(デビュー前に会ったあの子が……。 ふふっ、月日の経つのは早いものね……)
新女 7月興行の目玉は、単身殴りこんできた王者マイティ祐希子が自ら希望した、パンサー理沙子とのWWCAタイトルマッチ。
1月の一騎討ちでは、ほぼ互角の展開の末に祐希子が勝利。
しかし、理沙子は、敗れてなお強し、の印象を観客にも祐希子にも残していた。
「理沙子さん……ずいぶんと、落ち着いてますね。
ひょっとして、あたしなんか眼中に無い、なんて思ってます?」
「あら、そんなに尊大に見える? ただ、逆ならまだしも、この展開は予想していなかったわ。
──まさか、あなたの持つベルトに、私が挑戦することになるなんてね?」
ゴングが鳴った。
負けられない。ベルトの重みゆえか序盤を慎重に動こうとする祐希子に対し、理沙子は最初から激しく打って出た。
“リングの女王”、パンサー理沙子には似つかわしくない、しかし、挑戦者としてはこの上なくピタリとはまった戦い方。
「私もね……最初から“女王”だったわけじゃないのよ!?」
激しいラッシュから、得意技の一つ、裏投げに繋げ、早々に試合を決めようとする理沙子。超満員の観客席からも、熱いコールやチャントが理沙子の背中を押す。 *7
ここは、新日本女子のホームグラウンドなのだ。
「次は飛ぶの? 投げるの? それとも……もう終わりかしら?」
「へへっ……こうでなくっちゃ。 こうでなくっちゃ、あなたを倒す意味、無いもんね!」
吹っ切れたように笑った祐希子は、彼女本来の戦い方──炎を思わせる熱い闘いぶりに軌道を修正。
理沙子を迎え撃つのではなく、挑むように向かっていく。
「私の全身全霊の炎、受けてみなさい!!」
マットに荒れ狂う、祐希子必殺のJOサイクロン。
観客の悲鳴の中、何とか2.5で肩を上げる理沙子。
だが、祐希子は決して詰めの甘いレスラーではない。 そのままフィニッシュに向けての組み立てを計るが……
「まだよ……。 まだ、終わりじゃないわ……っ」 *8
フェイスクラッシャー、シャイニングウィザード、ノーザンライトスープレックス……祐希子の絶え間ない攻めをニアフォールとロープブレイクで耐え凌ぐと、理沙子はついに、息をついた祐希子の隙を捉えた。
「強い者が勝つ! ただ、それだけなのよ!」
危険な角度からの裏投げに、逆転勝利を信じて立ち上がる観客。 しかし、祐希子も決して譲れないものを持ってリングに上がっている。
「あたしは勝つんだ……そう約束したんだから!」
ロープを掴んでカウントを止めると、続く理沙子の代名詞、キャプチュードをキックアウトし、フェイスクラッシャーからムーンサルトプレスに繋ぐ。
それでも理沙子は連続2.9カウントで望みをつなぐが、最後は祐希子渾身のシャイニングウィザードが、理沙子の意識を勝利ともども奪い去った。
27分49秒、マイティ祐希子、WWCA王座初防衛に成功──。
「負けたわ、祐希子」
「理沙子さん。あたし、あの……」
感謝、決意、喜び、達成感。その何かを告げようとした祐希子の口を、理沙子は、そっと添えた人差し指一本で止めた。
「何も言わないで。 だけど、一つだけ約束してくれない?
このまま立ち止まらないで、誰も追いつけないくらいに前に前に進んでいくって。 ね、祐希子?」 *9
「……わかりました。やってみせますよ。 あたし、約束は必ず守る主義ですから!」
|