──夕陽が、全てを紅く染めている。
空も、海も、真っ白な砂が敷きつめられた海岸も。そして、そこに佇んだ、一人の少女も。
「……レスラーになる前のあたしは、何も無いまま喧嘩ばっかりしてた。 それがあの時、理沙子さんと社長に会って、初めて手に入れたって気がするの」 *16
「手に入れた、って……?」
「──戦う理由。あたしの中にある熱いものを、正しく燃やしてくれる何か。 なんて名前なのかは、まだわからないけど…… それがあたしに、明日のあたしを信じさせてくれるんだ」
潮の香りが優しく吹き抜けて、祐希子の髪を幾本か踊らせる。
その髪を追うかのように振り向いた祐希子の表情が、社長を見つめて笑顔に変わった。
「だから……あたし、頑張るよ! 必ず、世界のトップに立ってみせるからね!」
夕陽を浴びてきらきらと輝く波打ち際で、その姿は逆光に映え──
社長は、素直に祐希子のことを美しいと感じていた。
──年の瀬恒例、EXタッグリーグ戦。
設立三年目にして初出場を表明したWRERA女子プロレスの社長は、団体挙げてのバカンスから戻ってすぐ、登録選手をどうするかの相談を、団体トップの六角葉月に持ちかけた。
「EXタッグのパートナーを選べって? ……ふーん、私が決めちまっていいのかな? 社長?」
「……なんだ、六角? そのニヤニヤした笑顔は」
「いやいや。社長には意中の人がいらっしゃるんじゃないかと思いましてね」
「妙な言い回しはやめてくれ。まあ、希望が無いと言えば嘘になるんだが」
「ご希望通り、祐希子でいいよ。もともと、そのつもりだったからさ」
「……話が早いな。どうしてこっちの希望を──いや、どうして祐希子なんだ?」
「さあね。社長と一緒じゃないかな? チーム名は『パンサー理沙子に会いに行こうタッグ』ってとこで。 ……あ、市ヶ谷のお嬢が怒るかもしんないから、フォローはよろしく。仮にも、AACタッグでは私ゃのパートナー様だからね」 *17
一方。
昨年、初出場にして栄冠を勝ち取ったスレイヤー・レスリングは、今年も当然、上原&龍子の優勝タッグでEXタッグリーグに臨むと見られていたのだが……
EXタッグリーグ参加チーム |
パンサー理沙子&菊池理宇 | 新日本女子 |
八島静香&ドルフィン早瀬 | 新日本女子 |
ミミ吉原&斉藤彰子 | 新日本女子 |
ソニックキャット&フォクシー真帆 | 新日本女子 |
十六夜美響&神楽紫苑 | ワールド女子 |
ガルム小鳥遊&オーガ朝比奈 | 日本海女子 |
サンダー龍子&石川涼美 | スレイヤー |
六角葉月&マイティ祐希子 | WRERA |
「えーっ! スレイヤーのタッグ、去年と違うじゃない。あーあ、上原さんとも戦ってみたかったのにぃ」 *18
「それは私も同意見さ。でも祐希子、今年の二人も侮れないよ? なんせEWA王者とWWPA王者のタッグ。しかも噂じゃ親友同士だっていうしね」 *19
「侮ったりはしてませんけど……ほら、上原さんもそれなりのお歳ですから。引退とかされちゃわないうちに、お手合わせしときたいなーって」
「……理沙子と私ゃも同い年なんだけど。わかってて言ってるかい?」
「へへへ。冗談ですって、葉月さん」
「いいけどね。しっかしまあ、理沙子のパートナーも意外だねえ。菊池理宇……ジュニアの若手ってことしか知らないよ」
「あたし、知ってますよ。えへへへっ」 *20
「……なに、面白い顔してんだい?」
参加した各チームがそれぞれの思いとドラマを持って戦うがゆえに、どの試合も白熱する EXタッグリーグ。 *21
この年も熱戦が繰り広げられた結果、最後はWRERAの葉月&祐希子組が、スレイヤーの龍子&石川組との全勝対決を制し、昨年のスレイヤーに続く、団体初出場での初優勝を決めた。 *22
「ふー……しんどかった。ま、今回は、てっぺんもらっとくよ」
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