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4年目1stQ (4〜6月) Part2

《目次っぽいもの》
WWCA王座戦:祐希子とカオスカオスと葉月千里と来島来島と葉月[WR]注釈?



(──あたしが、甘かった。 ここまで差があったなんて……)

観客の声援は、すでに悲鳴に変わっている。
パワーボム、バックフリップ、サッカーボールキック……ダークスターカオスが容赦無く祐希子へと下す鉄槌に、中盤までの互角な展開を覚えている者はもう一人もいない。

(勝ちたいよ。 負けたくないよ。 でも、勝てない……今のあたしじゃ、こいつには……)

とどめとばかりに、ラリアット──カオス必殺のダークスターハンマーが、祐希子を文字通りに弾き飛ばす。
ゴムまりのようにマットを跳ねた身体が、まだ何とかカウントに反応して肩を上げられるのが、祐希子自身にも不思議だった。

(──悔しいなぁ……。 あたし、もっともっと、強くならなきゃ……)

ふらふらと立ち上がった祐希子の眼前に、黒い巨体が迫り──

祐希子の意識は、そこで、ぷっつりと、途切れた。

WWCA

5月のWRERA巡業。最終日のメインは、マイティ祐希子の希望が叶ったWWCA王座戦。

王者カオスにも、祐希子のセンスとスピードは通用した。
15分を過ぎる頃には、ムーンサルトプレスや新技・JOサイクロンも決まり、観客を大いに沸かせる。

しかし、王者のパワーと頑健さは、祐希子の想像を遥かに凌駕していた。
全てが無効と思わせる体力と、全てを覆す一撃。 *1
絶望が祐希子と、そして観客の意識を覆い尽くしてから数分の後……試合は終わった。

──耳をつんざくばかりの大音響と、真っ白なカクテルライトの光。
意識を取り戻した祐希子が初めて知覚したのは、その二つだった。

(……そっか。あたし、負けたんだ……)

ロープに上半身をもたせかけ、放心した祐希子の視界に、大きな影が差す。
こちらに向かって手を差し出すカオスの姿だと気付いたのは、たっぷり二秒が経ってからだった。

(へえ……敗者へのいたわりなんて、意外と優しいじゃない……)

半ば無意識に差し出した腕を、ぐいと掴まれ、強引に立たされた。
さらにそのまま、腕が高く突き上げさせられる。祐希子の腕が。

(…………え?)

そこで初めて、祐希子は気が付いた。
自らを取り巻く、万雷の拍手。 そして、会場中に響き渡る、興奮しきったアナウンサーの声。

《信じられない、信じられません! マイティ祐希子、あの、あのダークスターカオスから、WWCA世界ヘビー級王座を奪ってみせましたあっ!
AAC世界ヘビーに続き、今回も初挑戦、大逆転での王者襲名! さしものマイティ祐希子も、自分の果たした偉業の大きさに、ただ呆然とするしかない様子です!》 *2

「……違う……」

祐希子の呟きに、傍らで腕を取って勝者を称えるカオスが、訝しげな視線を向けた時。 市ヶ谷

「オーッホッホッホ! AAC世界ヘビーの時と同じ? それなら、今度も私があっっさりと奪ってさしあげますわ!」

会場のメインスクリーンにアップで映し出されたのは、言わずと知れた、ビューティ市ヶ谷の挑発的な美貌だった──。




「隣、いいか?」

かけられた声に振り向く前から、六角葉月には、相手が誰か分かっていたのかもしれない。

「いいよ。ちょっと狭いけどさ」

しれっと承諾した葉月に応じて、最初の声の主は少し窮屈そうにのれんをくぐった。
夜の屋台に突如出現した不気味なマスク姿を見て、ラーメン屋の親父が固まる。 *3

あんぐりと口を空けたその姿をまるで気にせず葉月の隣に座ると、ダークスターカオスは人差し指を立てて言った。

「オヤジ。とんこつ、麺バリカタ、背脂多め。辛ネギ追加だ」

どうやら、慣れているらしかった。

マイティ祐希子が、奇跡的な大逆転でカオスからベルトを奪った試合の後。

まずビューティ市ヶ谷が、祐希子のWWCA王座への挑戦を表明。
それに割って入ったカオスが、前王者のコンテンダー権利を主張。
そのカオスに、市ヶ谷は自らの持つAAC王座への挑戦をうながした。

これにより、WRERAを舞台に、カオス、市ヶ谷、祐希子の三人が、二つの世界ベルトを巡って争う、という構図が描かれたのである。

六角

「しっかし、あの展開で、あんたが負けるなんてねえ。 油断しすぎたんじゃないのかい?」

「いや……」

おちょこ片手にからかう葉月に、カオスは口に運んだ蓮華を置いて答えた。 口調は真剣だ。

「ユキコは、強いさ。 油断でもミスでもない。 あれは私の負けだ」

「そうかい? 本人は、悔しがってたけどねぇ。 勝った気がしない、むしろ負けてた。 運と偶然と本能だけで拾った勝ちじゃ喜べない……てさ」

「フフフッ……だからこそ、強いのさ」

そう言って箸を取り、麺をすするカオス。 箸の持ち方に少々クセはあるが、使うのに不自由は無いようだった。

「ところで、ハヅキはどうするんだ?」

「うん? 私がどうするって?」

「とぼけるものだな。 ユキコとイチガヤ、後輩二人が世界を争っている……何も感じないのか?」

「あははは。 そーゆーのは、今さら重いっていうか、ガラじゃないっていうか」

ひらひらと手を振って済ませようとする葉月だったが、カオスに無言で見つめられて動きを止めた。 居心地悪そうに肩をすくめる。

「麺がのびちまうよ、カオス?」

「食べている。 だから、話せ」

「はいはい。 けど、話せっていわれても、結構本音なんだわ。 ま、社長は、祐希子の後に私ゃが挑戦、てなつもりだったようだけど。 ほら、祐希子が誰かさんに勝っちゃったしねぇ」 *4

「……そうか。 悪かったな」

「いやいや」

「その罪滅ぼしというわけではないが、第一挑戦者はお前で予約だ。 楽しみにしていろ」

「予約?」

「じきに私が取る、AAC世界王座のな。 すぐにでも挑戦してくるといい。──待っているぞ」




来島

「あれ、千里。 こんな時間からロードワークか?」 *5

寮のロビー──というほど大層なものではないが──でスポーツ新聞を広げていたボンバー来島は、練習着姿で現れた後輩、桜井千里に声をかけた。
日はもうとっくに暮れている。

「はい。 もう一汗流そうかと。 ……その記事、祐希子さんですか?」

「ああ。 あいつは、やっぱ凄えよ。 あのカオスに勝っちまうんだもんな。 へへ、俺らも頑張らねーと。 なぁ、千里?」

「……来島さんは、このまま行く気ですか?」

「へ? 俺は、ロードワークには行かねーよ」

「違います。 今のスタイルのまま、これからも頑張る気なんですか?」

「……どういう意味だよ?」

聞き捨てならないと思ったのだろう。 たちまち、来島の声が剣呑な色に染まる。
それを知ってか知らずか、千里は表情を変えずに言葉を紡いだ。

「来島さんのパワーは、大したものです。 市ヶ谷さんやカオスさんにも引けは取っていません。 でも、二人はパワー以外にも凄いものを持っている……来島さんには、それがありません」

「……っ!!」

「中堅どころに甘んじるならいいでしょう。 ですが、もっと上を狙う気でしたら、スタイルを考え直すべきだと思います。 今のままでは……到底、世界は狙えません」

「千里っ!!」 桜井

大きな音が部屋を揺るがした。

立ち上がった来島の手が、壁際に立つ千里の顔をかすめて壁を軋ませても、千里はまばたき一つしない。
それがなおさら、来島の癇に障った。

「大した批評家ぶりだな。ええ、おいっ? この前の試合、そんな女のパワーに叩きのめされたのは、どこのどいつだよ!?」 *6

「私です。もう一度やっても、多分結果は同じですね。 今の私は、あなたに勝てないでしょう」

来島が怒りを一瞬忘れるほど、あっさりとした敗北の宣言。
しかし千里は、再び「ですが」と続けた。

「ですが、私はもっと強くなります。なれるはずです。 私には、守るべきスタイルも、守るべき意地もありませんから……だから、強くなれるんです」

来島をたじろがせたのは、千里の発した言葉ではなかった。
ただ真っ直ぐな、その瞳。

確固たる想いに支えられたその瞳が、来島をただ真っ直ぐに見つめていた。

「私は、もっと、もっと強くなります。 なってみせる。 ……来島さんは、どうするんですか?」




酔い覚ましに汗でも流そうと、夜更けのジムにやってきた葉月は、一心不乱にトレーニング器具と格闘する来島の姿に、目を丸くした。

「こんな時間に、なにやってんだい? オーバーワークは身体に悪いよ」 六角

「葉月さん……」

「おっ、その顔は、何か悩んでる顔だね? 悩め悩め、若人よ。 見ている私ゃは、楽しいぞ♪」

明らかにからかう様子の葉月だったが、一転して親身な態度を見せるという緩急の使い分けで、巧みに来島から事情を聞き出すことに成功する。
ただ、来島も、相手が千里だということだけは言わなかった。

「つーわけなんすよ。 そいつの言葉で、筋肉ばっかり鍛えてても世界に通用しないのかって、不安になっちまって……」 *7

「……それ言ったの、赤いリボン付けた長髪の自信家でクールだけど根は優しい女の子、だったりしないかい?」 *8

「……誰すか、それ?」

「いや……誰だろね。なんか、見たことない子が頭に浮かんじゃってさ。 ま、それはさておき」

葉月は、来島の使っていた器具を眺めた。 いくつかあったが、どれも筋トレ用のものだ。

「不安になったってわりには、やっぱり筋肉を鍛えてんだね」

「……まあ、結局のとこ、俺にはこれしかないんで……」

「なんだ、答えは出てんじゃない。 いいんじゃないの? それで。 無理矢理スタイル変えたって、強くなれる保証無いんだしさ」

「いや、でも。 あいつの言うことも一理あるよなって……」

「あんたは、どんなプロレスが好きなんだい?」

「!」

「プロレスに正解なんて無いんだよ、来島。 近道も、必勝法もね。 だったら、自分のやりたいようにやらないと損だろ? もう一度聞くよ──あんたは、どんなプロレスをやりたいんだい?」

「葉月さん……!」 来島

「おっと。 いい顔だ。 今度こそ、答えは出たかな?」

「うっす! 出ました! ありがとうございます! 俺……もっともっと身体鍛えて、そいつを見返してやりますよ!」

うおお、と声まで出して、筋トレを再開する来島。

その姿に頼もしいような呆れたような複雑な笑顔を向けてから、葉月は目の前に自分の両手を持ってきた。
強く握る。震えているのがわかった。

「ガラじゃないやね。 それはわかってんだけど……」

最近は、いや、ここ数年もの間、忘れていた。 熱い血の滾りというものを。

「久しぶりに、やってみようかねぇ?」

葉月は、ニヤリと笑った。 ここ数年は、誰にも見せたことのない笑みだった。




*1評価値差は150以上で、無謀ぎみ。カオスの必殺カード(パワーボム)を受けで凌いだりもしましたが、ゆっこの必殺カード2発(ムーンサルト、JOサイクロン)も効果がいまいち。さすが体力530+頑健のカオスです。
*224分59秒、フェイスクラッシャーでゆっこがWWCA奪取。
ダークスターハンマーで体力ゼロも、何とか2.8。アンクルホールドもロープで凌ぎ、フェイスクラッシャー×2で、カオスの体力20%を削りきっての逆転勝利でした。
…と書くと、それなりに劇的ですが、普段は凄い粘りを見せるカオスがあっさり3カウントもらったこともあって、AAC奪取の時と違い「単なる運で勝っちゃった」感が強く、むしろ後悔めいた感情に襲われました。
というわけで、勝利を素直に喜べないゆっこの姿は、プレイヤーの意識を反映させてます。
*3屋台でラーメン&お酒をたしなむ六角さんは、プライベートイベントより拝借(CGも)。
カオスの登場はもちろん妄想です(ラーメンの好みも)。
*4WRERA社長は、市ヶ谷や祐希子には「世界の壁の厚さを知ってほしい」と思っていた…という妄想設定。
プレイヤー視点でも、市ヶ谷とゆっこはまだカオスには勝てないと思っていたので、WWCA奪取の本命は六角でした。
*5この辺は、久々に『妄想補完SS』書いてみようかと思ったものの、結局は全部本編として書いてしまうことにしました。
*64月に観戦した来島VS桜井(桜井を操作)で、来島に開幕から「パ」カードが 9ターン連続(←途中から数えてみました)で出るという乱数のいたずらが…勝てるわけありません。
*7ここの話は、来島のプライベートイベント(6月に発生)につながる展開をイメージしてます。
*8来島イベントの「世界に通用しないとか俺のことバカにするヤツが…」といった来島のセリフを聞いた時、葉月に言わせた「赤いリボン付けた長髪の自信家でクールだけど根は優しい女の子」の姿を思い浮かべてしまいました…
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