11月。 *a1
WRERAで行なわれたタイトルマッチは、自称を含めて全四戦。
それらはいずれも、最終日のしゃちほこドーム興行にてとり行われた。
「ま、こいつは楽勝ってとこだな。
最初っから負ける気がしなかったぜ」
一つめのタイトルマッチは、村上千秋 VS ディアナ・ライアルの WWPAジュニア王座戦。
「叛乱だのチーム分けだのめんどくせぇ。 ま、ここなら干渉されずに好き勝手できんだろ」というだけの理由で千里と龍子のチームに入った千秋は、もとより“叛乱劇”などどこ吹く風。
だが、王者として臨んだこの試合では、今の『WRERAのジュニア最強』は堀ではなく自分だと主張するかの如き見事な戦いぶりで、まさしく圧勝。
ヘビー級戦線でも通用する力をつけてきたディアナを全く寄せ付けない貫禄の勝利を挙げて、順当に八度目の防衛を成し遂げたのだった。
「……やられたよ、来島。
はっきり言うと、私が勝てる試合だって思ってた。
あんたは最近、調子が出てないって聞いてたしさ。
けど、そんな甘い気持ちで勝てる相手でも、獲れるベルトでも、なかったってことだね……」
タイトルマッチの順番としては三つめにあたる GWA世界王座戦は、王者・ボンバー来島と挑戦者・サンダー龍子の一戦。
前月の NA王座戦では祐希子と互角の勝負をした龍子にとって、力の衰えも指摘されている来島は、組みし易い相手のはずだった。 *a2
しかし、GWAのベルトは、スレイヤー時代から何度と無く挑戦しては跳ね返されてきた、龍子の「鬼門」。 *a3
この試合でも、ドラゴンスープレックスでカウント2.9、ドラゴンスリーパーでギブアップ寸前に追い込むなど勝利にあと一歩のところまで試合を優位に進めながら、最後は来島の裏拳をまともに喰らい、敗北を喫したのである。
「……さすがですね、祐希子さん。
最後はもう、ダメだって思いました。
私……どうやって勝ったのか、覚えてませんよ」
「あはは、それでも、勝ったのはあんたよ、めぐみ。
油断も手加減もなーんにも無しで、私はあんたに勝てなかった。
次の NA王座戦……王者としてあんたと戦えること、楽しみにしてるわよ!」
四つめのタイトルマッチは、メインイベントの NJWP王座戦。
武藤めぐみにとっては、挑戦者・マイティ祐希子の持つ NA世界無差別級王座への挑戦権をも賭けた、二つの意味で負けられない試合であった。
試合は、一進一退の攻防から、めぐみ得意のフライングニールキックをかわした祐希子が 必殺の JOサイクロンを炸裂。
しかし、めぐみはその大技をカウント2.8で返し、続くエクスプロイダーまでも耐え切ると、半ば無意識のニーリフトを叩き込んだ。
彼女は、祐希子からカウント3を奪うとともに、ついに“実力世界最強”の称号への挑戦権をも手にしたのである。
そして、もう一つ。
あくまで非公式ではあるが、一応は二つめのタイトルマッチとされた試合では、まさに大波乱の結末が待っていた。
「あ、あ、あ……ありえませんわ!
どういうことですの、なんですの、これは!
やり直しを要求いたしますわ!!」
「わ、私はノーコメントっ!
ちょっとしばらく身を隠すから、あとはよろしくね、社長!」
前回、クルス・モーガンを相手にまさかの「防衛」を遂げた、自称 TTT王者・富沢。
悪ノリした彼女が、今月の TTT王座防衛戦の相手に冗談半分で指名してみたのは、恐れ多くも……というより、非常に恐ろしいことに、あのビューティ市ヶ谷だった。
「ストレス発散にはちょうど良いですわね!」
という一言で市ヶ谷があっさりと受諾してからは、富沢のもとにお悔やみの言葉が多数届いたものだったが、いざ始まった試合では、わずか 5分で限界まで追い込まれた富沢が、そこでまさかの「覚醒」(確変?)。
フランケンシュタイナー二連発で市ヶ谷の額を割ったのを皮切りに、市ヶ谷のビューティボムをリバースすると、トラースキックからノーザンライトボムに繋げて、カウント3。
まさかのスーパーミラクル大逆転ウルトラサヨナラ下克上勝利をあげてしまったのである。 *a4
「………………」
試合後、すぐに富沢が逃亡してしまったこともあって、市ヶ谷はストレス発散どころかさらなるストレスを眉間の皺に刻み込んで、不気味な沈黙を守ったまま、リングを去ったのであった。
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