全六戦それぞれにタイトルマッチが組まれた 1月のスレイヤー巡業も、ついに最終戦。
メインイベントは、“タッグ実力世界一決定戦”。
スレイヤーのベストタッグ、サンダー龍子&石川涼美組に、EXタッグリーグを圧勝で制した WRERAの桜井千里&ビューティ市ヶ谷組が挑む、NA世界タッグ選手権だった。 *1a
「さあ行きますわよ、千里さん!
──と言っても、気負ったりする必要もありませんわね。
しょせん相手は、第四戦の NA王座戦であの忌々しい祐希子如きに完敗を喫したサンダー龍子と、ほんのちょっと私より胸が大きいだけの、その腰巾着!
私たちの勝利はもはや疑うべくもありませんわ! オーッホッホッホ!」 *2a
「すみません、市ヶ谷さん。
そんな龍子さんを相手に、第五戦のスレイヤー王座戦でタップアウトしたばかりなのは、この私なのですが……」 *3a
「…………。 本当に、ノリが悪いお人ですわね、あなた……」
初手は、石川対千里。 続いて、龍子対千里。
そこまでは、どちらかと言えば玄人好みの静かな序盤戦だったのだが……。
「私にひざまずいて、今までの無礼を償いなさい!」
地味だの静かだのという表現とは無縁のお嬢様が、試合を大きく動かした。
交代直後に必殺のビューティボムを龍子めがけてお見舞いし、そこから畳み掛けるように技を重ねていく市ヶ谷。
思わぬ一方的展開に、さいたまドームを埋め尽くす観客からは溜め息のような歓声が漏れる。
「シングルでないのが残念ですけど、今日こそあなたを葬り去ってあげますわ、龍子!」
「そうはいくか! このサンダー龍子を侮って、無事に済んだ奴はいないんだよ!」
雷神の鉄槌、プラズマサンダーボムが市ヶ谷相手に炸裂。
すかさずタッチの石川は、上手く相手のパワーを殺す頭脳的展開で時間を使いつつ市ヶ谷を空回りさせ、不意をついてのど輪落としまでも決めてしまう。
「お姉さんのペースですね〜!」
「そうですね。 しかし、それもここまでです!」
市ヶ谷のタッチを受けて登場した千里が、場外戦となった展開の中で、ハイキックを一閃。
さらに、容赦ない鉄柱攻撃と、ポストの代わりに実況席を使っての変形不知火が、石川をダウン寸前まで追い込んだ。
「さすがだよ、桜井! だけど、少々やり過ぎたね!」
石川の時間を使う戦い方も、場外戦にもちこんでさらに時間を使ったのも、全ては龍子に体力を回復させる計算だったのだろう。
龍子は桜井との長時間の一騎打ちを持ち前のパワーで制し、代わった市ヶ谷をも張り手、ナックル、DDTという連続攻撃で寄せ付けない。
王者は不沈。
その思いを観客たちが強くした、まさにその時。
「最後に勝つのは、私です!」
さすがに息が続かずに顎が上がった龍子、その顎を再び代わった千里の掌底が捉えた。
無敵の龍の意識が弾け飛び、マットに膝が崩れ落ちる。
「龍子〜っ!」
何とか龍子とのタッチに成功した石川は、残り時間を計算していた。
時間切れまであと数分。 龍子は嫌がるだろうが、ドローでも立派な防衛だ。
それを強く意識し、攻めよりは守りの戦いに徹して千里の攻撃を凌ぐ石川。
「待ちの戦法ですか? それは……後悔させてあげます!」
結果的には、石川の選択が仇となってしまったのかもしれない。
手数の減った石川をグラウンドに引き込んだ、千里のロメロスペシャル。
龍子のカットも市ヶ谷に押さえられ、石川は涙ながらにギブアップを告げるしかなかったのだった。
「オーッホッホッホ! この結果は最初っからわかっておりましたけど、それでもほんのちょっぴりは嬉しがってさしあげましてよ!」
「タッグ王座……少々、複雑です」
58分33秒、NA世界タッグ王者、交代。
スレイヤー・レスリングにとってはあまりに痛い、ベルトの流出劇となってしまった。 *4a
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