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8年目3rdQ (10〜12月) Part1 〜 不動天辺月 〜

《目次っぽいもの》
不動天辺月[WR]悪夢と二人の不思議系[SL]WRERAの娘は目で殺す[WR]注釈?



《なっ……》

10月の WRERA興行、前楽の第五戦メインイベント。 *1a

その試合の決着がついたまさにその時、あろうことか仕事を忘れて絶句してしまったアナウンサーに文句をつける観客は、誰一人としていなかった。

彼ら全員もまた、一様に声を失ってしまっていたからである。
或る者は、目の前で起こった事の意味を理解できなかったために。
そして或る者は、その意味を理解できてしまったために。

桜井

「試合は終わり……ですね。 ありがとうございました」

会場を包む異様な雰囲気にさすがに戸惑ったのか、桜井千里──この試合の勝者は、試合の終了を念押しするかのような呟きを残して、ピンフォールを奪ったばかりの相手から身を離した。

呆然とした表情でリングに横たわるのは、スレイヤー・レスリングから参戦したフレイア鏡。 彼女が、この試合の敗者だった。

そしてもう一人、自軍コーナーのエプロンで精根尽き果てたように片膝をついたマスクウーマン、スーパーカオスもまた、この試合の敗者だった。

《お、王者組が……防衛に成功。
しかしこれは、なんということか……王者組は、一度もタッチをしていないのです。
WWCA世界王者と GWA世界王者の二人を、桜井千里は、たった一人で……》

一人で二人を倒すというのは、プロレスにおいて別に珍しい話ではない。

だが、それが実力世界最強の二人を決めるタイトルマッチであればどうか。
いかに急造タッグとはいえ、シングル世界王座を持つ二人が相手であればどうか。 NA-T

舞台は、NA世界タッグ選手権試合。
フレイア鏡&スーパーカオスを迎え撃つ王者組は、ビューティ市ヶ谷と、桜井千里。

王者組の先鋒として出陣した千里は、世界トップクラスの二人を向こうに回しながらただ一人で試合をコントロールし、20分52秒、コンビネーションキックで勝利を飾ったのだった。 *2a

「……ゴング直前、『行けるところまで行かせてもらいます』とおっしゃった時には、確かに私もOKを出しましたが……」

この日、タッグマッチならではの合体技とカット妨害で参加した以外は赤コーナー脇に張り付くだけだったビューティ市ヶ谷は、さすがに憮然とした表情でパートナーの千里を迎えた。

「まったく、前代未聞なことをなさってくれたものですわね。
お客さんがすっかり黙ってしまったではありませんの」

「……まずいことを、してしまったでしょうか?」

「──この私の出番が無かったことで、全国600億人のファンから山のようなクレームが届くことは必至ですわね。 覚悟しておきなさいな。
ただ、今のところは、よくやったと褒めてさしあげましょう。
最も神に近い私でさえ、あの二人を一人で倒すとなれば 15分はかかる話。
私には及ばずとも近いことをやってのけたのですから、まあまあ大したものですわ」

「ありがとうございます」

嫌味なのか褒めているのか単なる自己主張なのかよくわからない市ヶ谷のセリフに、千里は素直に頭を下げた。

それで少しは満足したのか、帰りますわよ、と一言かけて背を向けた市ヶ谷を追って、千里はロープをくぐるとリングを降りて──不意にそこで振り返り、設置された大型ビジョンを見上げた。

ようやく観客席は声を取り戻し始めている。
その中で大型ビジョンは次の興行、10月最終戦のカードを淡々と映し出していた。

「……これでもまだ、あの人には手が届くかどうか……」
NA

千里が呟いたその先。
最終戦メインイベントの紹介では、挑戦者の森嶋亜里沙とともに、NA世界無差別級王者であるマイティ祐希子の姿が、大きく映し出されていた。 *3a




「不吉な影が見えるのですよ!」

「……あぁ?」

魔法だの何だの妄想癖が激しい可哀想な(と彼女は思っている)後輩の突然の呼びかけ。
ライラ神威は始めたばかりのストレッチを中断して、その後輩──ウィッチ美沙に目をやった。

ライラ 美沙

「ひぃ! み、美沙を脅しても無意味なのです、先輩!
不吉の影は、美沙のせいではないのです!」

「いや……脅してねえって。 普通に見てるだけだろーが。
それより何なんだぁ? その不吉がどうのってのはよ」

「……先輩は今日、寮からジムに来る道で黒猫に前を横切られたはずなのです」

「あー。 そういや、そうだな」

「他にも何か、ちょっといつもと違うことがあったはずなのです」

「別にねーよ。 強いて言やあ、朝飯食ってて茶碗が欠けるは、箸が折れるは、スニーカー履いたら靴紐が切れるは、でイライラしたがよ。 どれもどーってこたぁねえだろ?」

「ライラ先輩……先輩は、意外にニブチンさんなのです。
それは全部、不吉な影、災厄の予兆、虫の知らせで凶兆なのです!
美沙の魔法によると、特に明日の試合が危ないと出ているのですよ!」

「はぁ? 明日の試合だぁっ?」

明日は、スレイヤー・レスリングの11月シリーズ最終戦だ。 *1b

三つものタイトルマッチが組まれ、その初戦ではライラも王者として登場する。

JSW ASIA SLAYER

ライラ神威 VS 寿零の JSWヘビー級王座戦、
真田美幸 VS メロディ小鳩のアジアヘビー級王座戦、
そして、サンダー龍子 VS 森嶋亜里沙のスレイヤー無差別級王座戦。

団体所属の選手間で行なわれるアジアヘビーとスレイヤーの王座戦は、どちらも勝敗が読めない試合とされていたが、ライラがワールド女子の寿の挑戦を受ける JSW王座戦は、唯一「安牌」と見なされていた。

即ち、どう転んでもライラの負けはない、と。

「そりゃ、つまりあれか? 明日の試合、私が勝ってもケガするとかそういうことか?」

「ケガはしないかもしれませんが、このままだと間違いなく負けるのです」

「……ほぉ?」

「大丈夫です。 今日一日静かに過ごせば何とかなると魔法は言っているのです!
練習も早めに切り上げて、天使のような気持ちで穏やかに明日を待つと良いのです!」

「そうかいそうかい。 じゃあ、誰かをゲンコツで殴ったりなんてのは……」

「当然、絶対にやっちゃいけないご法度なのです! ──ふぎゃっ!!」

美沙の頭上と目の中で、火花と星が飛び散った。

「あうあう〜! 痛いのです、痛いなのです!」

と頭を押さえてジムを飛び出した美沙を横目に、ライラは殴った手を軽く振って舌打ちを一つ、チッ、と洩らした。

「意外に石頭だな、ったく。 ……どう間違えれば、あんな三下に負けるってんだ?
食いもんと植木鉢と車に気をつけときゃ、試合は問題ねぇだろ」

「……いひ♪ あんまりあの人をナメない方がいいと思うの」

「!? 小鳩っ……先輩かよ」

ケッ、またおかしな奴が出てきやがった、と心の中で悪態をつきつつも、突如出てきたメロディ小鳩のセリフが気になったライラは、その意味を問いただすことにした。
小鳩 ライラ

「ナメない方がいいだってぇ?
あんた、あいつ……寿零のこと知ってんのか?」

「ちょっとだけね。 昔、縁があって一緒に住んでたの♪」 *2b

「……そいつぁまた、ちょっとした縁だな、おい」

「だから、小鳩からもライラちゃんにご忠告よ。
零ちゃんをナメると、けっこうヒドい目にあうと思うわ。 気をつけてね♪」

「ヒドい目、ねぇ……」

ライラも、相手の力量を知らずに自分が勝つと信じているわけではない。

試合のビデオは何度も見て、寿零の実力は十分に把握したつもりだ。
その上で、自分の敗北はまずありえないと確信しているのだった。

寿が、今やワールド女子ではトップの南利美と並び称されており、その冷徹なファイトスタイルから“殺戮兵器”と呼ばれていることを知っていても、なお。

「──ま、相手が殺戮兵器だってんなら、こっちも遠慮なくぶっ壊せるな。
あんな能面女の血の色も赤いのかどうか、しっかり確かめてやるとするぜ!」

そして、翌日。
寿

「やった……よ」

29分41秒、JSW王座は寿零の手に渡った。

ビデオより何倍も鋭い寿の掌底を何度ももらった上、勝ちが見えた終盤には流血のこだわりから単調な攻めを繰り返したことが、ライラの仇となってしまったのである。 *3b

「だから言ったのですよ、ライラ先輩!
美沙の魔法は絶対なのです! それを信じていれば今ごろは──ふんぎゃあっ!」

寿からは流血を奪えなかったものの、空気を読まずに文句をつけてきた美沙からは、裏拳一発で鼻血を吹き出させることに成功したライラであった。




昨夜に初雪を迎えたばかりの 11月初旬、札幌。 *1c

練習中に「社長からタイトルマッチの話があるそうよ」と秘書の霧子に呼び出された WRERAのボンバー来島は、いささかうんざりした表情でジムの二階にある事務所のドアを開けた。

「社長、何度言われても WWCAのベルトには挑戦しねぇって──」

来島の言葉は、そこで打ち切られた。
こちらを向いた社長の机──スレイヤーや新女と違って社長室という豪勢なものは存在しない──の手前に立つ、武藤めぐみの姿が目に入ったがゆえに。

「……どうやら今回は、WWCA王座の話じゃないらしいや」

ひとり言めいた呟きとともに歩み寄ってきた来島を、社長は肯定の頷きで出迎えた。

「三年前の件で WWCAにいい印象を持ってないお前でも、NJWPヘビーならと思ってな。
丸腰のままで一年。 お前の戴冠を期待するファンに、そろそろ応えてやったらどうだ?」 *2c

「まあ、そりゃあそうなんだけどよ……」

隣に立っためぐみの方にチラリと目をやる。
部屋に入った時に一度こちらを見た後はずっと正面を向いたままの後輩が目まで閉じていることに気づいて、来島は少々やりにくそうに言葉を続けた。

「これはこれで、WWCAとは違った意味でやりづらいぜ?
後輩のベルトを取り上げるみたいで、大人気ないっつーかよ」

ため息が混じったその言葉に、社長よりも早くめぐみが反応した。
来島 めぐみ

「その心配なら、要りません。
私は来島さんに負けませんから」

「ん? まあ、な。
勝負はやってみないとわからねえけどな」

「わからない、ですか。
そんなこと言っている人に、なおさら負ける気はしないですね」

「……いい根性してやがんな、めぐみ。 そういうの、嫌いじゃねえよ。
だがな、そういうセリフはそっぽ向いて言うもんじゃねえだろ?
俺の目を見て言ってみたらどうなんだっ?」

「それは失礼しましたっ」

急速に剣呑さを増したやり取りにオロオロする社長の前で、二人は真正面から向き合って睨み合った。

まさに一触即発──火花を散らしたのも、わずか数秒。
来島がフッと表情を緩めると、怪訝そうに目を瞬かせためぐみに苦笑いを見せて、引退した六角葉月を思わせるような動きでポリポリと後ろ頭を掻いた。

「ったくよ。 千里といいお前といい……。
うちの後輩はどうしてまあ、こんな目をする奴ばっかなんだ?」

「……千里さんと私? 変な目……してますか?」

「変じゃねぇって。 真っ直ぐな目だってんだよ。
その目で、口からは歯に衣も着せずに暴言吐きやがるから、お前ら二人とも始末に負えねえ」 *3c

「……すみません」

「気にすんな。 ただよ、千里の奴はその口に見合うだけ強くなりやがった。
それに比べりゃ、お前はまだまだ力不足だ。 今のままなら、ただの口だけ野郎だぜ?」

「そうじゃないって、証明してみせますよ。 今度の試合で」

「へえ、そいつは頼もしいな。 だが、お前はまだまだ俺には及ばねぇ。
俺の方こそそれを証明してやるさ!」

NJWP

── NJWP王座戦、武藤めぐみ VS ボンバー来島。

一進一退の白熱した攻防は、来島のナパームラリアットからの STOに耐えきっためぐみが、フライングニールキックの一閃で勝負を決めた。

先輩の来島を相手に、武藤めぐみは自身四度目となる防衛を果たしたのである。

「あー、くそ! 負けた負けたっ!
悔しいけど、俺の負けだよ。 強くなりやがったな、めぐみ!」

「あ、ありがとうございます、来島さん。
私もこれで、口だけじゃないってことが証明できましたし……」

「へ? いや、それはまだだろ」

「……えっ?」

「俺にたった一回勝っただけで、証明になるかっての。
そうだな、あと千里や市ヶ谷や祐希子からも白星あげて、俺にも何回か勝つこった。
それくらいやって、初めて合格点ってとこだぜ」

「あのっ。 それはさすがに気が遠いんですけど?」

「何言ってんだ。 お前の辛辣コメントは、千里と並ぶチャンピオン級なんだからな。
千里の奴はその口に見合うだけ強くなりやがったが、お前はまだ……」

「ああもう! わかりましたっ! わかればいいんですよね!
今はまだちょっと無理ですけど、そのうちみんな薙ぎ倒してみせますから!
来島さんも覚悟しておいてください!」




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■ 注釈(?) ■
*1a10月のWRERAは、千秋軽傷、ゆっこFC、理沙子2pFC、堀学園祭、小縞CM、桜井写真集(今回のプレイではお初。「すごい」売れ行き)、千葉グッズショップ設置、などが発生。
本文では完璧にスルーしてますが、富沢&越後が遠征防衛戦で獲ったばかりのEWAタッグをあっさりロストしてます。
タイトルマッチでは、ワールド女子に殴りこんだ堀が GWAジュニア七度目の防衛(vs辻)、
AACジュニア二十四度目の防衛(vs金井)
と、ジュニアの後輩をイジメ…もとい格の違いを見せ付けてます。
*2aカオス&フレイア相手に桜井が一人で完勝。フレイアの必カードを必カードで潰したのが勝負の分かれ目でした。
ゆっこや市ヶ谷様や龍の姐御操作でもこうはいかず、もう一回同じことをやれと言われても難しいでしょう。
*3aこの試合は17分59秒、ゆっこが十六度目の防衛に成功。
スレイヤーのNo.2に成長した森嶋ですが、さすがにゆっこ相手は荷が重かったようです。
*1b11月のスレイヤーでは、香川にグッズショップ設立、真帆参戦、など。最終日以外のタイトルマッチは、
小鳩のTWWAジュニア五度目の防衛(vsディアナ)、
石川&RIKKAのWWPAジュニア三度目の防衛(vs森嶋永沢)。
10月のイベントは RIKKA学園祭、福井に飲食店設置、など。
タイトルマッチは、小鳩のWWCAジュニア十二度目の防衛(vsトーニャ)、
桜崎&真田のGWAタッグ七度目の防衛(vsRIKKA石川、時間切れ)、
フレイア&千春のNJWPタッグ初防衛(vs来島&千秋)、
森嶋のWWPA十度目の防衛(vs来島)。
来島さんは、またも体力残ってるのに関節技でギブアップ取られてます。森嶋はもはや天敵?
*2b「愛」未プレイのため「一緒に住んでる(住んでた)」設定は聞きかじりで採用してます。
*3b評価値はライラがけっこう上。プレイヤー視点でもライラの負けは無いと踏んでいたのですが、ライラに前回同様流血縛りで試合させたこともあって気づけば追い詰められ、最後は地獄落とし(通常技)を狙ったもののミドルキックで潰されて一巻の終わりでした。
ライラ「てめぇの操作がタコだから負けちまったんだろーが!」 うわなにをするやめr
*1c11月のWRERAは、千秋完治、AACジュニア遠征防衛、堀FC、千秋写真集(「それなり」の売上)、千葉に飲食店設置、などが発生。
タイトルマッチでは富沢がTTT王座初(?)防衛(vsコーディ2p)してます。
*2c5年目1Qの遠征防衛戦で WWCAタッグベルトを失っている来島さん。同時期に親友・ゆっこも WWCA王座を遠征防衛戦で失っており、WWCAのフロントにはすっかり不信感抱いてる…という妄想設定です。
まあ、丸腰なのは 7年目3Qで龍子相手のTWWA防衛に失敗して以来、NAやWWPAのタイトルマッチに負け続けているだけなんですけど。
*3c千里の真っ直ぐな目with来島さんへの暴言については、4年目1Qをご覧ください。
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