「WRERAのドーム興行が成功の見込み……か。 忌々しいが、どうやら先を越されたようだな、井上くん」
「はい、社長。我がスレイヤー・レスリングこそ、その名を刻むことになると思っていたのですが……やはり、WRERAは侮れない相手でした」
市ヶ谷の大胆宣言と、彼女とカオスとのWWCA王座戦が大きな話題を集めた、WRERAの3月巡業最終戦。 *16
WRERAの社長は、女子プロレス界初のドーム興行として、本拠地・西北海道のどさんこドームにおける開催を決意する。
思惑が外れれば、大きな損害を出す可能性もあったが、発表の時点から予約が殺到。最終的には、国内最高の55,000席を札止めにする成功を収めた。 *17
後は、市ヶ谷がカオスを破って「世界王座統一伝説・第一章」の幕を開けることができるのか、という一点に、団体内外の注目が集まったのだが……
《ダークスターカオス、WWCA世界王座防衛!! AAC世界王者の誇りを込めたビューティボムで、あわやというところまで追い詰めた市ヶ谷でしたが、やはりカオスは強かった! 最後は、裏拳一発で挑戦者の意識を根こそぎ刈り取ってしまいましたっ!》 *18
「フッフッフ……お前は最初からノーチャンスだった。それだけのことだ……」
市ヶ谷が弱いわけではない。ただ、カオスが強すぎる。
その強さに畏怖を覚えたか静まり返るドームに、ただカオスの冷静な声のみが響いた。
「次は、私がAACのベルトに挑戦させてもらおうか。フフフッ……王座統一などに興味はないが、二冠王者には簡単になれそうだ……」
「──その前に、今度はあたしと勝負してくれない?」
《おおっと、選手が一人リングの中へ……あれは、マイティ祐希子です! 前AAC王者のプライドが触発されたか!? マイティ祐希子、王者カオスの前に立ちはだかったぁ!》
「……なんだ? ガールはもうベッドで寝る時間じゃないのか? それとも、子守唄でも歌って欲しいのかな?」 *19
「言ってくれるじゃない。でも、あなたがそう言えるほど強いってのも確かよね」
祐希子は、カオスの眼前に立った。マイクは持っていない。
観客へのパフォーマンスや興行のアングルではなく、彼女はただ、カオスと一対一の話をしにきたのだった。
「別に、前AAC王者だとかは関係ないの。それだけ強いあなたと、ベルトを賭けて真剣勝負をしてみたいってだけなんだ。ただ、残念ながらあたしはベルトを持ってないから、あなたのしか無いんだけど……ダメかな?」
「ハハハッ、ジャパニーズは控えめだと聞いていたが、どいつもこいつもカミカゼだな。いいだろう。ユーでもハヅキでも、誰でも挑んでくるがいい。私の勝ちという結果は変わらないがな」
「へへへ、ありがと。退屈させないことだけは、保証してあげるわよ?」
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