《カウント3つ、入ったぁ! マイティ祐希子、痛む足を引きずりながらのWWCA世界王座防衛! 挑戦者の場外ラビリンス・スリーパー2発にあわやのシーンもありましたが、最後はフェイスクラッシャーで辛くも勝利! 六角葉月、後輩相手に惜しくも敗れ去りました!》 *6
11月のWRERA巡業、第五戦メインのマイティ祐希子 VS 六角葉月のWWCA王座戦は、祐希子による三度目の防衛で、その幕を閉じた。
敗れた葉月は、ビューティ市ヶ谷に挑んだ前月のAACヘビーに続く、タイトル戦二連敗。 *7
試合後、退場した葉月の、唇を噛みしめ思いつめた顔つきに何を感じたか、一人のレスラーが彼女の控室へと足を運んだ──
「ハヅキ」
「おや? どうしたい、カオス。 お前さんがわざわざこっちの控室に来るなんて、珍しいね」
呼びかけに応えた葉月の声音は、いつも通りに聞こえた。
頭からタオルをかぶっているものの、その表情も普段の柔和な微笑みに見える。
「元気そう……だな」
「おかげさまでね。 あ、ひょっとして、私ゃを励ましにきてくれたとか? あははは、似合わない気の遣い方だねぇ」
「……後輩に二連敗。落ち込んでいると思ったのは、事実だ」
「くはっ、はっきり言うねぇ。 ま、どっちもあんたに勝った後輩だからね。一筋縄でいくはずないさ。ただ……」
乗せたタオルで、がしがしと擦るように頭を拭く葉月。 その口元は笑っていたが、それ以外の表情は、ダークスターカオスから見えなかった。
「……正直。本気になりゃ、私が勝てるって思ってた。 だから、ちょっとだけ悔しいかな。ちょっとだけね……」 *8
「ハヅキ……?」
「おいおい? なんて顔してんだい……って、マスクで見えないか。こりゃ失礼」
タオルを取った葉月は、いつも通りの葉月に戻っていた。
いや、あるいは、変わったことなど一度もなく、ずっといつも通りだったのかもしれない。
「あんたも、頑張んなよ。 市ヶ谷のAACはわかんないけど、次のWWCA王座戦は、あんたが挑戦者のはずだからね」
「お前こそな。 今度のAACタッグ戦……後輩相手に三連敗など、格好がつかんぞ」
「そうだねぇ。そうなったら、引き際かな?」
「……っ!」
「冗談だってば」
11月最終戦のメインは、AACタッグ王座戦。
葉月&市ヶ谷組に一年半ぶりの挑戦状を叩きつけたのは、祐希子と来島の親友タッグだった。
「あなたなど、ものの数ではありませんわ!」
AACヘビーでカオス、葉月の挑戦を退けた市ヶ谷にとって、祐希子はともかく来島など鎧袖一触──のはずが、このマッチアップは来島の圧倒的優位に進んだ。 *9
「へんっ! どうだ、なめてんじゃねーぞ、市ヶ谷!」
「くっ……そっちこそ、なめるんじゃありませんことよ!」
場外に引きずり出してのビューティボムで来島を黙らせ、かろうじて葉月に交替。
葉月は大技・デスバレーボムや関節技で挑戦者組を苦しめるが、親友タッグは息のあった連携を見せ、フォールを許さない。
逆に、ナパームラリアット、ノーザンライトスープレックスといった技で王者組を追い込んでいくが……そこで、ワガママなお嬢様がついにブチ切れた。
「本っ気を出してさしあげますわっ!!」
祐希子からタッチを受けた来島に踊りかかり、バックフリップ、裏投げ、そしてパワースラム。そして最後は、
「葉月さん!」
「おうさ!」
この二人のタッグには珍しい連携技、ダブルパワーボムが、ケガの影響で一瞬遅れた祐希子のカットを間に合わせずに、来島を沈めた。
59分28秒、時間切れ直前での王者組勝利。 *10
「ふぅ。いろいろと疲れた疲れた。一仕事、終わりっと」
葉月は、何かを吹っ切ったように、一つ大きく伸びをした。
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