこの団体を襲っているスキャンダル騒動よ。
鏡さんへの中傷は事実無根のでっちあげだけど、それで事が済まないのは上原さんの時に経験済み。 来月以降、私たちが苦しい運営を強いられることになるのは間違いないわね」

「……だから、リストラする。 そういうことかい?」

ここへ来て、ようやくサンダー龍子が口を開いた。
声音は静かだったが、眼光は鋭く、並の人間なら卒倒しかねないだろう。

その視線を微笑みのままで受け止めて、井上は龍子に、リストラではないわ、と語った。

「これも先ほど説明したけれど、今あなたたちをどうするという話ではないの。
ただ、設備投資の面でもコーチ不足の点でも、これ以上は選手の数を増やせない。
だけど新人を入れなければ、それこそ団体の未来が無いわ。
だから、査定の結果、新人と入れ替わりに雇用や専属の契約を解除し、フリーになってもらう人が出るかもしれない……それをリストラと言うなら、そうかもしれないけれどね?」 *4b

そこまで話して、井上は居並ぶ選手たちの顔を見渡した。

どの顔も納得はしていないが、それは計算の内だ。
そして、ここまで説明すれば表立っての反論が出ないことも、彼女の計算の内だった。

「──とは言え、今すぐの話ではないのよ。
来月の契約更改では、全員との契約をきちんと延長するつもりです。
だから、余計な心配はせず、安心してお正月を迎えてちょうだいね。
……それでは、皆さん。 良いお年を!」

無論、誰からも返事は無い。
それさえもまた、井上の計算の内だった。




この年のプロレス大賞受賞者は、以下の通り。

ベストバウト:ジュニアメロディ小鳩 VS ソニックキャット
ベストバウト:タッグ越後しのぶ、ビューティ市ヶ谷
 VS フレイア鏡、森嶋亜里沙
ベストバウト:シングル桜井千里 VS ビューティ市ヶ谷
最優秀新人杉浦美月
最優秀外国人スーパーカオス
最優秀選手マイティ祐希子

今年の新人賞は、日本海女子の杉浦美月が獲得。

日本海女子からは初のプロレス大賞受賞者となり、一時期は経営危機も伝えられた団体運営の好転を示唆する結果となった。

一方、「事実上の倒産」との噂も流れる新日本女子から唯一選出されたソニックキャットは、記者たちに囲まれるのを避けるかのように、表彰式直後に退席。

最優秀選手の連続受賞を果たした WRERAのマイティ祐希子も、縁が深い新女の置かれた状況が気になるのだろう。
人前ではめったに見せない難しい顔をしつつ、それでも立食パーティのカレーをほぼ一人で食べつくしたのだった。




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■ 注釈(?) ■
*1a賭けというより、無茶です。暴挙です。
*2aもちろん当リプレイはフィクションであり、実在の事件・社会現象などとは一切関係ありません。
*3aそう。気づいたら、新女の理沙子さんが年齢引退してました。
11月、ゆっこあたりに殴りこみに行かせればよかったと後悔。
*4aスレイヤーでは三年半ぶりとなるスキャンダル。前回の傷はすでに癒えているとはいえ、やはり痛いイベントです。
*1b12月、上原コーチが年齢引退。お疲れさまでした。作った団体を潰さないように気をつけてくださいねー > 上原さん
*2b12月のスレイヤーは、真帆FC、龍子CM、RIKKA写真集(「かなり」の売上)、真田写真集(「それなり」)、千春二十歳の誕生日、香川に飲食店設置、などもありました。バカンスではライラが登場。
WRERAでは、飲食店繁盛、小縞FC、理沙子2pCM、桜井CD(初受け。「かなり」のヒット)、小縞一日署長、千秋二十歳の誕生日、大分グッズショップ設置。バカンスではめぐみが登場してます。
*3bドーム興行×7で EX開催した結果、なんとマイナス10,561AP(!)の大赤字。
結果、新女の所持APはマイナス5000超となり、もはや三ヵ月後の倒産は確実な状況です。
COMはいったい何をやっているんだか…。
*4b実際、上原引退によりコーチ不足はさらに深刻化。かつ、スレイヤーはすでに選手上限人数(16名)まであと一人の大所帯なので、新人獲得を控えるか、選手を引退/解雇する必要があります。
WRERAはともかくスレイヤーでは当初から「解雇あり」の方針ではあったのですが…困ったことに、どの選手にも情が移りまくってるので、どうなることやら。
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