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7年目4thQ (1〜3月) Part2 〜 継承 〜

《目次っぽいもの》
継承:NJWP王座戦:めぐみvs葉月マイクパフォーマンス決心と未練[WR] − 注釈?



「さってと。 それじゃ、そろそろ行くとしますかね」

本拠地・札幌のどさんこドームを超満員にした、WRERA 1月シリーズ最終戦。
栄えあるメインイベントには、この 11月に戴冠を果たしたばかりの武藤めぐみが団体の重鎮・六角葉月を迎え撃つ NJWP王座選手権が組まれ、“世代闘争戦”と銘打たれた。

NJWP

「世代闘争ねぇ。 こういう時はあれかな、めぐみ?
まだまだ若い者には負けんとか、年寄りの顔は立てるもんじゃとか、その手のこと言っとけばいいのかな?」

「……随分と余裕ですね、葉月さん。
あいにくと私は、葉月さん相手に余裕なんか持てませんから。
何と言われようと全力で戦うだけです!」 *1a

二人の年齢差はちょうど一回り。
プロレスラーとして積み重ねてきた経験の重みには、それ以上の開きがある。

その重みを跳ね除ける力も若さの特権だが、葉月がここまで歩んできた激闘の道のりは、その特権を以ってしても容易に覆せる代物ではなかった。

「──ほらほら、どした? 結局あんたは、まだまだヒヨッコなのかい!?」

試合開始しばらくは、様子見からスローな立ち上がり──いつもの葉月の戦いぶりを知っているからこそ、ゴング直後にダッシュをかけてきた葉月の急襲に、めぐみは防戦一方に追い込まれた。 *2a

「コーディ戦もそうだったっけ?
ペース握られると、あんたは簡単に押し込まれちまう。
そんなんで、これから世界のバケモンたちと戦っていけると思ってんなら──甘すぎさ!」

その言葉を刻み込もうとするかのように、リバース・フルネルソンから一気にダブルアームスープレックスで投げ捨てて、すかさずグラウンドでチキンウィングアームロックを仕掛ける葉月。

めぐみも何とか逃れてアームホイップを仕掛けるが、投げた直後に掴まれて、再びのアームロックから、今度は足関節の片逆エビ。
そのまま、関節のアリ地獄に引きずり込まれれば、もはやめぐみに勝機は無いと思われた。

「このままギブアップするかい? 私ゃそれでもかまわないけどね?」

「冗談……でしょ!? 私は、まだ戦える!」

何とかロープを掴んでブレイクを取っためぐみは、転がるように葉月との距離を作ってから立ち上がった。

「世界のバケモノだろうと、先輩だろうと……」

関節技を嫌い、間合いを取って仕切りなおすための行動──そう思った葉月に生じた、一瞬の隙。 まさか、めぐみの方から飛び込んでこようとは!
めぐみ

「誰にも私の邪魔はさせないわ!」

短い、しかし鋭い助走からのフライングニールキックが、防ぐ間も無く葉月の顔面に叩きつけられ、その額を割った。
よろめく身体に紅いものが飛び散り──しかし、葉月はニヤリと笑った。

「それで勝ったなんて、思わないでおくれよ!?」

今度は、大技を決めためぐみの方に、一瞬の隙が生じた。
起き上がりざまにバックを取られ、喉に手を回されてロックされる。

極めて単純な、そしてだからこそ相手を迷宮の奥深くへと誘いこむ、葉月必殺の極め技にして決め技・ラビリンススリーパーが、めぐみの細い首を容赦なく締め上げ──

「……私は、勝つ! 絶対にっ!!」

必殺のはずのラビリンススリーパーをわずか一呼吸で弾き飛ばして、めぐみは、今度こそ驚愕に声を失った葉月へと襲い掛かった。

ニーリフト、フェイスクラッシャー、そして二発目となるフライングニールキック。
タイトルを奪ったジュディ・コーディ戦を彷彿とさせる連続技に、それでも葉月は膝を屈することなく耐え切ったが、

「どんな相手だって、最後は私が勝ってみせる!」

最も鋭く、最も高く飛んだ、三発目のフライングニールキック。

それが、この日に六角葉月が受けた、最後の技となった。




── 17分12秒。 NJWP王座戦は、武藤めぐみが初防衛に成功。

その試合直後、まだ荒い息を吐いて片膝を付くめぐみに、敗れた六角葉月が、およそ敗者とは思えないノンキな口調で声をかけた。
六角

「めぐみ、負けといてアレだけどさ。
──マイク、もらっていいかな?」

「……? いいですけど……」

訝しみつつも、めぐみは葉月の申し出を心の中で喜んでいた。

そもそも、勝った後のマイクパフォーマンスというものが、めぐみはあまり好きではない。

クールだとか天才だとかの周囲のイメージが強くなりすぎたためにあまり弾けたことも言えず、だからといってイメージ通りの強気でクールな発言をすれば、そのイメージが強まるだけでなく生意気だという評判までついてくる。

親友・千種の「めぐみのマイクって格好いいよね!」という手放しの賛辞が無ければとうにやめてるだろうな、と考えているほどなので、むしろ喜んで葉月にマイクを譲ったのだ。

──その決断を、すぐに後悔することになるとは、思わずに。

「えー、会場の皆さん。 負けといてすんませんけど、ちょっと話がありまして」

笑顔だが、妙にかしこまった葉月。
その様子に違和感を感じた会場は、息を呑んで続く言葉を待ち──

「実はもうすぐ……私ゃの誕生日なんすよ」

との告白に、会場中がずっこけた。

『なんだそれ!』、『お姉さま、おめでとー!』、『いや、あいつの誕生日は 4月だろ!』、『もうすぐじゃねーじゃん!』と、すかさず笑い混じりの野次が浴びせられる中で、葉月はいつもの微笑みを絶やさないまま咳払いを一つした。

「オホン。 プレゼントは何歳になっても大歓迎なんで、ひとつヨロシク。
4月最終日はこのドームで引退式やると思うんで、そん時にでもぜひ。 お待ちしてまーす」

そっか、次の札幌は 4月か。 ドームで引退式ねえ。……引退式? ……引退っ!?

──和やかな空気に包まれていた会場が、ようやくその言葉の意味に気付き、大きく揺れた。

六角葉月の、あまりにあっけらかんとした、引退宣言。

真意を問いただそうとドーム中の目がリング上に集まった時には既に、その焦点にいるはずの葉月は、いつの間にかその姿を消していたのだった。 *1b




めぐみ 六角

「葉月さん!」

「うぁっと、見つかっちゃったかい。 社長とかに捕まると面倒だから、今日はさっさと逃げようと思ったんだけどねぇ」

ざわついたままの会場の裏手、人の気配が無い通路。

息せき切って追いかけてきためぐみの声に、葉月は少し困った笑顔を浮かべて立ち止まった。

「私のせい……ですか?」

「へ?」

「ひょっとして、私が勝ったから……だから葉月さん、引退なんて……。それなら……」

「めぐみ……」

荒い息のままうつむく後輩のもとに優しく歩み寄ると、葉月はめぐみに向けてゆっくりと片腕を伸ばし──デコピンを一発、食らわせた。

「痛っ!」

「思い上がるんじゃないってね、めぐみ。 けっこー前から考えてたことだってば。
そろそろ、そういう時期かな……ってさ」

「そんな……葉月さんは今でも世界のトップクラスじゃないですか! 引退なんて、まだ……!」 *2b

「まだ早い、まだやれる、って? ははっ、そう言ってくれるのは嬉しいし、私ゃだってそう思わなくもないんだけどね」

葉月は後ろ頭を軽く掻きながら苦笑すると、「だけど」と言葉をつなげた。

「だけど、あんたにも言ったっしょ? 世界のバケモン──いや、今スレイヤーに行ってるウチの団体の奴らは、『まだやれる』ってだけで相手していけるほど、甘くはないんだわ。 あんたもそれはわかるだろ?」

「……葉月さん……」

「そんな奴らを育てたのがこの私ゃだってのは、密かに自慢の一つだったりもするんだけど……さすがにキツくなってきちゃってさ。 そろそろ楽させてもらおうかなってね」

──ここで葉月は片目をつぶり、今度は「それにね」と言葉をつなげた。

「それにね、『次』を任せられそうなあんたの成長も、今日この肌で確かめられた。 それで未練が無くなったってのも……ま、確かだけどね」

「葉月さん……」

「そんな顔しなさんな。 まだ三ヶ月は現役やるんだよ?
──それじゃ、私は行くから。 他のみんなには、後で話すからって言っといてくれい」

めぐみに背を向け、振り返ることなく葉月は通路を歩いた。
三叉路になっている最後の角を曲がり、出口の扉に手を伸ばそうとして──

「──本当に未練はないのか、ハヅキ?」

「……カオス」

肩越しに振り向いた葉月の目線の先、もう一本の通路を、ダークスターカオスがゆっくりと歩いてきた。 *3b

さすがに歩みを止めた葉月、その目の前まで足を進めると、カオスは右手に提げていたものを葉月の鼻先に突きつけた。

「……WWCAの、ベルトだね」

「そうだ。 次の防衛戦は、3月。 挑戦者には、お前──ハヅキ・ムスミを、指名する」

「おいおい。 せっかく戻ってきたベルトだろ? そんな簡単に賭けちまっていいのかい?」 *4b

「リュウコのお情けで返してもらったベルトに、価値など無い。
お前を倒して、その価値を手に入れさせてもらうさ」

「……ふうん。 どいつもこいつも、ありがたいお気遣いで。 涙が出てくるよ」

葉月は、肩をすくめて、出口の扉を開けた。




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■ 注釈(?) ■
*1aさすがの急成長を見せるめぐみですが、未だ全体ランキングでTOP10をキープし続ける六角にはまだまだ及びません
*2a初期手札が悪かったこともあって、低数値カード処理している間に散々ボコられました。
コーディVSめぐみ戦は、7年目3Qです。
*1b観客にもツッコませてますが、六角の誕生日は4月なので三ヶ月先。ちなみにめぐみも4月です。
*2b4月で年齢引退を迎えてしまう六角さんですが、資質A+長寿+18歳登場はさすがで、未だに全体ランキングTOP10内。引退させるのが惜しいお人です。
*3b「愛」未プレイではありますが、六角&カオスが馴染みという設定は聞きかじって取り入れてます。
このリプレイでは、4年目1Q4年目3Qあたりでもそれっぽい絡みが。
*4b7年目3Qで龍子に奪われたものの、彼女が宣言通りに返上してます。
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