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5年目2ndQ (7〜9月) Part2

《目次っぽいもの》
守るものの有無[WR]新女タイトルマッチ三連戦[SL]9月:WRERA三題[WR]注釈?



(もう少し。あと……一撃。あと一撃で……私は……) *1

勝てる。
この、至高の王者に。
自分の強さを、証明できる。
それなのに──

身体は、動かない。
恐ろしくスローに流れる風景の中で、自分の鼓動と息遣いだけが、ただ聞こえている。

混沌とした知覚の中、天与と称される腕を振り上げて向かってくる相手が見えた。
迎え撃たなければ……そう思う、その思考だけが空しく意識の壁をこだまする。

(あと一撃。一撃で……私は……)

身体は、動かない。
恐ろしくスローに流れる風景の中で、天与と称される腕が視界を埋める。

激しい衝撃を受け、全ては暗転し、落ちていく。奈落の底へと──

「──っ!!」

目が、覚めた。
暗い視界の中、天井と、いつの間にか伸ばしていた自分の両腕が、ぼんやりと見える。
小さく時を刻む秒針の音が響く、寮の自室。ベッドの上。
桜井千里は、ゆっくりと腕を下ろして、自らの視界を閉ざした。

「あと一撃で……私は……」

──負けた。

噛みしめられた、唇。 その唇から、それ以上の言葉が洩れることは無かった……。

WRERAのリングに舞い降りた至高の女神、クリス・モーガン。

IWWF、TWWA、TWWAタッグ。
三つの世界王座を保持する三冠王者は、四つめのベルトとして祐希子の NA王座を指定。その代わりに、と提示したのは、自らの持つ TWWA王座への挑戦権だった。 *2 TWWA

誰が相手でも構わない、と言い切る不遜な態度に色めき立つ選手たちから社長が挑戦者として挙げたのは、その中で最も冷静さを保っていた千里の名だった。

TWWA世界王座戦、クリス・モーガン VS 桜井千里。

8月興行の目玉とされたカードは、千里が王者モーガンにとことんまで食い下がる好勝負となったが、千里に奪い得たカウントは、惜しくも2.9まで。
最後は、“神の一撃”ポセイドンボンバーの前に、及ばず屈する結果となった。 *3

千里にとっては、市ヶ谷に敗れた先月のAAC王座戦に続く、二ヶ月連続でのベルト挑戦失敗となってしまったのである。 *4

「あ、千里さん。おはようございます!」

「おはようございます」

いつもより遅くジムに現れた千里が返した挨拶に、越後しのぶは目をしばたたかせた。
後輩ということもあり、いつもは会釈か「おはよう」までだ。
なにより、あまりに気の無い返事は、どうみても完全に条件反射的なものだった。

いつも気を張らせた先輩の意外な雰囲気に戸惑うしのぶを尻目に、千里は筋トレ用のコンビネーションマシンに座った。
いつもと変わらずテキパキと、しかし明らかに心ここにあらずという感じでウェイトを調整し、ストッパーを外す。そのままバーを握って──

「はい、ストップ。 そんな気の入れ方じゃ、怪我するわよん」

外したストッパーを元に戻した相手の顔を見て、千里はその名を声に乗せた。

「……祐希子さん」 ゆっこ

「おはよ、桜井ちゃん。 昨日のタイトルマッチ、惜しかったね。 でもいい試合だったじゃないの」

「祐希子さんは……」

「ん?」

「祐希子さんなら……惜しかった、で……満足するんですか?」

「……そうね。 満足しないわよね」

にこっ、あるいは、にぱっ、という表現がふさわしい笑顔で、祐希子は千里を見つめた。
千里もつられて笑い──こそしなかったが、無表情を、いくぶん穏やかな表情に変える。

そのまま、問われたわけでもなしに、千里は祐希子に話を始めた。
彼女には珍しいことだ。
それを知っているからこそ、祐希子は数分間、真摯に耳を傾け続けた。

「──実力以外の、クリス・モーガンとの差、かぁ。 世界三冠王者相手にして、勝てるはずって思えただけでも、大したもんだとは思うけどね」

「祐希子さんは……」

「はいはい、満足しません。実際に勝たないとね。 ま、勝負は時の運ってのも間違いないんだけど……」

その答えでは、千里は満足しないだろう。
そうなると、祐希子に思いつく答えは一つしかなかった。それをそのまま口にする。

「……ベルトを守る者の強さ、ですか?」

「そ。──って、そんなに嫌そうな顔、しないでってば」

千里の信条、あるいは座右の銘が『守るものがないから強くいられる』であることは、祐希子も知っている。だから、祐希子はもう少し突っ込んでみることにした。 *5

「桜井ちゃんの言うことも、わかるけどね。 でも、守るものを狙われるとかじゃなければ、『守るものがあるから負けられない』なーんて考え方もあるんじゃない?」

「……私には、そうは思えないんです。 戦い以外に、勝つこと以外に、守るものがある。 だから勝てなくてもいい、そんな言い訳に使ってしまう……そう思えるんです」

「──強さって一つじゃなくていいと思うけどね。 守るものがない強さもあって、守るものがある強さもある。 両方持ってた方がお得かなー、なんてのは、どう?」

似合わないと自覚しつつ語ってみた祐希子だったが、半ば予想通りに、千里は首を横に振った。 千里

「私は……そんなに器用にはなれません。
……祐希子さんは、そうなんですか?」

「へ? あたし?」

「祐希子さんは、強いです。 ベルトを持っている時も、それをいともあっさり奪られて、持っていない時も」

「……びみょーに胸に刺さること、言うわねー?」 *6

「祐希子さんには、守るものが、守りたいものがあるんですか?
だから……だから、そこまで強くなれたんでしょうか?」

「うーん、守りたいものねぇ。 どうだろ。 カレー……は違うよね。
団体のみんなとか、プライドとか、もちろんベルトとか、無いわけじゃないけど。
……あえて言うなら、約束かなぁ?」

「約束……ですか?」

「ま、ちゃんとした約束じゃないんだけどね。
昔、ある人と、いつかリングの上で戦ってやるって決めたことと、その人と別のある人に、いつか世界のトップに立ってみせるって宣言しちゃったこと。
その二つを守りたくて、強くなろうとしてたところはあるかな。 わかる?」 *7

「わかるような……いえ、やっぱり、よくわかりません」

「あら、残念。 でも、桜井ちゃんには、本当に守るもの無いの? 約束は、一つある気がするんだけどな」

「え?」

「入門したときに、言ってたこと。 あたしに借りを返すって話──忘れちゃったかな?」

「…………!」 *8

NA

翌月──9月。

マイティ祐希子 VS クリス・モーガンの NA世界無差別級王座戦は、王者マイティ祐希子が、クリス・モーガンをローリングクラッチホールドで破り、初防衛を果たした。 *9

世界三冠王者でもある“至高の王者”相手に完勝とも言えるこの試合は、祐希子の強さを際立たせるとともに、実力主義の世界王座を標榜する NA王座の価値を、世界に知らしめることになったのである。

「約束を守ろうとする強さ──か」

守ったベルトをリング上で掲げる祐希子をしばらく見つめてから、千里は小さく、しかし確かに首を横に振った。

「私にそんなものは……いらない」

そう、今は──まだ。




「NA世界タッグ王者の上原&RIKKA組が、負けた、だと!?」

「はい、社長。 遠征した新女で、パンサー理沙子&ソニックキャット組に。 NAタッグ王座戦ではなく、アジアタッグ王座戦ではありますが……完敗に近い内容だったそうです」 *10

8月、スレイヤーレスリングは、NA世界タッグ王者の二人を新日本女子に殴りこませた。 *11

団体非認定の実力制を唱える以上、狭い団体の中で争わせてはいられない。積極的に「外敵」とも戦っていく必要がある。
社長秘書の井上も、そう判断して行かせた殴り込みだったのだが……。

ASIA-T ASIA

「幸いにして、同じ顔合わせの NAタッグ王座戦では、RIKKA選手の無明蹴で勝ちをおさめたとのこと。 RIKKA選手はローズ・ヒューイットからアジアヘビーも奪取し、IWWF世界タッグと合わせ三冠王者にもなっております」 *12

「それは嬉しいことだがね。最強の存在であるはずの NAタッグ王者が、出だしでいきなりつまずいたのは、あまり嬉しい話ではないな」

「プロレス的演出としては、最後に勝ったものが強いということで、良い効果を上げたようですが。……戴冠により一時棚上げにしていた例の件、再開なさいますか?」

「上原くんの処遇検討……か。 まあ、そう性急に事を運ぶ必要もあるまい。 下手に動けば、スキャンダルの処罰などと勘ぐられかねんしな。そうだろう?」 *13

「おっしゃるとおりです」

NA-T

翌月、上原とRIKKAは、WWCAのダークスターカオス&ジュディ・コーディ組を相手に、NA世界タッグ王座を死守。 *14

あのカオス相手にRIKKAが互角以上に渡り合うなどの好材料もあり、NAタッグ王座の意義と権威も守られた試合であった。




9月の WRERAにおいては、前述した祐希子とモーガンの NA世界無差別級王座戦以外にも、いくつかの話題があった。 *15

まず第一に、メキシコ遠征防衛戦での、AACタッグ王者、ビューティ市ヶ谷&六角葉月組の敗戦。 *16

「負けて奪られたのではなく、のし付きで返上してさしあげたのですわ!」

という市ヶ谷の負け惜しみはともかく、これで葉月が無冠になってしまったことは、今後のタイトル戦線に小さくない影響を与える可能性があった。

AAC-J

第二は、ワールド女子への殴りこみで組まれた、テディキャット堀 VS 辻香澄の、AAC世界ジュニア戦。

順当に堀13度目の防衛成功で終わったのだが、それに要した時間はたったの 4分45秒。
タイトルマッチの最短記録を塗り替える結果となった。 *17

そして、第三は……

「にしょうよんじゅっぱいなんですよぉ〜。越後さぁん〜」

「はぁっ? いや、何言ってるのかわかんないよ、富沢」 富沢

「だから、私の戦績ですって! 今まで2勝しかしてないのに、ついに40敗の大台! 勝率5%切っちゃったんですよ!」

「ああ。 そういえば、この前はついに、武藤のやつにも負けてたね。あれが40敗目か」

「そうなんですよぉ! 一つ下、デビュー三ヶ月の後輩にまで負けちゃって……さすがに危機感なんです!」 *18

「いやまあ、試合前の“かってにハイライトレッスル”だっけ? あんなトークで怒らせてから試合したら、そりゃみんな意地でも勝ちに来るだろ? まずは、あれをやめたら?」 *19

「ううっ。あれはようやく見つけたマイポジションなんで……それ以外で何か、いい手を教えてください、越後さん!」

「練習」

「うううっ。それ以外で、何か……」

「特訓」

「ううううっ。越後さぁん!」 *20




*1久しぶりに『妄想補完SS』っぽいネタですが、4年目1Qと同様、全部本編として書いてしまうことにしました。今さらながら、お目汚し失礼。
*2TWWAとそのタッグ王座は、ワールド女子との提携時代に、メガライトたちから奪ってます。
*320分56秒で決着。評価値差は100ほど。低い方を操作すると、ちょうど良い勝負になるくらいの差です。
この試合も、かなりの激戦。最後にポセイドンボンバーで散った時は、管理人も本気で悔しかったです。
8月のWRERAは、堀一日署長、来島誕生日、鹿児島グッズショップ設立、堀のAACジュニア12度目の防衛(vsコリィ。16分13秒、ノーザンライトS)、などがありました。
*4AAC世界ヘビーに挑戦するも、19分12秒、パワースラムで市ヶ谷七度目の防衛を許してます。
*5この辺は、長文承知で桜井&ゆっこに語らせてみてます。まあ、ゆっこさんは「V3」でもけっこう語るキャラしてますけど。
*6AACは市ヶ谷にWWCAは海外遠征時に、あっさり取られてるゆっこさんです。
…書いてて、NAベルトも龍子あたりにあっさり奪られるんじゃないかという気がしてきました。
*7妄想補完その13年目3Q、そして4年目2Q、あたりの話です。
*8良かったら、1年目4Q妄想補完その5、をご覧下さい。
*917分57秒、ローリングクラッチホールドでゆっこの勝利。楽勝とは言えませんが、もはやそう簡単に不覚は取らない実力のゆっこさんです。
*10アジアタッグ奪取の大チャンスは、まさかの返り討ち。しかも圧倒的敗北。
上原、RIKKAとも飛び技キャラなのに、飛カードが全く来ず、必殺カードも出ないのではさすがにつらいです。
*118月のスレイヤーは、ワールド女子から南、北条、滝が参戦。
森嶋のプライベートイベントその2も発生してますが…ちょっと社長、森嶋へのその対応はヒドすぎるんじゃあ?
また、龍子がカオス相手にスレイヤー無差別級四度目の防衛(19分30秒、STO)を、石川が南相手に EWA王座四度目の防衛(11分30秒、ヘッドシザースホイップ)を果たしてます。
*12実は、NAタッグ王座戦は間違えて否観戦してしまいました。勝ったからいいようなものの…。
一応、25分40秒、無明蹴での決着だそうです。
アジアヘビーは、ヒューイット怒涛の攻めで体力30%(ヒューイットは80%)まで削られますが、必殺の無明蹴を皮切りに反撃。最後は13分34秒、サソリ固めでギブアップ奪ってます。
*134年目2Q5年目1Qなど、水面下でこっそり上原の「引き際」を検討しているスレイヤー社長&ダーク霧子さんです。
*1425分00秒、RIKKAがコーディに不知火で勝利。
9月のスレイヤーは、龍子戦争映画(お断り)、桜崎ホラー映画(お断り)、石川CD(「すごい」売れ行き)、森嶋CD(「すごい」売れ行き)、RIKKAプライベートイベントその2、がありました。石川と森嶋…デュオでも組む?
*159月のWRERAイベントとしては、桜井FC、めぐみFC、めぐみCD(お断り)、がありました。
*16例によって例の如くの、アウェー効果
*17辻にどうやって勝たせろと? > ワールド女子
評価値1000に達した堀に、評価値477の辻を挑ませることもないでしょうに…
*18まだ評価値は50以上富沢が上ですが、逆に言えばすでに50ほどしか差がない状態。さすがは資質Sのめぐみ (と、資質Dの富沢)。ちなみに、富沢の戦績は個人戦のものです。
*194年目4Qをご参照ください。
*20とりあえずこの月は、特訓させてます。
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