「WRERAのトップレスラー三名が我が団体にご来襲、か。
これは好機か、それとも危機か。 どう思うね、井上くん?」
「興行的には間違いなく好機でしょうね、社長。
ただ、ベルトの保持という点では、好機にも危機にも転がる可能性があります。
あの三人は、今や全員がサンダー龍子と同等かそれ以上の選手たち。
試合の組み方に気をつけないと、向こうのベルトを奪うどころか、こちらが持つベルトを複数奪われることにもなりかねません」
「先方の希望は、スレイヤー王座と、NA世界タッグ王座への挑戦。 それと、NA世界王座の防衛戦だったな。 あとは向こうの持つ IWWF王座も賭けてもらうとして……」 *1b
「当初より予定しておりました、森嶋選手の WWPA王座戦と、ライラ選手と鏡選手の WWPAタッグ戦もあります。 後者は WRERAの三強相手はさすがに分が悪いですが、前者はどうなさいますか?」
「森嶋くんか……。 かつての勝負弱さは払拭されたと見るが。 さて……」 *2b
現在の WRERAトップスリー、マイティ祐希子、ビューティ市ヶ谷、桜井千里が殴りこんできた、スレイヤー・レスリングの 1月シリーズ。 *3b
社長と秘書・井上が熟考した結果、この月はシリーズ六戦の全てで、一試合ずつのタイトルマッチが組まれることになった。
スレイヤー 1月シリーズタイトルマッチ |
第一戦 | WWPAタッグ選手権 | ライラ&フレイア VS モーガン&ダダーン |
第二戦 | IWWF世界ヘビー級選手権 | 桜井千里 VS 森嶋亜里沙 |
第三戦 | WWPAヘビー級選手権 | 森嶋亜里沙 VS ビューティ市ヶ谷 |
第四戦 | NA世界無差別級選手権 | マイティ祐希子 VS サンダー龍子 |
第五戦 | スレイヤー無差別級選手権 | サンダー龍子 VS 桜井千里 |
第六戦 | NA世界タッグ選手権 | 龍子&石川 VS 市ヶ谷&桜井 |
第一戦の WWPAタッグ王座戦は、王者組が終始優位に試合を運び、最後は 20分44秒、ダブルインパクト二発でフレイア鏡がクリス・モーガンをフォール。
「チッ……血の一滴も流れやがらねぇ。 地味な試合だったぜ」
と、ライラが過激なコメントを残したことはさておき、王者組が三度目の防衛を飾った。
そして、続く第二戦。
「チャンピオン・カーニバルは……互いに残念でしたね」
「…昔のことは、もう関係ないわ。 今はただ、貴方を倒すことに、全力を注がせてもらうだけ…」
どちらも団体屈指、世界屈指の実力を持ちながら、チャンピオン・カーニバルではそれぞれの団体トップであるマイティ祐希子とサンダー龍子の前に敗れ去った、桜井千里と森嶋亜里沙。 *4b
しかし二人とも、この一年足らずでトップとの差を詰め、まずは団体No.2の座を手中に収められるかというところまで来ていた。
「…そんな評価も、関係ないわ…!」
中盤戦、先にギアを上げたのは森嶋だった。
大技・SSDから得意のパワー技をつなげて、団体トップの龍子をも倒した千里を翻弄する。
団体No.2が見えてきたとはいえ未だに祐希子、市ヶ谷に続くNo.3止まりの千里と、すでに先輩・フレイア鏡を超えて団体No.2になったと目され、トップの龍子を目標に定めた森嶋。 *5b
森嶋有利を唱える声は、その差を要因の一つに挙げていた。
だが、森嶋自身が「関係ない」と言ったように、リング上で全てを決めるのは相対的な評価の差ではなく、あくまで絶対的な力量だった。
「だから私は……練習の成果を出し切って、勝利を掴むのみ!」
土壇場で放たれた千里の掌底。 その一撃が、森嶋の動きを止めた。
そこから一気にエクスプロイダー、不知火、そして伝家の宝刀・ハイキックと、千里の勢いが止まらなくなった。
「…旗色が悪ければ、一時撤退も戦術のうち…!」
森嶋は一旦場外に逃れ、そこで再起を図ろうとしたのだが、
「みすみす立ち直らせるほど、私はお人よしではありません!」
未だ団体トップの龍子をシングルで倒せていない森嶋と、先日ついに祐希子に土をつけた千里。 *6b
千里有利を唱える声が挙げたその要因が勝負を分けたわけではないだろうが、場外でも森嶋にペースを握らせなかった千里が、リターン後のエクスプロイダーで勝利を決めたのだった。
第二戦最終試合は、17分58秒、桜井千里が IWWF世界ヘビー級王座七度目の防衛。
「オーッホッホッホ! よくやりましたわね、千里さん。 後はこの私にお任せなさい! あの下賎な海賊娘に引導を渡して WWPAのベルトを頂くと同時に、団体間の優劣というものも決定付けてあげましてよ!」
……と、市ヶ谷が意気込んで臨んだ第三戦、WWPAヘビー級王座戦は、市ヶ谷がカウント2.8を奪うまで王者を追い詰めたものの、最後はフェイスクラッシャーの前に力尽きた。
27分07秒、これも七度目となる、森嶋亜里沙の WWPAヘビー級王座防衛。
「……どうも最近、私の扱いがこんなのばかり、という不信感を拭えませんわね。
ぞんざいというか、ないがしろというか、とにかく不当な気がいたしますわ!」
という、誰に対するものかよく分からない市ヶ谷の愚痴を残して、スレイヤー・レスリングの 1月シリーズは、その半分までを消化したのだった。
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